ヒト用医薬品の環境影響評価ガイドラインとリスク管理等に関する研究

文献情報

文献番号
201427024A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト用医薬品の環境影響評価ガイドラインとリスク管理等に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-019
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
西村 哲治(帝京平成大学 薬学部薬学科)
研究分担者(所属機関)
  • 鑪迫 典久(国立環境研究所 環境リスクセンター)
  • 鈴木 俊也(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の有効成分原体又はプロドラッグの活性代謝物が、ヒト用新有効成分含有医薬品の上市にともない、直接及び間接的に生じる環境に対する影響を推定し、人の健康と生態系へのリスク軽減を図ることを目的とする、環境影響評価ガイドライン作成に資する情報を収集した。

研究方法
医薬品の環境影響評価について、試行的な例を含め、現在実施されている諸外国のヒト用医薬品の環境影響評価ガイドラインや、動物用医薬品に関する、規制の原則、対象となる物質、評価手法、予測無影響濃度の推定、環境予想濃度表層水等、我が国で作成する環境影響評価ガイドラインに参考となりうる情報を収集した。
環境実態を把握するために、東京都多摩地域の飲用井戸水及び専用水道原水(地下水)を対象とし、19種の医薬品成分をLC/MS及びLC/MS/MSで測定した。また、地下水の汚染起因を推定するために、下水漏洩の指標である人工甘味料スクラロースも合わせて測定した。
 医薬品成分の半減期及び有機炭素補正土壌吸着平衡定数を求め、医薬品成分による地下水汚染の評価に、農薬の地下水汚染の可能性を予測するためのシミュレーションモデルの適用の可能性を検討した。
カナダ環境省によるミジンコ慢性毒性試験 “Test of Reproduction and Survival Using the Cladoceran Ceriodaphnia dubia” に準じ、ニセネコゼミジンコ(Ceriodaphnia dubia)を試験生物として用い、繁殖試験を実施し、複合影響及び回復性を評価した。
結果と考察
新医薬品開発の際に、人の健康と生態系へのリスク低減を勘案した開発を行うために、環境影響評価に関するガイダンス(案)を作成した。新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の有効成分原体又はプロドラッグの活性代謝物が、ヒト用新有効成分含有医薬品の上市にともない、その医薬品の成分が環境中に放出される。環境中に排出された際には、医薬品成分としてもつ生理作用に加えて、化学物質としての化学的、物理的、生物学的な性状に由来して、直接及び間接的に生態系に対して有害性を示す恐れがある。生じるおそれのある環境リスクを把握して、必要に応じた対応、対策をとるための情報を開発企業があらかじめ一定程度把握しておくことを目的とするものである。SAICMで掲げられた2020年までのマイルストーンも踏まえ、産官学が連携し、取り組みを実施する受容性を明確にした。環境濃度測定による実態状況の把握に関する調査・研究では、ヒト用の医薬品成分等19種類を対象に東京都多摩地域の地下水中存在実態を調査した。地下水187か所から、クロタミトン(43%)、DEET(35%)、カンデサルタン(33%)、カルバマゼピン(33%)、アマンタジン(27%)、スルピリド(12%)およびアセトアミノフェン(9%)が検出された。検出最高濃度は、クロタミトンの119 ng/Lであった。地下水中に存在した医薬品成分は、下水処理水が漏洩して汚染した結果が示唆された。下水処理場から一般公共用水域への負荷を検討する際は、活性汚泥による分解効率を求める方法を用いて、下水処理場における除去率を勘案することが可能であることが示唆された。PPCPsの地下水汚染性の評価について、農薬用に開発され欧米で既に活用されている3シミュレーションモデルであるGustafson、 Juryおよび Cohenのモデルは、PPCPsの地下水汚染の可能性を評価する上で、有用なモデルであることが明らかとなった。生物試験評価法の開発と生物影響評価に関する研究において、モードオブアクションが異なる複数の医薬品をミジンコに対して、ケトコナゾールとロバスタチンを混合ばく露した結果、それぞれの個別ばく露よりも産仔数の増加が確認された。またIsoblogram curveのグラフから相殺作用の影響があることが示された。また、ある濃度で暴露した生物を無薬剤の系に移し、影響の回復の有無を調べる試験を、医薬品6物質について実施した結果、ばく露をやめることによって対照区と同程度に回復する濃度区としない濃度区が確認された。断続的に暴露された場合は、連続ばく露で得られたNOEC、LOECを用いると過大に評価している可能性が示された。
結論
医薬品の開発に当たって、その医薬品の成分が環境中に放出されることにより生じるおそれのある環境リスクの可能性を開発企業があらかじめ一定程度把握しておくことが重要であることから、そのための環境影響評価に関するガイダンス(案)及びガイドライン案を作成した。環境影響評価に関する考え方や方法論を構築するために、関連情報や科学的知見・技術の収集を実施し、ガイドライン案に反映させた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201427024B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト用医薬品の環境影響評価ガイドラインとリスク管理等に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-019
