食品添加物等における遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201426013A
報告書区分
総括
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法の開発に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
鰐渕 英機(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 辻内 俊文(近畿大学 理工学部)
  • 魏 民(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,910,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまでに開発してきた遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法が発がんリスク評価システムとして有用であることをさらに検証するため、発がん性・変異原性を有する食品添加物あるいは食品中化学物質についてできる限り多く検討する。本年度は、その一環として、gpt deltaラット短期発がんリスク評価試験法を用いて、ラット肝発がん物質である1,4-ジオキサンの低用量域における変異原性及び肝発がん性を検討した。また、細胞培養系を用いた食品中に含まれる化学物質の安全性評価系の開発を行った。
研究方法
gpt deltaラットに1,4-ジオキサンを0, 0.2, 2, 20 ppmの用量で16週間飲水投与し、肝臓におけるgpt遺伝子の変異頻度及びGST-P陽性細胞巣の発生個数を検討した。また、発がん用量である5000 ppmの濃度で16週間飲水投与したラットの肝臓についてもgpt遺伝子の変異頻度を検討した。発がん性を短期に検出する細胞培養系の開発試験で、ラット肝上皮細胞(WB-F344)に肝発がんイニシエーターであるN-nitrosodiethylamineを、また肝発がんプロモーターであるphenobarbital、okadaic acid、clofibrateを種々の濃度で処理し、リゾフォスファチジン酸 (LPA) 受容体遺伝子の発現パターンと細胞運動能を検討した。
結果と考察
肝臓におけるgpt遺伝子の変異頻度及びGST-P陽性細胞巣の発生は2~20 ppmまでは対照群と変化なく、1,4-ジオキサンは低用量域においてin vivo変異原性及び肝発がん性を有さないことが明らかになった。一方、5000 ppmではgpt遺伝子の変異頻度が有意に増加した。これらの結果より、1,4-ジオキサンのin vivo変異原性及び肝発がん性に閾値が存在することが強く示唆された。肝上皮細胞に肝発がんイニシエーター・プロモーターを短期処理し、LPA受容体遺伝子ファミリーの発現を検索した結果、肝発がんイニシエーターとプロモーターでは異なるLPA受容体発現が誘導された。細胞運動能は、肝発がんイニシエーターにより促進され、肝発がんプロモーターにより抑制されることが明らかになった。
結論
gpt deltaラット短期発がんリスク評価試験法が遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法として有用であることが示された。また、本試験法は化学物質の低用量域における変異原性及び発がん性の評価においても有用であることを示した。肝上皮細胞を用いた細胞培養系が、肝発がんイニシエーター・プロモーター活性検索の実験系となりうる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201426013B
報告書区分
総合
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法の開発に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
鰐渕 英機(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 辻内 俊文(近畿大学 理工学部)
  • 魏 民(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品中の化学物質、特に食品添加物等の遺伝毒性と発がん性を、短期間かつ包括的検出が可能な新しい発がんリスク評価法を開発することを目的とした。
研究方法
我々の開発した発がん性ならびに変異原性を包括的に検索できる、gpt deltaラット短期発がんリスク評価試験法の汎用性を高めることを目的とし、膀胱粘膜及び甲状腺などの微小組織における変異原性アッセイ法の開発を行った。さらに、gpt deltaラット短期発がんリスク評価試験法と、微小組織の変異原性アッセイ法を組み合わせることにより、様々な化学物質の発がん性及びin vivo変異原性を検討し、本試験法の有用性を確認した。膀胱がんの前がん病変マーカーの同定試験では、種々の膀胱発がん物質で誘発した膀胱病変における遺伝子発現を検索することにより、早期前がん病変マーカーの同定を行った。また培養細胞系を用いて、食品中に含まれる化学物質の安全性評価系の開発を行った。
結果と考察
これまで困難であった微小組織の変異原性解析を可能にする、新たな変異原性アッセイ法の開発に成功し、膀胱を標的とした変異原性および非変異原性物質を用いた検討にてその有用性が確認できた。さらにPropolisは変異原性を有さないことを初めて明らかにした。加えて、コウジ酸は肝臓だけでなく、甲状腺に対しても変異原性を有さないことが明らかとなった。従って、我々が開発したgpt deltaラット短期発がんリスク評価法により、微小組織おける変異原性を評価することが可能となり、本試験法の汎用性を高めることができた。加えて、1,4-ジオキサンはin vitroにおいて変異原性陰性であるが、in vivoにおいては変異原性陽性であることが初めて明らかとなった。膀胱がんの前がん病変マーカーの開発試験では、oncomodulinとmatrix metalloproteinase-3を組み合わせて使用することにより、化学物質の膀胱発がん性を予測できる可能性が強く示唆された。肝上皮細胞を用いた培養細胞系が、被検物質のイニシエーション・プロモーション活性、ならびにDNAメチル化異常などの毒性・発がんリスクを短期間で検出する評価系となりうる可能性が示された。
