食中毒調査における食品中の病原大腸菌の統括的検査法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201426010A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒調査における食品中の病原大腸菌の統括的検査法の開発に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 禎一(大阪市立大学大学院 生活科学研究科)
  • 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
16,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品からの腸管出血性大腸菌の効率的検出法は、血清群O26、O103、O104、O111、O157について個別に通知されているものの、対象食品の限定もあり、統括的な検査法が必要とされている。また、諸外国では血清群O157に加え、感染の多い血清群4〜6種類を対象にした食品または牛肉からの検査法が検討されており、日本でも独自に主要な血清型を決定し、食品検査法を確立する必要がある。また、腸管毒素原性大腸菌については食品での検査法は確立されていない。このため、食品中の病原大腸菌の統括的検査法の開発を行うことを本研究の目的としている。平成26年度は、日本での主要な6血清群の腸管出血性大腸菌の検査に必要な遺伝子検出法、分離培養法など組み合わせた方法を確立する。腸管毒素原性大腸菌の病原性因子の解析を行い、食品検査法に適切な菌の特性および試験対象食品を考察する。
研究方法
平成26年度に、(1)大西は、腸管出血性大腸菌の主要な血清群解析および検査法への応用の検討を行った。また、主要ではないが病原性の高い血清群特異的な検査法の開発を行った。(2)工藤は、腸管出血性大腸菌の多様なO血清群に対応した食品検査法を検討するために、地方衛生研究所などと連携して国の通知する試験法の鋳型となる研究を行った。また、腸管毒素原性大腸菌の食品検査法での基礎条件検討を行った。(3)西川は、病原大腸菌のヒト、家畜などの分布を明らかにし、腸管毒素原性大腸菌の病原性因子の解析を行い、食品検査法に適切な菌の特性および試験対象食品を考察した。
結果と考察
食品中の病原大腸菌の検査法を開発するために、(1)腸管出血性大腸菌の血清群解析および検査法への応用の検討として、国内のヒトからの分離頻度の高い腸管出血性大腸菌はO157、O26、O145、O103、O121、O111、O91、O165(重症者由来株はO91以外)であること、マルチプレックスPCR検出系は患者便からの検出法としてO157、O165の抗原遺伝子、stx2、eaeについて応用可能であり、免疫磁気ビーズを用いた菌分離が可能であること、が明らかになった。また、(2)病原大腸菌の統括的検査法の開発として、食品からの腸管出血性大腸菌6血清群の検出では、増菌培養、免疫磁気ビーズ法、選択分離培地の組み合わせによる分離培養および遺伝子検出によって6血清群が総じて比較的高率に検出されることがコラボレイティブ・スタディにて確認された。これによって効率的な腸管出血性大腸菌の検査法の策定に貢献した(食安監発1120第1号 平成26年11月20日発「腸管出血性大腸菌O26、O103、O111、O121、O145及びO157」)。自治体を対象にした外部機関の講習会開催に協力し、普及の一助としての成果も上げた。腸管毒素原性大腸菌の増菌培養には腸管出血性大腸菌の試験法と同じ増菌培養が優れることが示された。今後、より正確なスクリーニング法(リアルタイムPCR法など)や優れた選択培地の開発が必要であることが明らかになった。さらに、(3)病原大腸菌の分布および病原性解析として、腸管病原性大腸菌は腸管出血性大腸菌よりもはるかに高い率で家畜から家禽にいたるまで分布することが判明し、腸管毒素原性大腸菌の分子疫学指標はウシ由来株と患者由来株の関連を示しており、ブタや健康者の分離株は下痢原性が低い可能性が示唆された。以上の研究成果で確立された腸管出血性大腸菌や毒素原性大腸菌の検査法が、食中毒の解明や汚染食品の調査等に貢献することが期待される。
結論
食品からの腸管出血性大腸菌の効率的検出法は、血清群O26、O103、O104、O111、O157について個別に通知されているものの、対象食品の限定もあり、統括的な検査法が必要とされていた。また、諸外国では血清群O157に加え、感染の多い血清群4〜6種類を対象にした食品または牛肉からの検査法が検討されている。このため、本研究によって日本での主要な血清型対象にした食品検査法を確立し通知された(食安監発1120第1号 平成26年11月20日発「腸管出血性大腸菌O26、O103、O111、O121、O145及びO157」)。今後、この方法の普及によって食中毒の解明や汚染食品の調査等が発展することが期待される。また、腸管毒素原性大腸菌については食品での検査法は確立されていないため、本研究の成果は基礎的条件として参照され確立に繋がることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201426010B
報告書区分
総合
研究課題名
食中毒調査における食品中の病原大腸菌の統括的検査法の開発に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 禎一(大阪市立大学大学院 生活科学研究科)
