医薬品のライフサイクルを通じた品質確保と改善に関する研究

文献情報

文献番号
201427026A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品のライフサイクルを通じた品質確保と改善に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-021
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
奥田 晴宏(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 香取 典子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品規制の国際調和を目指すICHは,医薬品品質保証に品質システムの概念を導入し,最新の科学と品質リスク管理に基づく,開発から市販後まで一貫した品質管理システムの採用と,規制の柔軟な運用を可能とする政策を打ち出した。その主要な柱がクオリティーバイデザイン(QbD)と呼ばれる体系的な開発手法である。QbDの概念は製造プロセスの構築のみならず,試験法の開発や安定性評価にも拡張されつつあり,従来の画一的な規制は変更が求められようとしている.一方で,新しい科学の進展に伴い,遺伝毒性不純物(GTI)や金属毒性に関するガイドライン等が新たに作成中であり,製造方法や品質はより厳密な管理が要求されようとしている.
本研究は,上記の課題に対応するため,原薬および製剤を対象とし,医薬品ライフサイクルを通した医薬品の品質確保のために実施すべき課題を抽出し,我が国の実情に適した解決策を提案することを目的とした.
研究方法
原薬に関しては,PMDAの審査・査察担当者並びに産業界からは日本製薬工業会,日本医薬品原薬工業協会等に属する企業の研究者からなる研究チームを,製剤に関しては,PMDAの審査・査察担当者および地方庁の薬事担当者並びに産業界からは日本製薬工業会等からなる研究チームを組織し,ICHガイドラインや各地域の規制状況などを考慮しつつ緊密に議論を実施した.
結果と考察
原薬のライフサイクルにわたる品質保証に関する研究:
①プロセスバリデーション(PV)のライフサイクルにおいて,工程デザインで得られた知識から,工程の適格性確認で評価する項目を具体的に考察するとともに,この知識を日常的工程確認(以下,Ongoing PV)に関連付ける方策に関して明らかにした.②サクラミル原薬S2モックのシナリオを準用し,ICH M7ガイドラインの治験の区分に応じて3種類の投与期間を想定し,規制当局に提出する治験届のモック(案)を最終化した.
①では,原薬のプロセスバリデーションのライフサイクルについて,ICH Q8-11ガイドライン及び質疑応答集の内容を精査,検証するとともに外資系企業の具体的事例等を研究して,工程デザインで得られた知識を,工程適格性確認及びOngoing PVにどのようにリンクさせていくかについて,サクラミルS2モックの内容を用いて整理した.継続的改善に関係する承認後の変更マネジメントシステムの運用や,規制面での弾力的運用について,今後議論を深め,より合理的な医薬品変更管理システムの構築に資することが期待される.
②におけるモック案は,日本における治験薬のGTIの管理を実施するための方策を考えるうえの道具として使用されることを意図している.行政当局に提出する文書が可視化されることにより,治験薬の規制に関する議論が深まることを期待している.

製剤のライフサイクルにわたる品質保証に関する研究:
品質リスク管理の概念を踏まえた製剤の製造管理及び承認申請の事例研究において,規制当局に提出する資料としてモデル製剤(サクラ開花錠)を用いたサクラ開花錠モック(CTD Module 2.3に相当)を作成した.Analytical QbDのコンセプトを適用した場合の分析法の開発に関して議論すると共に,QbDアプローチによって可能となる,ライフサイクルにおける分析法の継続的改善や変更管理についても検討を行った.本研究の研究成果として,種々の議論を通じて理解された内容につき,QbDコンセプトを適用した分析法開発に関する開発研究の事例を報告書として纏めた.
サクラ開花錠モックは,本邦で汎用されている流動層造粒法を採用した製剤開発を想定したCTD Module 2.3のモックアップであり,中間体の品質特性をデザインスペースの構成因子とした戦略を採用し,更に昨年度本分科会で検討したLarge-N規格を組み合わせることで高度な管理戦略事例を盛り込んだものである.海外からの本モックの重要性を指摘するコメントも得られていることから,国際的にも利用され,国際調和の進展に貢献することが期待される.
QbDコンセプトを適用したAnalytical QbDによる分析法開発に関する開発研究の報告書は分析法の開発に際して事前に設定される性能,分析法プロファイルや,開発中に得られる知見を基に行われるリスクマネジメントの要素を含む内容となっており,分析法に関する知識を第三者と共有することが容易になり,有効に活用することが可能になると期待される.
結論
原薬および製剤研究共に,最新のICHガイドライン(Q8-Q11, M7, Q3D)に求められている医薬品開発・品質保証の概念を日本の実情に即して実現するための研究を行い,その成果を開発レポートあるいは治験届のモックアップとして纏めた.

