薬剤疫学的安全性情報の情報収集に関する調査研究

文献情報

文献番号
201427038A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤疫学的安全性情報の情報収集に関する調査研究
課題番号
H25-医薬-指定-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 友孝(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 好規(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 松田 勉(山形大学大学院 医学系研究科)
  • 石川 ベンジャミン光一(国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部)
  • 松村 泰志(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤疫学的な安全性情報の収集・評価に関する手法の開発を目的として、抗がん剤を例として、我が国における重篤な有害事象の発生頻度を計測する仕組みについて検討する。さらに、我が国における抗がん剤使用の実態とそれに関連する有害事象の発生頻度を明らかにすることを目的とする。
研究方法
抗がん剤を例として、抗がん剤使用者数を推計し、それぞれにおける有害事象発生率を当てはめて、全国の件数を推定するための具体的方法を検討した。その際、①有害事象発生頻度、②抗がん剤使用頻度、③患者数の3つを、計測すべき指標として想定した。
大阪大学医学部附属病院(阪大病院)と名古屋大学医学部附属病院(名大病院)において、単剤あたりの有害事象発生頻度の測定を試みた。また、重篤な有害事象として、死亡イベントに対する抗がん剤投与の調査を行った。
有害事象発生頻度について、もう1つの情報源として、再審査期間中に企業により実施された使用成績調査等の安全性データ(公開情報)を用い検討した。
大阪大学病院および名古屋大学病院において使用抗がん剤別に計測された有害事象発生率を用いて、DPC施設における当該抗がん剤使用症例数を乗じ、患者調査におけるがん患者数とDPC施設のがん患者数との割合を用いて換算することにより、有害事象件数(全国推計値)を推定した。また、抗がん剤治療に関連する死亡数の全国値についても同様の方法を用いて推計した。
米国食品医薬品局(FDA)リスク評価・リスク緩和戦略(Risk Evaluation and Mitigation Strategies; REMS)に関しては、今年度は、日米EUでの製造販売後の医薬品のリスクマネジメントの状況について調査を行った。
結果と考察
大阪大学病院および名古屋大学病院で使用された抗がん剤全てについて有害事象発生率を求めた。使用抗がん剤別にみた有害事象発生率は、白血球減少、好中球減少、血小板減少については、頻度の高い薬剤における46.52%、46.85%、47.13%から0.0%に分布、クレアチニン、CPKについては、2.2%、3.2%から0.0%に分布、ALT、AST、ビリルビンについては、28.70%、16.85%、13.04%から0.0%に分布しており、クレアチニン、CPKで低い頻度であった。
大阪大学病院と名古屋大学病院で単剤当たり暫定有害事象発生率を比較すると、発生率の値は必ずしも一致しないが、全体の相関係数は0.90と高い値であった。
大阪大学病院で入院中に抗がん剤が投与され、その入院中に死亡した症例は2年間で82例あり、抗がん剤投与の死亡との因果関係があることが疑われる症例は、このうち5例(6%)であった。死亡日より遡って30日以内に抗がん剤が投与された患者が51例であり、この数字を基準にすると9.8%であった。
DPC施設における抗がん剤使用症例数(N)は、シスプラチンで126,439例、フルオロウラシルで99,268例、カルボプラチンで87,758例、パクリタキセルで66,006例、イリノテカン塩酸塩水和物で50,728例と例数が多かった。
有害事象の指標ごとに全使用抗がん剤について合計した有害事象件数(全国推計)は、白血球減少633,019件、好中球減少458,788 件、血小板数減少252,336件、 Cr増加11,908件、CPK増加11,138件、 ALT増加101,614件、 AST増加71,362件、ビリルビン増加29,065件、間質性肺炎19,456件であった。個々の症例としてはそれぞれに重なりはあるものの、有害事象の延べ件数は、1,648,686件であった。さらに、抗がん剤治療に関連する死亡数の全国値推計としては、56,877例×(7.8%~54.5%)=4,400例~31,000例と推定された。
再審査期間中に企業により実施された使用成績調査等の安全性データ(公開情報)を用いた検討では、有害事象情報の頻度は、「性別」、「年齢」、「入院・外来」など影響を受けることが示唆された。
抗悪性腫瘍薬のうち、日本において承認されRMPが作成されている3品目について検討を行った。これら3品目について日米EUの安全性検討事項及び医薬品安全性監視計画を確認した結果、その内容は必ずしも同一ではない状況が見られた。
結論
有害事象発生件数の全国値を、①有害事象発生頻度、②抗がん剤使用頻度、③患者数の3つの指標に分割し、それぞれの推定値を組み合わせることで、推定することは可能であった。しかし、特に、①の有害事象発生頻度に関するデータが不足しており、限られた施設における少数データに基づく推定値であるために、信頼性には限界がある。今後、有害事象発生頻度を複数の施設で測定する取り組みを進める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201427038B
報告書区分
総合
研究課題名
薬剤疫学的安全性情報の情報収集に関する調査研究
課題番号
H25-医薬-指定-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 友孝(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 好規(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 松田 勉(山形大学大学院 医学系研究科)
  • 西本 寛(国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部)
  • 松村 泰志(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 石川 ベンジャミン光一(国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交代 西本 寛(平成25年4月1日~26年3月31日)→石川 ベンジャミン光一(平成26年4月1日~平成27年3月31日)