結論
in vivo変異原性を検索できるgpt deltaおよびF344ラットを用いて、発がん性と遺伝毒性を包括的に検出できる新規発がんリスク評価法の開発に成功した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201426013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、感度、特異度ともに優れる前がん病変マーカーを用いて、食品中の化学物質の発がん性を短期間に検出できる発がん性試験と、gpt deltaラットを用いたin vivo変異原性試験を組み合わせて、遺伝毒性・発がん性を短期間かつ包括的に評価できる新規試験法を確立した。
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
長期発がん性試験には検索できる物質数が極めて限られており、食品中化学物質の大部分においては、その発がん性評価が行われて来ていないのが現状である。現在、食品添加物が次々と開発され、また食品添加物中に含まれている不純物の存在が問題となり、それらの発がん性を含めた安全性評価が急務である。本研究における成果を基にして、これらの食品および食品添加物の発がん性評価を含めた安全性評価システムを確立することは、食品の安全・安心につながるリスク評価に大いに貢献する。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
48件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
42件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kato M, Wei M, Wanibuchi H et al.
DDX39 acts as a suppressor of invasion for bladder cancer.
Cancer Sci , 103 , 1363-1369  (2012)
10.1111/j.1349-7006.2012.02298.x.
原著論文2
Xie XL, Wei M, Wanibuchi H et al.
Long-term treatment with l-isoleucine or l-leucine in AIN-93G diet has promoting effects on rat bladder carcinogenesis.
Food Chem Toxicol , 50 , 3934-3940  (2012)
10.1016/j.fct.2012.07.063.
原著論文3
Xie XL, Wei M, Wanibuchi H et al.
Dammar resin, a non-mutagen, inducts oxidative stress and metabolic enzymes in the liver of gpt delta transgenic mouse which is different from a mutagen, 2-amino-3-methylimidazo[4,5-f]quinoline.
Mutat Res , 748 , 29-35  (2012)
原著論文4
Hayashi M, Okabe K, Tsujiuchi T et al.
Different function of lysophosphatidic acid receptors in cell proliferation and migration of neuroblastoma cells.
Cancer Lett , 316 , 91-96  (2012)
10.1016/j.canlet.2011.10.030.
原著論文5
Tago Y, Wei M, Wanibuchi H et al.
Novel medium-term carcinogenesis model for lung squamous cell carcinoma induced by N-nitroso-tris-chloroethylurea in mice.
Cancer Sci , 104 , 1560-1566  (2013)
10.1111/cas.12289.
原著論文6
Kato M, Wei M, Wanibuchi H et al.
Evaluation of the modifying effect of inhalation of mainstream cigarette smoke on mouse bladder carcinogenesis.
J Toxicol Pathol , 26 , 447-451  (2013)
10.1293/tox.2013-0039.
原著論文7
Xie XL, Wei M, Wanibuchi H et al.
l-Leucine and l-isoleucine enhance growth of BBN-induced urothelial tumors in the rat bladder by modulating expression of amino acid transporters and tumorigenesis-associated genes.
