臨床応用に向けたハイブリッド型リポソームの確立とサルを用いた実証研究

文献情報

文献番号
199800414A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用に向けたハイブリッド型リポソームの確立とサルを用いた実証研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
金田 安史(大阪大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 本多三男(国立感染症研究所)
  • 森下竜一(大阪大学医学部)
  • 居石克夫(九州大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
私達は生体組織への遺伝子導入法として独自のハイブリッドベクターであるHVJーリポソームを開発し、このベクターの遺伝子治療のための可能性について様々な疾患モデルを用いて検討し、疾患によってはかなりの治療効果が期待できると予想されている。しかしヒトへの応用を考えるとより強力でかつシンプルなベクター系へと改良する必要がある。この我が国独自の遺伝子治療のベクター系の研究をさらに推進しヒトの遺伝子治療へ応用可能なものとして確立し、その有効性、安全性の検討を大型動物を用いて行い、臨床応用にまで持ち込むことを目的とする。
研究方法
導入遺伝子の発現増強のためにEpstein-Barr (EB)virusの潜伏感染装置, OriPとEBNA-1、をもつプラスミドベクターを構築し、これを改良した共導入系を開発し、改良型HVJ-リポソーム(HVJ-AVE-リポソーム、正電荷型HVJ-リポソーム)により培養細胞やマウス組織に導入した。臨床応用に近づけるための有効性と安全性の評価実験として、まずハイブリッド型リポソームの癌治療実験、血管病変の治療、モルモットやマウスでのエイズワクチンの開発を行った。大動物としてカニクイザルの脳室内への投与実験、骨格筋や静脈内投与を行い、導入効率、病理変化、サルの行動変化を観察した。
結果と考察
1. 導入遺伝子の長期発現及び発現効率の増強:長期遺伝子発現にためにウイルスの潜伏感染装置を利用したレプリコンベクターを開発し、これをHVJ-liposomeと組み合わせることにより組織内での安定な遺伝子発現の可能性について検討した。EBウイルスの複製起点oriP配列とそれに結合する核蛋白EBNA-1の配列をもつEB replicon vectorを改良型HVJ-liposomeでマウス肝臓、骨格筋、腎臓にルシフェラーゼ遺伝子を導入すると各々35日、96日、56日まで認められた。潜伏感染装置を持たないと各々7、28、7日で発現がなくなった。さらにこのレプリコンベクターを改変し、目的の遺伝子の発現ベクターにoriPを挿入したプラスミドとEBNA-1をCMVpromotor で強発現させるpCMV-EBNA-1を作成し、HVJーliposomeにより共導入するとEBNA-1, oriP依存性に目的遺伝子の発現が30倍まで増強された。この増強はノーザンブロットにより転写レベルでの活性化であることが明らかになった。この系によりヒトインスリン遺伝子発現をマウス骨格筋への導入後に検討したところ、poriP-CMV-HINとpCMV-EBNA-1を共導入した群ではしなかった群の約8倍のヒトインスリンの分泌がマウス血中に認められ、これが少なくとも4週間持続した。 EBNAー1の強発現ベクターとの共導入により転写レベルでの遺伝子発現の増強がみられ、これら2種のベクターを組み合わせることにより遺伝子発現の組織での制御が可能であることを示している。
2.病態解析と遺伝子レベルでの治療への応用:
(1)癌:癌治療においては、放射線感受性遺伝子Egr-1のプロモーターによる自殺遺伝子治療において放射線で遺伝子発現をコントロールさせるもので、マウスに移植したヒト肝臓癌はこの方法で完全に消退した。