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤疫学的な安全性情報の収集・評価に関する手法の開発を目的として、抗がん剤を例として、我が国における重篤な有害事象の発生頻度を計測する仕組みについて検討する。さらに、我が国における抗がん剤使用の実態とそれに関連する有害事象の発生頻度を明らかにすることを目的とする。
研究方法
抗がん剤を例として、抗がん剤使用者数を推計し、それぞれにおける有害事象発生率を当てはめて、全国の件数を推定するための具体的方法を検討した。その際、①有害事象発生頻度、②抗がん剤使用頻度、③患者数の3つを、計測すべき指標として想定した。
大阪大学医学部附属病院(阪大病院)と名古屋大学医学部附属病院(名大病院)において、単剤あたりの有害事象発生頻度の測定を試みた。有害事象の指標としては、血液毒性と間質性肺炎を取り上げた。
有害事象発生頻度について、もう1つの情報源として、再審査期間中に企業により実施された使用成績調査等の安全性データ(公開情報)を用い検討した。
さらに、今後の医薬品リスク管理計画の検討に際し米国の現状把握は有益であることから、米国食品医薬品局(FDA)リスク評価・リスク緩和戦略(Risk Evaluation and Mitigation Strategies; REMS)の最近の実施状況に関して調査を行った
患者数については、罹患数(地域がん登録全国集計)、死亡数(厚労省人口動態統計)を利用して、患者調査(厚労省)に基づき、初回治療入院患者数、非初回治療入院患者数、外来患者数を、部位別・年齢別に推定した。
大阪大学病院および名古屋大学病院において使用抗がん剤別に計測された有害事象発生率を用いて、DPC施設における当該抗がん剤使用症例数を乗じ、患者調査におけるがん患者数とDPC施設のがん患者数との割合を用いて換算することにより、有害事象件数(全国推計値)を推定した。また、抗がん剤治療に関連する死亡数の全国値についても同様の方法を用いて推計した。
結果と考察
阪大病院また名大病院で使用された抗がん剤全てについて有害事象発生率を求めた。阪大病院と名大病院で単剤当たり暫定有害事象発生率を比較すると、発生率の値は必ずしも一致しないが、全体の相関係数は0.90と高い値であった。年齢、性別に有害事象発生率を比較すると、間質性肺炎は高齢者で、血小板減少、ALT増加は、男性で高かった。
DPC施設における抗がん剤使用症例数(N)は、シスプラチンで126,439例、フルオロウラシルで99,268例、カルボプラチンで87,758例、パクリタキセルで66,006例、イリノテカン塩酸塩水和物で50,728例と例数が多かった。
有害事象の指標ごとに全使用抗がん剤について合計した有害事象件数(全国推計)は、白血球減少633,019件、好中球減少458,788 件、血小板数減少252,336件、 Cr増加11,908件、CPK増加11,138件、 ALT増加101,614件、 AST増加71,362件、ビリルビン増加29,065件、間質性肺炎19,456件であった。個々の症例としてはそれぞれに重なりはあるものの、有害事象の延べ件数は、1,648,686件であった。さらに、抗がん剤治療に関連する死亡数の全国値推計としては、56,877例×(7.8%~54.5%)=4,400例~31,000例と推定された。
企業の使用成績調査等の安全性データを用いて、安全性データの全国値をある程度精度を担保しながら推定するためには、少なくとも「対象疾患」、「性別」、「年齢」、「体重」、「体表面積」、「喫煙歴」、「合併症」、「既往歴」、「原疾患」、「前治療歴(薬物治療)」、「既往歴」、「併用療法(薬物)・併用薬」、「併用療法(非薬物療法)」、「Performance Status(開始時)」、「投与量」、「転移の有無」などの情報について検討が必要と考えられた
阪大病院で入院中に抗がん剤が投与され、その入院中に死亡した症例は2年間で82例あり、抗がん剤投与の死亡との因果関係があることが疑われる症例は、このうち5例(6%)であった。死亡日より遡って30日以内に抗がん剤が投与された患者が51例であり、この数字を基準にすると9.8%であった。
結論
有害事象発生件数の全国値を、①有害事象発生頻度、②抗がん剤使用頻度、③患者数の3つの指標に分割し、それぞれの推定値を組み合わせることで、推定することは可能であった。しかし、特に、①の有害事象発生頻度に関するデータが不足しており、限られた施設における少数データに基づく推定値であるために、信頼性には限界がある。今後、有害事象発生頻度、を複数の施設で測定する取り組みを進める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201427038C

収支報告書

文献番号
201427038Z