ADA欠損症における遺伝子治療臨床研究

文献情報

文献番号
199800416A
報告書区分
総括
研究課題名
ADA欠損症における遺伝子治療臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小林 邦彦(北海道大学医学部小児科講座)
研究分担者(所属機関)
  • 崎山幸雄(手稲渓仁会病院小児センター)
  • 小林正伸(北海道大学医学部附属癌研究施設病理部門)
  • 藤田寿一(北海道大学医学部附属癌研究施設分子遺伝部門)
  • 川村信明(北海道大学医学部小児科講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「アデノシンデアミナーゼ欠損症における遺伝子治療臨床研究実施計画書
」に基づいた遺伝子治療により患児の免疫機能が再建されたため、平成9年3月で一
時治療を中断した。本研究は、遺伝子治療中断後に、ADA酵素補充療法を継続しなが
ら遺伝子治療の有効性、安全性について長期的、客観的評価を行うことを目的とした
。さらに、恒久的な免疫機能の再建を目指して血液幹細胞を標的とした遺伝子治療の
実用化に向けた基礎研究も合わせて目的とした。
研究方法
1)ADAGENによるのADA酵素補充療法(週1回、1バイアル筋肉内注射)
を継続した。2)遺伝子治療中断後の患者の臨床経過、一般血液生化学検査、リンパ
球機能検査、増殖性レトロウイルス検査、遺伝子導入細胞の検索等を経時的に実施し
た。3)臍帯血CD34陽性細胞へのADA遺伝子導入基礎実験として、フィブロネクチン
、Flt3リガンド等を使用した場合の遺伝子導入効率を幹細胞コロニー形成法、半定
量PCR法等で判定した。
結果と考察
平成9年3月で遺伝子治療を一時中断し、その後はADA酵素補充療法を継
続しながら、患児の免疫機能の評価、導入遺伝子の体内動態の検討、遺伝子治療に関
わる安全性の評価等を行い以下の結果を得た。1)患児の末梢血リンパ球数は、引き
続き 1,000 /micro l 前後を維持している。2)患児の末梢血で一時増加していたCD
8陽性T細胞の比率が次第に正常化してきている。3)患児末梢血単核球で導入遺伝子
が継続して検出されている。4)患児末梢血単核球でのADA活性は8~10単位(機能的
に有効なレベル)を維持している。5)患児の免疫学的検査では、遅延型皮膚反応、
同種血球凝集素価や各種ワクチンに対する特異抗体反応などが正常レベルに維持され
ている。静注用グロブリン製剤の定期的投与は中止しているが、血清免疫グロブリン
値はほぼ正常域を維持している。6)T細胞機能検査でもほぼ正常反応であった。7
)これまでに特別な副作用は認められていない。8)増殖性レトロウイルス検査は全
て陰性であった。9)患児は普通の学校生活を送りながら感染症の重症化もなく良好
に経過している。10)臍帯血CD34陽性細胞へのADA遺伝子導入基礎実験では、フィ
ブロネクチン、Flt3リガンドの併用により相加的な遺伝子導入効率の上昇が確認され
た。遺伝子治療治療中断後比較的長期間の効果と安全性が確認されたが、今回の治療
の標的細胞である末梢血T細胞の寿命を考慮すると、治療効果の持続には限界がある
と考えられる。そこで、今後も慎重な経過観察が重要であり、効果が減弱してきた場
合の具体的な治療法の検討も必要である。そのひとつの可能性として、血液幹細胞を
標的とした遺伝子治療の臨床応用に向けた基礎研究も重要と考えられる。
結論
レトロウイルスベクターを用いて末梢血T細胞を標的とした今回の遺伝子治療
臨床研究では、治療中断後2年間の経過観察により遺伝子治療の持続的な有効性と安
全性が確認された。また、血液幹細胞への遺伝子導入法としてフィブロネクチン、F
lt3リガンドの有用性を確認した。

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研究報告書(紙媒体)

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