(2)エイズ:エイズワクチンの開発も続行している。HIV-HBcワクチンをモルモット、マウスに免疫後、V3ペプチドを封入した正電荷型HVJ-liposomeを鼻腔内に投与すると従来の免疫法ではみられなかったHIV V3部分に特異的な抗体、細胞性免疫の活性化が認められた。この抗体はHIVウイルスの感染を培養細胞において80%抑制する中和能を有していた。マウスにおいても同様な効果が得られた。
(3)血管病変:種々の病態におけるNFkBの関与と治療への応用として、NFkBのおとり型核酸は脳の血管のスパスムの抑制が可能であることがわかった。一方、ブタ冠状動脈にバルーン障害モデルを作成しE2Fのおとり型核酸を導入すると、新生内膜形成は1ヶ月にわたって抑制された。野生型p53をHVJ-liposomeでウサギ動脈硬化モデルに投与することにより、血管中膜細胞の増殖が抑制され、弾性繊維の配列が密になり内膜肥厚が20%以下にまで抑制された。
(4)慢性疾患:線維症治療への応用として肝硬変の治療にHGF遺伝子の筋肉内注入が効果的であることが示された。関節リウマチのモデルラットにNFkBのおとり型核酸を導入するとその進展が阻止された。
3.HVJ-liposomの安全性の検討
(1)マウス、ラットにおける細胞障害性
ラット肝臓への3回(2週間隔)連続投与によっても肝小葉の乱れ、細胞浸潤、肝細胞死などは認められず、導入LacZ電子の発現効率にも変化はなかった。宿主の免疫反応を調べるとHVJに対する抗体価の上昇は見られたが2回投与でピークに達し、その値もアジュバンドとともにHVJ全粒子をウサギに免疫して作成した抗血清の1/5000であった。一方、HVJに対する細胞障害性T細胞は誘導されなかった。ラットの眼内投与によって病理変化、臓器機能の変化は殆ど認めず。マウスの骨格筋投与(癌ワクチン投与実験)後、1年間観察し無症状であり、HVJ感染の誘発はおこらなかった。
(2)RT-PCRによるウイルスの検出
(i)様々な強度の紫外線照射をしたHVJ (20000HAU)を用いHVJ-liposomeを作成し、COS-1細胞にルシフェラーゼ遺伝子を導入。導入3日後にtotal RNAを抽出しRT-PCRをかけ、、HVの融合蛋白をコードするF 0 遺伝子を増幅するためのプライマーを用いてF0 断片を検出する実験を行った。紫外線198mjoule/cm2でバンド認めず。同様にHVのHN 遺伝子断片も検出せず。
(ii) マウス骨格筋、ラット腎臓にHVJ-liposomeで遺伝子導入後の各動物の血液を採取し、RT-PCR行ったが、F0, HN断片共に認めず。
(3)サルを用いた安全性・有効性の検討
サルの脳室内にLacZ遺伝子を封入したHVJ-liposomeを導入すると主として海馬の神経細胞に少なくとも1ヶ月の遺伝子発現が認められた。サルの脳組織に病的変化認めず。サルの血液中にRT-PCRによりF0遺伝子の断片は増幅されず。
上記のエイズワクチンのサルへの投与を行い有効性は解析中であるが、一時的な局所の発赤硬結以外は副作用は認めず。
サルの伏在静脈からHVJ-liposomeを静注して臓器機能、病理変化を観察し、投与2週間での急性毒性の検討を行った。データは現在解析中であるが、現在までのところ、投与一日目に尿潜血、CPKの上昇をみたが、2週間では回復した。生理食塩水を投与したコントロール群と比較し、その他の肝・腎機能、血液像の変化はなかった。体重、摂食など一般状態の変化はなかった。犠牲死後の各臓器重量は変化認めず。
サルの骨格筋にHVJ-liposomeでHGF遺伝子を連続導入し病理変化、免疫学的解析、遺伝子発現を解析中。
結論
従来のHVJ-リポソームが遺伝子導入の増強と発現の長期化の観点から改良され、EB virusの潜伏感染装置の利用により培養細胞、生体組織において遺伝子が核内で比較的安定に保持され、遺伝子の長期発現がある程度可能になり、これを利用して遺伝子発現の増強が可能になった。また実験的遺伝子治療においても癌、循環器疾患、エイズへの有効性が確認され、サルにおいても遺伝子の発現を認め、脳内投与、筋注、静注によっても著明な副作用は見られていない。このように安全性・有効性が動物実験で着実に証明されており、ヒトの遺伝子治療に向けた準備が着々と進められている。

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