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201427026B
報告書区分
総合
研究課題名
医薬品のライフサイクルを通じた品質確保と改善に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-021
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
奥田 晴宏(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 香取 典子(国立医薬品食品衛生研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日米欧医薬品規制調和会議(ICH)は,医薬品品質保証に最新の科学と品質リスクマネジメント(QRM)に基づく,開発から市販後まで一貫した品質管理システムを導入し,規制の弾力的な運用を可能とする政策を打ち出した.その主要な柱がクオリティバイデザイン(QbD)と呼ばれる開発手法であり,開発段階におけるQRMの活用,プロセス解析工学(PAT)による製造過程の科学的な解析と制御などが積極的に実施されつつある.
QbDの概念は製造プロセスの構築のみならず,試験法の開発にも拡張されつつあり,従来の画一的な規制は変更が求められようとしている.一方で,新しい科学の進展に伴い,金属不純物や遺伝毒性不純物(GTI)に関するガイドライン(GL)が新たに作成中であり,製造方法や品質はより厳密な管理が必要となるとともに,QbDを踏まえた品質管理戦略が要求されている.
本研究は,原薬および製剤の科学的あるいはQbDの方法論による開発や品質管理に関して,現在の医薬品開発が直面する課題を調査し,産官学の研究者,技術者及び審査担当者が協力して事例研究を実施することを目的とした.
研究方法
原薬に関しては,PMDAの審査・査察担当者並びに産業界からは日本製薬工業会,日本医薬品原薬工業協会等に属する企業の研究者からなる研究チームを,製剤に関しては,PMDAの審査・査察担当者および地方庁の薬事担当者並びに産業界からは日本製薬工業会等からなる研究チームを組織し,ICH GLや各地域の規制状況などを考慮しつつ緊密に議論を実施した.
結果と考察
原薬のライフサイクルにわたる品質保証に関する研究:
原薬のプロセス開発及び引き続く原薬の商業生産における製造・品質管理が直面する課題を解決することを目的とした.具体的には,Ⅰ.高リスク不純物(GTI及び元素不純物)の管理,Ⅱ.スケール非依存的パラメータを用いた製造プロセスの記述,およびⅢ.原薬におけるプロセスバリデーションのライフサイクルに関する考察の3つの課題に取り組んだ.
Ⅰに関しては,ICHで実施されている遺伝毒性不純物に関するGL(ICH M7)の議論の進展に合わせて,①米・EUにおける遺伝毒性不純物GLの解析,②ICH M7 Step 2文書の解析と翻訳,および③ICH M7に対応した治験薬の遺伝毒性不純物の管理戦略と規制当局への申請のあり方を実施あるいは検討した.③に関してはサクラミル原薬S2モックのシナリオを準用し,ICH M7の治験の区分に応じて3種類の投与期間を想定し,それぞれの治験に必要な遺伝毒性不純物の管理戦略並びに製法変更を実施した場合の管理戦略を構築し,規制当局に提出する治験届のモック(案)を作成した.

