地方衛生研究所の連携による食品由来病原微生物の網羅的ゲノム解析を基盤とする新たな食品の安全確保対策に関する研究

文献情報

文献番号
201426029A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所の連携による食品由来病原微生物の網羅的ゲノム解析を基盤とする新たな食品の安全確保対策に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-016
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
調 恒明(山口県環境保健センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小沢 邦寿(群馬県衛生環境研究所)
  • 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,907,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地方衛生研究所の病原体の蓄積とネットワークを利用して、病原体ゲノムを次世代シークエンサー(NGS)により網羅的に解読し、国立感染症研究所ゲノム解析研究センターの協力を得てデータベースを構築する。データベースに登録された配列を効率よく比較する方法をゲノムセンターと共同で確立することにより、迅速に広域食中毒の探知を可能とするネットワークの構築に貢献するとともに食中毒菌汚染食品について精度の高い情報を提供することを主要な目的とする。
研究方法
解析対象とした菌株
 山口県において2010年に鶏肉、及び患者から分離されたサルモネラ属菌株を使用した。愛媛県における患者由来株は、協力医療機関、検査センター、保健所及び愛媛県立衛生環境研究所で分離された。食材由来株は、当所及び保健所で分離された。また、家畜(豚)由来株として、と畜場に搬入された豚からの分離株を収集した。1995年から2013年に富山県で分離された食品及び患者由来のサルモネラ属菌の血清型TyphimuriumおよびEnteritidisをそれぞれ18株、合計36株を用いた。カンピロバクターについては、富山県衛生研究所で分離されたシプロフロキサシン耐性株を中心に、C.jejuni 15株、C.coli 5株を選定した。また、群馬県衛生研究所で分離されたC.jejuni19株、C.coli 5株について解析を行った。
結果と考察
1.サルモネラ属菌第2相欠損株のゲノム解析
血清型分類で第2相が決定できないためO4H抗原型別不能に分類されていたS. 4、5、12:i:-分離株についてゲノム解析を行った。S. 4、5、12:i:-株は1990年頃からスペインで報告され、その後多くの国で感染症や食中毒の重要な原因菌として注目されている。愛媛株の遺伝子欠失の様式は、S. 4、5、12:i:- 株のうち全長のゲノム塩基配列が報告されているCVM23701株とは異なっており新しいタイプのS. 4、5、12:i:-株と考えられる。一方、山口県で分離されたO4型別不能株は、これまで報告されたCVM23701株と類似していた。
2.サルモネラ属菌株における薬剤耐性プラスミドの解析
愛媛株は、7種の抗菌薬に耐性であるが、プラスミドのNGS解析により、本プラスミドが不和合性群Inc A/Cであり、 TEM-1、CTX-M-55、TetA等の薬剤耐性に関わる多くの遺伝子を保有することが明らかにされた。また、接合伝達に関わる多くの遺伝子も保有しており、このプラスミドの水平伝播により薬剤耐性菌が拡散するリスクが示唆される。NGSゲノム解析によって、種々の薬剤耐性因子を比較的短時間で解析できることは、耐性菌対策において非常に有用である。
3.食品、家畜、患者由来のSalmonella Infantisのゲノム解析
 愛媛県で分離されたPFGEパターンが同一あるいは近縁の70株をNGSゲノム解析することにより、食品・家畜由来株と患者由来株との関係をより詳細に解析した。PFGEパターンが同一でも、NGS解析では相違が認められる場合があり分解能が高かった。食材・家畜由来株と患者由来株のNGS解析において,同一あるいは非常に近縁の組み合わせが7対以上見出され,菌株間の関係や感染源の由来が見えてくる可能性がある。特に、同一SNPを示した鶏肉由来と患者由来の2株は、同一クローンの可能性が高く、感染源である可能性を強く示唆する。NGS解析のクラスターAに属する9株は,PFGEでは豚由来株と近縁と当初考えられたが、NGS解析の結果を他県で分離されたものと比較すると,九州で分離された鶏卵由来株と近縁であることが判明した。一般に,PFGEでは、異なった施設間での比較が難しい場合があるが,NGS解析によるシークエンスに基づく比較では,全国的な比較が可能である。この関連が示されたことから、クラスターAの患者由来9株について鶏卵の摂食との関連を調べる根拠となる。このような事例を一つずつ解決していく事が、食品の安全確保につながると考えられる。さらに、NGSゲノム解析は、病原性因子や薬剤耐性因子等の感染や流行につながる菌株の詳細な情報を得ることが出来る点で有利である。
結論
 技術的には、MiSeqを用いて多検体同時ゲノム解析が可能となった。ゲノムデータからSNPsを抽出する方法については国立感染症研究所ゲノム解析研究センターに依頼して行い、SNPsを元に地方衛生研究所で系統樹を作成する技術が確立された。今後は、全国の地方衛生研究所が蓄積して来た菌株を解析しデータを積み重ねることが重要である。
また、今後の公衆衛生対策において自治体技術系職員のNGS技術の習得が必要であり本研究班でも普及に取り組む必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201426029Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,603,000円
(2)補助金確定額
6,603,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,161,735円
人件費・謝金 0円
旅費 550,040円
その他 195,536円
間接経費 696,043円
合計 6,603,354円

備考

備考
支出超過分を自己資金により補填した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-