Food Chem Toxicol , 59 , 137-144  (2013)
10.1016/j.fct.2013.05.044.
原著論文8
Yoshikawa K, Tanabe E, Tsujiuchi T et al.
Involvement of oncogenic K-ras on cell migration stimulated by lysophosphatidic acid receptor-2 in pancreatic cancer cells.
Exp Cell Res , 319 , 105-109  (2013)
10.1016/j.yexcr.2012.09.014.
原著論文9
Okabe K, Hayashi M, Tsujiuchi T et al.
Lysophosphatidic acid receptor-3 increases tumorigenicity and aggressiveness of rat hepatoma RH7777 cells.
Mol Carcinog , 52 , 247-254  (2013)
10.1002/mc.21851.
原著論文10
Kakehashi A, Wei M, Wanibuchi H et al.
Valerian inhibits rat hepatocarcinogenesis by activating GABA(A) receptor-mediated signaling.
PLoS One , 9 , e113610-  (2014)
10.1371/journal.pone.0113610. eCollection 2014.
原著論文11
Yamada T, Wei M, Wanibuchi H et al.
Inhibitory effect of raphanobrassica on Helicobacter pylori-induced gastritis in Mongolian gerbils.
Food Chem Toxicol , 70 , 107-113  (2014)
10.1016/j.fct.2014.04.037.
原著論文12
Dong Y, Hirane M, Tsujiuchi T et al.
Lysophosphatidic acid receptor-5 negatively regulates cellular responses in mouse fibroblast 3T3 cells.
Biochem Biophys Res Commun , 446 , 585-589  (2014)
10.1016/j.bbrc.2014.03.016.
原著論文13
Kakehashi A, Wei M, Wanibuchi H et al.
Induction of cell proliferation in the rat liver by the short-term administration of ethyl tertiary-butyl ether.
J Toxicol Pathol , 28 , 27-32  (2015)
10.1293/tox.2014-0056.
原著論文14
Gi M, Fujioka M, Wanibuchi H et al.
Determination of Hepatotoxicity and Its Underlying Metabolic Basis of 1,2-dichloropropane in Male Syrian Hamsters and B6C3F1 Mice.
Toxicol Sci , 145 , 196-208  (2015)
10.1093/toxsci/kfv045.
原著論文15
Xie XL, Gi M, Wanibuchi H et al.
Ethanol-extracted propolis enhances BBN-initiated urinary bladder carcinogenesis via non-mutagenic mechanisms in rats.
Food Chem Toxicol , 83 , 193-200  (2015)
10.1016/j.fct.2015.06.007.
原著論文16
Kanki M, Gi M, Wanibuchi H et al.
Detection of non-genotoxic hepatocarcinogens and prediction of their mechanism of action in rats using gene marker sets.
J Toxicol Sci , 41 , 281-292  (2016)
10.2131/jts.41.281.
原著論文17
Kakehashi A, Gi M, Wanibuchi H et al.
Enhanced Susceptibility of Ogg1 Mutant Mice to Multiorgan Carcinogenesis.
Int J Mol Sci , 18 , pii: E1801-  (2017)
10.3390/ijms18081801
原著論文18
Kakehashi A, Gi M, Wanibuchi H et al.
Progression of Hepatic Adenoma to Carcinoma in Ogg1 Mutant Mice Induced by Phenobarbital.
Oxid Med Cell Longev , 2017 , 8541064-  (2017)
10.1155/2017/8541064
原著論文19
Gi M, Wanibuchi H et al.
In vivo positive mutagenicity of 1,4-dioxane and quantitative analysis of its mutagenicity and carcinogenicity in rats.
Arch Toxicol , 92 , 3207-3221  (2018)
10.1007/s00204-018-2282-0
原著論文20
Gi M, Wanibuchi H et al.
Chronic dietary toxicity and carcinogenicity studies of dammar resin in F344 rats.
Arch Toxicol , 92 , 3565-3583  (2018)
10.1007/s00204-018-2316-7

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
2020-10-02

収支報告書

文献番号
201426013Z