アデノ随伴ウイルスRep蛋白質の機能とベクターの安全性に関する研究

文献情報

文献番号
199800415A
報告書区分
総括
研究課題名
アデノ随伴ウイルスRep蛋白質の機能とベクターの安全性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
神田 忠仁(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松田潤一郎(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療を真に実用化するために、現在最も必要とされているものは、非増殖細胞を含む様々な細胞に効率良く遺伝子導入が可能で、しかも導入遺伝子を細胞染色体に組み込んで長期間安定に発現させることができる安全なベクターである。アデノ随伴ウイルス(AAV)はこのようなベクターを作るための素材として優れている。しかし、これまで開発されたAAVベクターには、Rep蛋白質の機能を含むものは無く、遺伝子をヒト19番染色体長腕の特定の領域(AAVS1)に組み込むことができるAAVの特徴は生かされていない。AAVのRep蛋白質機能を利用した実用的なベクターの開発と、その安全性の検討を行う。同時にGM1ガングリオシドーシスモデルマウス(β-Galノックアウトマウス)のAAVベクターによる実験的遺伝子治療を行い、AAVベクターの有効性、問題点を検討すること、AAVの病原性ついて再評価することも本研究の目的である。
研究方法
AAV潜伏持続感染細胞を新たに樹立し、AAVゲノムの発現と細胞増殖能を調べた。HeLa細胞にMOI100でAAVを感染させ、30代の継代後、AAVゲノムが安定に組み込まれたAAV持続感染細胞株を樹立した。これらの細胞中のRep遺伝子由来mRNAは、RT-PCR(ABI7700)によって定量した。
AAVのRep及びCap蛋白質は、マルトース結合蛋白質との融合体として大腸菌で発現させ精製した。これを抗原とするELISAによって、ヒト血清中の抗AAV抗体を測定した。in vitro転写系及び翻訳系へ添加したRep蛋白質は、ゲル濾過によって6量体として精製したものを用いた。レポーター遺伝子の発現に対するRep蛋白質の影響は、両遺伝子発現プラスミドを同時に細胞へ導入する実験とin vitro転写及び翻訳系に大腸菌で作製したRep蛋白質を添加する実験で検討した。
マウス酸性β-ガラクトシダーゼ(β-Gal)遺伝子を発現する組み換えAAVベクターを作り、2日齢のβ-Galノックアウトマウス脳内に接種(約100感染単位)した。脳凍結切片を酸性条件下でX-gal染色し、β-Galの発現を調べた。
結果と考察
調べたAAV持続感染HeLa細胞株(12株)全てで、Rep遺伝子が継続して転写されており、細胞増殖能の低下が認められた。この成績はこれまで細胞染色体に組み込まれたAAVゲノムは完全に沈黙するとされてきた潜伏機構の理解を改めるもので、AAVも潜在的に細胞毒性を持つことが示された。AAV潜伏持続感染細胞でのAAVゲノムの発現はRep蛋白質によって制御されており、必要に応じていつでもウイルスが増殖できる状態に維持されていると考えられる。
Rep-78は各種プロモーターからの遺伝子発現を抑制することが知られている。この活性が細胞毒性を担うと考え、抑制の分子機構を調べた。大腸菌で作り精製したRep-78をin vitroの転写系、翻訳系に加えたところ、転写ではなく翻訳を阻害することが明らかになった。この活性はRep78、Rep52に共通の機能で、C末端領域150アミノ酸領域に担われていた。Rep蛋白質による翻訳系の阻害は、AAVの増殖時に優先的にウイルス蛋白質を合成するための機能と推定されるが、この活性が細胞毒性の少なくとも一部と関連すると考えられる。AAVゲノムのAA VS1への組み込みを担う領域は、Rep蛋白質のN末端側にあることが示されているので、翻訳系を阻害する領域は組み込みを担う領域と異なる可能性が高い。今後、この阻害活性を除いたRep蛋白質による組み込み反応を検討し、遺伝子治療ベクターにRep蛋白質を利用する方法を探る。
ヒト血清中の抗AAV抗体を測定した。我が国では、10才頃までにほぼ90%のヒトが抗体陽性になり、50才頃まで年齢につれて抗体価が上昇することがわかった。これは、多くの日本人が10才までにAAVに感染すること、その後も感染を繰り返すことを示唆している。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)抗体価と抗AAV抗体価に相関が見られた。この成績は、AAVが初期自然流産時の子宮内組織に高頻度で検出されるとする報告やHPV陽性の子宮頸癌にAAVゲノムが検出されることからから、性器感染するHPVがAAVのヘルパーとなる可能性を示唆している。
マウス酸性β-Gal発現AAVベクターを作った。このベクターによって遺伝子導入されたマウス細胞は、細胞継代後も安定してβ-Galを発現し続けた。遺伝子導入効率は低線量の放射線で著しく増強された。このベクターをGM1ガングリオシドーシスのモデルとなるβ-Gal欠損マウスの新生児脳内への接種したところ、神経細胞で少なくとも6週間(現在の観察期間)導入遺伝子の発現が観察された。このベクターは、ランダムに遺伝子を組み込むものの、個体への直接接種によって神経細胞への遺伝子導入が可能な点でAAVベクターの優れた性質を発揮しており、今後導入遺伝子の発現量、発現部位、発現の継続性、治療効果を検討する。
結論
AAV潜伏持続感染細胞で、AAVゲノムは完全に沈黙するわけではなく、Rep蛋白質の継続的な発現と細胞増殖の抑制がみられた。Rep蛋白質は、そのC末端領域で細胞蛋白質合成阻害活性をもち、これが細胞毒性の一部を担っていると考えられるので、この活性を取り除いてベクターに利用する必要がある。
AAVは、90%以上の日本人に10才頃までに感染し、その後も感染を繰り返すことが示唆された。HPVもヘルパーとなっている可能性がある。
β-Gal発現AAVベクターを、2日齢β-Gal欠損マウス脳内へ直接接種したところ、神経細胞に遺伝子が導入され、少なくとも6週間のβ-Gal発現が確認された。GM1ガングリオシドーシスに対する治療効果が期待される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-