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
西村 哲治(帝京平成大学 薬学部薬学科)
研究分担者(所属機関)
  • 鑪迫 典久(国立環境研究所 環境リスクセンター)
  • 鈴木 俊也(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
  • 川元 達彦(兵庫県立健康生活科学研究所 健康科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の有効成分原体又はプロドラッグの活性代謝物が、ヒト用新有効成分含有医薬品の上市にともない、直接及び間接的に生じる環境に対する影響を推定し、人の健康と生態系へのリスク軽減を図ることを目的とする、環境影響評価ガイドライン作成に資する情報を収集し、試案を作成した。
研究方法
我が国で作成する環境影響評価ガイドラインに参考となりうる情報を収集した。河川水、東京都多摩地域の飲用井戸水及び専用水道原水(地下水)を対象とし、医薬品成分をLC/MS及びLC/MS/MSで測定し、存在実態を調査した。医薬品成分による地下水汚染の評価に対して、農薬の地下水汚染の可能性を予測するためのシミュレーションモデルの適用の可能性を検討した。藻類、ミジンコ、魚類を用いた短期慢性影響試験、ニセネコゼミジンコの繁殖試験を実施した。
結果と考察
新医薬品開発の際に、人の健康と生態系へのリスク低減を勘案した開発を行うために、新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の有効成分原体又はプロドラッグの活性代謝物に対して、環境影響評価に関するガイドライン試案及びガイダンス案を作成した。医薬品の成分が環境中に放出される際に生じるおそれのある環境リスクを把握して、ヒト用新有効成分含有医薬品の開発において、必要に応じた対応、対策をとるための情報をあらかじめ一定程度把握しておくことを目的とするものである。産官学が連携し、本研究の成果を基盤にして、引き続き課題について検討を行うことが望ましいとの結論に達した。
河川水中及び下水処理場放流水から、各種の医薬品成分が検出された。下水処理場の処理水が流入する都市部のフレッシュ度の低い河川水では、1日あたりの最大服用量が少なく、ヒトからの排泄率が高く、かつ下水処理場における除去率が低い医薬品成分は、希釈係数(DF)10を用いて求められる予測環境中濃度(PEC)よりも実測濃度(MEC)方が高くなる場合があることを明らかにした。これらの結果から、ヒト用医薬品の河川水中のPECを算出する場合には、実際の河川水の状況に合わせてDFを設定する必要があることが示唆された。
下水処理場から一般公共用水域への負荷を検討する際に、活性汚泥による分解効率から下水処理場における除去率が推定でき、PECを精緻化する際に活用できることが示唆された。しかし、分解性試験の導入には、活性汚泥の性状の相違を含め、さらに条件等の検討が必要であることも明らかとなった。
ヒト用医薬品成分等19種類を対象に東京都多摩地域の地下水中存在実態を調査した結果、187か所から医薬品成分が検出された。下水処理排水の混在を示す指標として有効な人工甘味料のスクラロースの測定結果から、医薬品成分を含む下水処理水が漏洩して地下水を汚染している恐れが示唆された。農薬用に開発されたシミュレーションモデルであるGustafson、Juryおよび Cohenの3種のモデルは、ヒト用の医薬品成分等の地下水汚染の可能性を評価できる有用なモデルであることが明らかとなった。
環境実測濃度が求められているヒト用医薬品7種の、下水処理水の短期慢性毒性試験の結果と環境実測濃度の比の総和は0.0001~0.0002であり、ヒト用の医薬品成分等の河川水中の有害性への寄与は極めて小さいと推測された。医薬品10種を検出濃度比に基づいて混合し、藻類、ミジンコ、魚類を用いた短期慢性影響試験を実施した結果から、環境中に存在する複数の医薬品成分の生物に及ぼす影響は、それぞれの生物種に対して影響を示す特定の医薬品成分による割合が主要となる可能性が高いことが明らかとなり、個別の医薬品の影響が相加的に作用すると仮定した予測法、あるいは独立的に作用すると仮定した予測法により有害影響を推定できる可能性が示された。
ケトコナゾールとロバスタチンを混合してミジンコに暴露した結果、それぞれのばく露よりも産仔数の増加が確認され、相殺作用があることが示された。また、医薬品6物質を暴露した生物を無薬剤の系に移すと対照区と同程度に回復する濃度区があることが確認された。これらの結果は、複合暴露により有害性が低下する場合があること、また、断続的な暴露の場合に連続ばく露で得られた結果を適用すると、影響を過大に評価する可能性が示された。
結論
医薬品の開発に当たって、その医薬品の成分が環境中に放出されることにより生じるおそれのある環境リスクの可能性を開発企業があらかじめ一定程度把握しておくことが重要であることから、そのための環境影響評価に関するガイダンス(案)及びガイドライン案を作成した。環境影響評価に関する考え方や方法論を構築するために、関連情報や科学的知見・技術の収集を実施し、ガイドライン案に反映させた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201427024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
東京都多摩地域の飲料用地下水187か所から、測定対象のヒト用医薬品成分19物質中、検出頻度が最も高かったクロタミトンの他6物質が検出され、下水の漏洩による汚染が示唆された。農薬地下水汚染シミュレーションモデルで医薬品の地下水汚染を評価できることが明らかとなった。下水処理場の除去率が活性汚泥による分解効率から推算できる可能性が示された。作用機序が異なる複数の医薬品により、有害影響に相殺作用がある場合が示された。また、暴露を除くと回復する場合も確認された。

臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品の有効成分原体又はプロドラッグの活性代謝物が原因となる環境に対する影響を推定し、人の健康と生態系へのリスク軽減を図ることを目的とする、環境影響評価ガイドライン作成に資する情報を収集した。新医薬品開発の際、市場に出る前に、あらかじめ、新規ヒト用新有効成分含有医薬品が生態系に対して生じるおそれのある環境リスクを一定程度把握し、人の健康と生態系へのリスク低減を考慮した開発を行う指針として、環境影響評価のガイダンス(案)を作成した。
その他行政的観点からの成果
SAICMで掲げられた2020年までのマイルストーンを踏まえて、ヒト用新有効成分含有医薬品の開発においても、国際協調の中で適正管理の取り組みの実践を科学的基盤をもとに支援し、そのための指針と評価手法を提示した。本研究の成果に基づき、平成28年3月30日厚生労働省から、「新医薬品開発における環境影響評価に関するガイダンス」が通知された(厚生労働省医薬・生活衛生局審査管理課,薬生審査発0330 第1号平成28年3月30日)。
その他のインパクト
暴露を除くと発現影響から回復する医薬品成分や濃度領域があることが確認され、連続暴露の結果から算出されたNOEC、LOEC等を用いると、断続的に暴露された場合には有害影響を過大評価する可能性を示し、毒性評価手法に新しい観点を提供した。地下水が下水の漏洩により汚染されている可能性を示し、汚水の移動システムの完備における課題を提供した。医薬品・医療器具の安全な環境中サイクルの重要性を示した提案書を共同座長と作成し、環境への負荷を削減するグリーンファーマシーの実践を国際薬剤師連盟に提案した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
1件
西村哲治:医薬品および生活衛生製品中に含まれる化学物質の生物影響評価;生物応答を用いた排水評価・管理手法の国内外最新動向,pp263-269,株式会社エヌ・ティー・エス(2014.10.27)
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
「新医薬品開発における環境影響評価に関するガイダンス」(厚生労働省医薬・生活衛生局審査管理課,薬生審査発0330 第1号平成28年3月30日)
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki, T., Kosugi, Y., Hosaka, M. et al.
Occurrence and behavior of the chiral anti-inflammatory drug naproxen in an aquatic environment
Environ. Toxicol. Chem. , 33 (12) , 2671-2678  (2014)
原著論文2
Shmazaki, D., Kubota, R., Suzuki, T., et al.
Occurrence of selected pharmaceuticals at drinking water purification plants in Japan and implications for human health.
Water Res. , 76 , 187-200  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-24
更新日
2019-05-22

収支報告書

文献番号
201427024Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,500,000円
(2)補助金確定額
2,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 851,737円
人件費・謝金 0円
旅費 1,110,633円
その他 537,630円
間接経費 0円
合計 2,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-24
更新日
-