文献情報
文献番号
201427002A
報告書区分
総括
研究課題名
ワクチンの品質確保のための国家検定制度の抜本的改正に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 治雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 倉根一郎(国立感染症研究所)
- 脇田隆字(国立感染症研究所)
- 浜口 功(国立感染症研究所)
- 西條政幸(国立感染症研究所)
- 竹田 誠(国立感染症研究所)
- 柴山恵吾(国立感染症研究所)
- 加藤 篤(国立感染症研究所)
- 板村繁之(国立感染症研究所)
- 多屋馨子(国立感染症研究所)
- 柊元 巌(国立感染症研究所)
- 内藤誠之郎(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ワクチンは、感染症を予防し流行を防止するために、乳幼児を含む多くの健康人を対象に接種され、国民の健康を維持し増進する上で大きな役割を果たしている。したがって、その品質を確保することはきわめて重要である。また、ワクチンは、病原微生物などを出発材料として培養法などの生物学的な方法で製造され、その品質を検査する試験法にも生物学的試験法が用いられる医薬品(生物学的製剤)であることから、化成品である医薬品と比べて、その製造と試験には高度な技術と経験が要求される。そこで医薬品医療機器法においては、ワクチンを保健衛生上特別の注意を要する医薬品に位置づけ、基準(生物学的製剤基準)を定めて国家検定の対象としているところである。平成24年10月施行の薬事法施行規則(現、医薬品医療機器法施行規則)の改正により、製造・試験記録等要約書(SLP)を審査する制度が、ワクチンの国家検定に導入された。これを機に、さらなるワクチンの「安心、安全」の向上に資することを目的に、将来の国家検定制度のあるべき姿について調査研究を行った。
研究方法
我が国の国家検定制度に関して、研究代表者を中心に研究分担者全員で取り組むことを基本に、必要に応じて厚生労働省本省の政策担当者及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の専門家等からの意見を伺いながら、調査研究を進めた。主な論点及び手法は、以下の通りである。1.海外の国家検定制度(ロットリリース制度)の調査 2.国際シンポジウムの開催 3.WHO専門家会議への参加 4.国家検定試験項目の見直し 5.試験法に関する検討 6.予防接種後副反応(有害事象)サーベイランスの構築に関する研究。
結果と考察
国家検定の試験項目は随時見直されており、将来的にはSLP審査のみでロットリリースされる製剤種が出現することもありうる。しかしそれが許容されるかどうかについては科学的な議論だけでは不十分であり、制度的並びに政策的な観点も加えた総合的な議論が必要と考えられた。現行の検定基準においては、製剤種(生物学的製剤基準の各条ごと)に検定試験項目が定められ、同じ製剤種に属する複数の製品に対して一律に検定試験が課されている。一方、同じ製剤種に属する製品であっても、試験結果の再現性・安定性は製品ごとに異なっている。また、一度確認された試験の再現性・安定性が、その後も恒久的に維持されるとは限らない。このような製品によるリスクの違いや変化に対応するためには、検定基準を製剤種ごとではなく、製品ごとに設定することが必要になる。国家検定制度を、製品ごとリスクごとによりきめ細かく柔軟に対応できる制度に改正することは検討に値する。しかしその一方で、すべてのロットに一律に試験が課されていることがもたらす「安心感」についても無視すべきではないと考えられる。ワクチンの品質を確保して国民に「安心、安全」を提供するために、限られたリソースをどのように活用するのが最善か、という視点も重要である。最新の科学技術を取り入れて試験法の開発・改良を行うことは国立感染症研究所(感染研)の重要な責務である。新規製剤について、承認申請前の段階から感染研が試験法の開発と評価に関与することは品質管理の向上に有効かもしれない。数万人に一人といった頻度で発生する副反応が問題となるワクチンについては製造販売後監視がとりわけ重要である。接種される人の健康状況などの情報/背景を蓄積し、予防接種後副反応との関係を解析できるようなシステムを確立することや、副反応発症患者の臨床検体を保管するようなバンク機能を整備することも考慮に値する。
結論
国家検定制度のあるべき将来像を検討し、SLP審査のみにより合否判定することは許容されるか、製剤種ごとではなく製品ごとに検定試験項目を設定するような制度を導入するか、従来からの全ロットに対する試験を維持するか、それとも製品のリスクに応じて試験の頻度を変更するような制度を導入するか、国家検定以外の活動も含めてリソースをどのようにして活用するのがワクチンの「安心、安全」にとって最善か、など、多くの論点を明らかにした。これらは、科学的、技術的側面だけではなく、法制度としての側面や政策的な観点からの検討も必要な複雑な問題である。拙速を避け、明らかになった論点・課題を整理し、取りうる選択肢を十分に吟味したうえで決定する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2015-05-19
更新日
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