製剤のライフサイクルにわたる品質保証に関する研究:
品質リスク管理の概念を踏まえた製剤の製造管理,承認申請の事例研究を実施し,規制当局へ提出される申請書及び研究開発レポートの実物モデルの作成を行うと共に,より進んだ医薬品申請,製造管理のための指針を作成することを目的とした.具体的には,Ⅰサクラ開花錠モック作成,Ⅱ Analytical QbDに関する研究,Ⅲ 管理戦略に関する研究の3つの課題に取り組んだ.
Ⅰに関してはICH Q8に基づくPATの適用例として,近赤外吸収スペクトル測定法(NIR)による連続的工程管理を検討し,さらにPATの出荷試験への適用(RTRT:Real Time Release Testing)として,含量均一性試験の適正なサンプルサイズと判定基準を評価した.これらの結果を元に,品質リスク管理の概念を踏まえた製剤の製造管理及び承認申請の事例研究において,規制当局に提出する資料としてモデル製剤(サクラ開花錠)を用いたサクラ開花錠モック(CTD Module 2.3に相当)を作成した.本モックでは,NIRの製剤工程管理への適用事例に加え,製剤の製法として内資系企業が汎用する流動層造粒法を事例として組み入れつつ,それまでに検討したLarge-N規格や高度な管理戦略事例を盛り込んだ.モックの最終ドラフトおよび英語翻訳版を作成し2014年11月から約1ヶ月間パブリックコメントを行った後,最終版のモックを完成させた.
結論
我が国は,日本独自の承認制度を踏まえつつも,国際的な新方針に対応し,科学的な品質管理を可能にする製品研究開発とその評価手法の確立が求められている.本研究は,最新のICH GL(Q8-Q11, M7, Q3D)に求められている医薬品開発・品質保証の概念を日本の実情に即して実現するための研究を行ったものであり,その成果を開発レポートあるいは治験届のモックアップとして纏めることに成功した.

公開日・更新日

公開日
2015-06-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201427026C

成果

専門的・学術的観点からの成果
化学薬品原薬・及び製剤に関して製品品質開発研究時に特に実施すべき事項から課題を抽出し,研究結果をモック,ガイドライン案等の形式で具体的に示すことができた.医薬品のレギュラトリーサイエンス(RS)研究の目的の一つは,医薬品研究開発と申請承認プロセスを科学的かつ,広く受け入れ可能なものとして構築することであり,治験薬における不純物評価やQuality by Designによる製剤開発研究推進にレギュラトリーサイエンスの観点から貢献した.
臨床的観点からの成果
本研究は臨床研究を対象とするものではないものの,治験薬中に潜在的に存在する遺伝毒性不純物の安全性評価と管理を研究対象に取り上げている.遺伝毒性不純物は医薬品の安全性確保には必須であり,特に不純物の精製除去技術が不十分な医薬品開発段階の治験薬の安全性評価は円滑な臨床試験の実施にとって重要な要素である.治験の安全性確保の観点から本研究成果の意義は大きい.
ガイドライン等の開発
本研究成果を直接に反映した公的ガイドラインは現時点ではない.しかし,現在わが国では治験段階で品質情報を規制当局に提出する枠組みをもたないにもかかわらず,ICHM7遺伝毒性不純物情報の提出を企業に求めていることから,今遺伝毒性不純物に関する治験薬概要モックは,今後作成が予想される「治験段階において規制当局に提出すべき医薬品品質情報」に関するガイドラインの基礎的な知見を与えるものとなったと考える.
その他行政的観点からの成果
変異原性不純物そのものの検討が始まったばかりであり,産業界及び行政当局ともに,ICH M7ガイドラインを前提とした開発及び評価体制をこれから構築しなければいけない段階である.本研究によって治験段階で実施すべき開発研究が可視化できたことの意義は大きい.また,Analytical QbDは現在各極の局方でも導入に向けた議論は開始されており,日局の現代化に貢献するものである.
その他のインパクト
最新の製剤技術と高度な管理戦略事例を念頭に置いて作成された製剤開発研究モック,サクラ開花錠モックを英訳して国立医薬品食品衛生研究所薬品部ホームページに掲載したところ,海外からも大きな反響が寄せられた.また遺伝毒性不純物に関する治験薬モックに関しても反響は大きく,関連の団体等で講演を実施する予定である.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
201427026Z