文献情報
文献番号
201426012A
報告書区分
総括
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法の開発に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-012
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 梅村 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 病理部 )
- 小川久美子(国立医薬品食品衛生研究所 病理部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
12,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
発がん性試験は長期間を要する。近年開発されたレポーター遺伝子導入動物による遺伝毒性検索モデルは、臓器・組織レベルでの検索を可能にし、中でもgpt deltaは点突然変異及び欠失変異を効率よく検出できる。本研究はgpt deltaラットを用いて、肝臓ないしは腎臓を主たる標的とする発がん性・遺伝毒性物質の短期検出モデルの開発を目的とする。本試験法は発がん性・遺伝毒性を迅速に検出できる利点に加えて、遺伝毒性の検索に部分的肝切除や片側腎摘出によって採取した組織を有効利用することが特色の一つである。また、香料物質2-メチルフラン(2-MF)および基本骨格フランについて、gpt deltaラットを用いた中期包括試験法により、一般毒性、遺伝毒性ならびに発がん性を検討した。
研究方法
肝短期包括的試験法開発のため、雄gpt deltaラットに遺伝毒性肝発がん物質estragole (ES)、遺伝毒性非肝発がん物質aristolochic acid (AA)、非遺伝毒性肝発がん物質β-naphthoflavone(BNF)およびbarbital(BT)を4週間経口投与し、2週間の休薬後にdiethylnitrosamine(DEN)を腹腔内投与した。DEN投与の18時間前に部分肝切除を施し、切除肝よりDNAを抽出してgpt assayを実施した。DEN投与1週間後に被験物質の投与を再開し、試験開始13週間後に動物を解剖した。肝組織の一部をホルマリン固定し、免疫組織化学的にGST-PおよびPCNAを染色した。残りの組織を遺伝子解析用に液体窒素で凍結した。
腎短期包括的試験法開発のため、雌gpt deltaラットに遺伝毒性腎発がん物質aristolochic acid(AA)、雄ラット特有腎発がん物質d-limonene(DL)、非遺伝毒性腎発がん物質potassium dibasic phosphate(PDP)およびphenylbutazone(PBZ)を4週間経口投与した。その後、投薬を中断して試験開始6週間後にDENを腹腔内投与した。DEN投与の48時間前に片側腎摘出を実施し、摘出腎よりDNAを抽出してgpt assayを実施した。DEN投与1週間後に被験物質の投与を再開し、試験開始19週間後に動物を解剖した。病理組織学的に、atypical tubuleおよびatypical hyperplasiaを尿細管前腫瘍性病変とした。
2-MFの包括的評価のため、雄gpt deltaラットにフランを4週間経口投与した。肝臓を採取して、in vivo小核試験、レポーター遺伝子変異原性試験(gpt 及びSpi-アッセイ)、病理組織学的検索ならびにGST-P陽性細胞巣の定量解析を行った。
腎短期包括的試験法開発のため、雌gpt deltaラットに遺伝毒性腎発がん物質aristolochic acid(AA)、雄ラット特有腎発がん物質d-limonene(DL)、非遺伝毒性腎発がん物質potassium dibasic phosphate(PDP)およびphenylbutazone(PBZ)を4週間経口投与した。その後、投薬を中断して試験開始6週間後にDENを腹腔内投与した。DEN投与の48時間前に片側腎摘出を実施し、摘出腎よりDNAを抽出してgpt assayを実施した。DEN投与1週間後に被験物質の投与を再開し、試験開始19週間後に動物を解剖した。病理組織学的に、atypical tubuleおよびatypical hyperplasiaを尿細管前腫瘍性病変とした。
2-MFの包括的評価のため、雄gpt deltaラットにフランを4週間経口投与した。肝臓を採取して、in vivo小核試験、レポーター遺伝子変異原性試験(gpt 及びSpi-アッセイ)、病理組織学的検索ならびにGST-P陽性細胞巣の定量解析を行った。
結果と考察
肝短期包括的試験法では、ES群およびAA群においてgpt変異体頻度が有意に増加し、ES群においてA:T-C:G transversionおよびA:T-G:C transition、AA群においてはA:T-T:A transversion変異頻度が有意に増加した。ES群におけるGST-P陽性細胞巣の数および面積、BNF群およびBT群におけるGST-P陽性細胞巣の数が有意に増加した。ES群ではPCNA陽性細胞率が有意に増加した一方で、AA群においては対照群との差はみられなかった。
腎短期包括的試験法では、AA群においてgpt変異体頻度およびA:T-T:A transversion変異頻度が有意に増加した。AA群およびPDP群における前腫瘍性病変の発生頻度および1個体あたりの発生個数、PBZ群における1個体あたりの発生個数が有意に増加した。
2-MFの4週間反復投与試験における病理組織学的検査の結果、肝細胞のアポトーシス、被膜化の細胞浸潤、卵円形細胞の増殖、さらには胆管線維症が認められた。一方、フラン投与に起因したGST-P陽性細胞巣および変異体頻度の変動は認められなかった。肝細胞を用いたin vivo小核試験において、小核を有する肝細胞の比率に変化はなかった。
腎短期包括的試験法では、AA群においてgpt変異体頻度およびA:T-T:A transversion変異頻度が有意に増加した。AA群およびPDP群における前腫瘍性病変の発生頻度および1個体あたりの発生個数、PBZ群における1個体あたりの発生個数が有意に増加した。
2-MFの4週間反復投与試験における病理組織学的検査の結果、肝細胞のアポトーシス、被膜化の細胞浸潤、卵円形細胞の増殖、さらには胆管線維症が認められた。一方、フラン投与に起因したGST-P陽性細胞巣および変異体頻度の変動は認められなかった。肝細胞を用いたin vivo小核試験において、小核を有する肝細胞の比率に変化はなかった。
結論
gpt deltaラットを用いた肝臓および腎臓を標的とする遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法を開発するため、既知発がん物質を含む種々の化学物質を改良プロトコールにより試験した結果、その有用性が証明された。
2-MFは基本骨格フランと同様な肝毒性を示し、肝発がん性が示唆されたが、フラン同様に肝臓におけるレポーター遺伝子変異原性は陰性であり、フラン骨格化合物によるラット肝発がん過程において、遺伝毒性メカニズムが関与している可能性は低いと考えられた。
2-MFは基本骨格フランと同様な肝毒性を示し、肝発がん性が示唆されたが、フラン同様に肝臓におけるレポーター遺伝子変異原性は陰性であり、フラン骨格化合物によるラット肝発がん過程において、遺伝毒性メカニズムが関与している可能性は低いと考えられた。
公開日・更新日
公開日
2015-07-30
更新日
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