遺伝性形成不全症の責任遺伝子における変異の解析と情報ネットワークの構築

文献情報

文献番号
199800412A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝性形成不全症の責任遺伝子における変異の解析と情報ネットワークの構築
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山田 正夫(国立小児病院小児医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天異常は軽度のものを含めると全出生の5-6%を占め、また我が国の乳幼児死亡率は世界で最も低い水準にあるが、その中では先天異常が35%を占め第1位である。先天異常の多くに遺伝要因の関与が示唆されている。各種の器官・組織形成異常症では生化学的要因が明らかでなく、従来の方法論では病理と病態の解明はほとんど不可能であり、治療法も対処的なものに過ぎない。責任遺伝子と変異が同定されれば、診断に有用であることは明確であり、病理と病態解明の手がかりにできる方法論の有効性は確立している。一方、現状で治療法の無い疾患を診断することの倫理的問題は充分に考慮されなくてはならないが、これらの疾患群では、従来の病態に基づく診断が曖昧であったり、疾患区分を誤っている例も多く、遺伝子に基づいた確固たる診断が病理と病態研究の出発となる事実も重要である。
研究方法
広範な眼形成異常症患者におけるPax6変異と、広範な先天性腎不全症患者におけるWT1変異を検索し、同定した変異をもつPAX6およびWT1の転写調節機能を解析した。Alagille症候群の責任遺伝子を追求し、変異を解析した。
結果と考察
各種の眼形成異常症患者のゲノムDNAについてPax6変異を探索し、多数の変異、特にミスセンス変異を見出した。世界中の結果を集大成したmutation databaseには98年末現在118種類のPAX6変異が登録されており、ほとんどが翻訳中断による無虹彩症である。それに対してミスセンス変異はPAX6の機能、すなわち眼形成過程の解明に極めて大きな情報を与えるが、わずかに11例であり、その内7例が当研究室の結果である。これらには、眼の外部と内部の異常を伴う無虹彩症、眼の外部のみの異常であるPeter奇形と白内障、内部の異常である黄斑低形成症が含まれ、一方、変異の位置として、PAX遺伝子群を通じて世界で始めて選択的スプライス部位に変異を見出し、またC末端のアミノ酸変異を同定し、主として変異の位置によって異なる病態を示すことが明らかとなった。PAX遺伝子群はpaired domain部位を介してDNAに結合し、転写調節因子として機能し、支配下遺伝子を制御すると考えられている。試験管内反応によって変異蛋白質の転写調節作用を解析し、また支配下遺伝子を探索することにより、異なる病態の発生機序を解析している。
PAX6遺伝子のショウジョウバエのEyes absent (eya)は眼の形成に関与する遺伝子であるが、そのヒトホモログEYA1は、難聴、外耳の奇形、腎不全を伴うBranchio-Oto-Renal症候群の責任遺伝子として、1997年に欧米の研究者によって単離された。この疾患患者の眼は正常で、変異のほとんどは翻訳中断である。各種の眼形成異常症患者を検索した結果、白内障の3家系でEYA1のミスセンス変異を見出し、同遺伝子はヒトでも眼形成に関与することを初めて明らかとした。
同様に、各種腎形成不全症についてWT1遺伝子の異常を解析した。WT1遺伝子は胎児性腎腫瘍であるWilms腫瘍の責任遺伝子として1990年に単離された癌抑制遺伝子である。いくつかの腫瘍遺伝子あるいは癌抑制遺伝子は奇形の責任遺伝子でもあることは良く知られており、実際WT1遺伝子も、腎不全・泌尿生殖器形成不全・ウイルムス腫瘍を特徴とするDenys-Drash症候群の責任遺伝子として1991年に確立している。当研究部では日本人Wilms腫瘍やDenys-Drash症候群患者で変異を同定し、1993年以来報告してきたが、最近では典型的なDenys-Drash症候群に限定せず、非典型例あるいは広範な腎不全患者のWT1遺伝子解析を進めてきた。これまでに8人の患者の体細胞でWT1変異を検出してきて、内3例は典型的なDenys-Drash症候群であり、既に報告し、また2例はFrasier症候群として確定したが、残る3例について患者の病態を精査し、病態と変異スペクトラムの確立に努めている。試験管内反応によって機能の解析を進め、変異によって転写因子の機能の違いが症状を説明できるか検討している。
肝内胆管形成不全を伴うAlagille症候群について、ポジショナル戦略法によって責任遺伝子を追求してきたが、97年7月に米国の2グループがJagged1を責任遺伝子として同定した。我々が収集した13家系についてJagged1遺伝子に変異を同定した。Allagile症候群患者は同一家系で同一変異を持っていても、重篤度が極めて異なることが知られている。修飾因子の存在を追及している。
該当する疾患の種類は多いが症例数は少ないので、国内の関連機関と提携して解析を勧めるとともに、これらの疾患と遺伝子情報のデータベースを構築し、国際的なHuman Mutation Databaseに寄与し、あるいは臨床医師や一般向けの情報ネットワークを構築することを進めている。
これらの研究実施にあたり、以下の研究協力者の協力を得た。
東範行  国立小児病院眼科医長 眼科疾患の臨床
香坂降夫  国立小児病院小児科(腎消化器)腎および消化器疾患の臨床
田中敏章  国立小児病院小児医療研究センター内分泌代謝研究部長 成長障害および内分泌関連疾患
高野貴子  帝京大学医学部衛生学公衆衛生学  FISHによる解析
沼部博直  東京医科大学総合情報部 情報システム室長 疾患関連データベース
結論
発生分化時に作動する転写調節因子では、変異により様々な病態を示す形成不全症を示すことが明らかとなった。形成不全症患者の変異解析によって、組織や器官の形成過程がすこしづつ明らかとなり、こうした遺伝子研究から病態と病理を一層明らかとし、将来の予防・治療法の開発に結びつけたい。

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