  • 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品からの腸管出血性大腸菌の効率的検出法は、血清群O26、O103、O104、O111、O157について個別に通知されているものの、対象食品の限定もあり、統括的な検査法が必要とされている。また、諸外国では血清群O157に加え、感染の多い血清群4〜6種類を対象にした食品または牛肉からの検査法が検討されており、日本でも独自に主要な血清型を決定し、食品検査法を確立する必要がある。また、腸管毒素原性大腸菌については食品での検査法は確立されていない。このため、食品中の病原大腸菌の統括的検査法の開発を行うことを本研究の目的とした。
研究方法
(1)大西は、血便および(または)HUSを発症している患者を重症者と定義し、これらの患者由来の腸管出血性大腸菌株のO血清群について集計した。また、O157、O26、O111、O103の抗原遺伝子とstx1およびstx2およびインチミン遺伝子(eae)のマルチプレックスPCR法を検討した。これらを対象にし、菌株および患者検体での検出法を検討した。(2)工藤は、腸管出血性大腸菌のVero toxin (VT)遺伝子(またはstx)検出スクリーニング法の効率化を検討した。また、日本での主要な血清群であるO157、O26、O111、O103、O145およびO121の6血清群を流通食品や原因食品調査の試験の対象に、O血清群特異的遺伝子の検出系の検討を行なった。さらに、多血清群に有用な選択分離培地を検討し、各種優れた検出法を組み合わせて統合した方法について、コラボレイティブ・スタディを一部実施した。また、腸管毒素原性大腸菌の食品検査法での基礎条件検討を行った。(3)西川は、ヒト、家畜、食肉等から各種病原大腸菌の網羅的検出をリアルタイムPCR法、コロニー・ハイブリダイゼーション法にて試みた。
結果と考察
食品中の病原大腸菌の検査法を開発するために、(1)腸管出血性大腸菌の血清群解析および検査法への応用の検討として、日本国内のヒトからの腸管出血性大腸菌の分離頻度の高いO血清群はO157、O26、O111、O103、O121、O145、O91、O165であり、患者便からの検出法としてO157、O165の抗原遺伝子、stx2、eaeについてマルチプレックスPCR検出系の応用が可能であった。これに、特異的な免疫磁気ビーズを用いた菌分離を組み合わせstx2、eae 陽性のO76がHUS症例から検出された。また、(2)病原大腸菌の統括的検査法の開発として、食品培養液からのVT遺伝子検出法(インターナル・コントロールを含む)によるスクリーニング法、食品での血清群O26、O103、O111、O121、O145およびO157特異的遺伝子の検出法を確立した。また、複数種類の酵素基質培地での鑑別分離や免疫磁気ビーズの優れた濃縮効果が明らかになった。多機関によるコラボレイティブ・スタディを実施し通知法策定の成果が得られた。腸管毒素原性大腸菌の増菌培養には腸管出血性大腸菌の試験法と同じ増菌培養が優れることが示された。今後、より正確なスクリーニング法(リアルタイムPCR法など)や優れる選択培地の開発が必要であることが明らかになった。さらに、(3)病原大腸菌の分布および病原性解析として、腸管病原性大腸菌の分子疫学指標はウシ由来株と患者由来株の関連を示し、ブタや健康者の分離株は下痢原性が低い可能性が示唆された。以上の研究成果を今後発展させて、腸管出血性大腸菌や毒素原性大腸菌など病原大腸菌の食品での検査法を開発し、食中毒の解明や汚染食品の調査等に貢献することが期待される。
結論
食品からの腸管出血性大腸菌の効率的検出法は、血清群O26、O103、O104、O111、O157について個別に通知されているものの、対象食品の限定もあり、統括的な検査法が必要とされていた。また、諸外国では血清群O157に加え、感染の多い血清群4〜6種類を対象にした食品または牛肉からの検査法が検討されている。このため、本研究によって日本での主要な血清型対象にした食品検査法を確立し通知された(食安監発1120第1号 平成26年11月20日発「腸管出血性大腸菌O26、O103、O111、O121、O145及びO157」)。今後、この方法の普及によって食中毒の解明や汚染食品の調査等が発展することが期待される。また、腸管毒素原性大腸菌については食品での検査法は確立されていないため、本研究の成果は基礎的条件として参照され確立に繋がることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201426010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
世界的に重要な食中毒細菌である腸管出血性大腸菌のO157以外の血清群を含めた食品試験法は、米国やEUなどでは各国で主要な血清群を決定し、それに対応する方法が既に確立され食品調査が始まっていたが、本研究によって日本での主要な血清群を確認し、それらに対応した試験法が確立された。このことから、食中毒原因食品の解明が進み、グローバル化した食品流通との関連性も研究されることが期待される。
臨床的観点からの成果
本研究の一部では腸管出血性大腸菌の日本での主要な血清群を確認したが、それら血清群ごとの感染者数や臨床症状には特徴があることが明らかになり、主要な血清群が共通して保有する接着因子が病原因子として重要であることや感染者数が少なくても同接着因子を保有しており、臨床症状として溶血性尿毒素症候群など重症化が認められられる血清群もあることが示された。臨床症状から、そのような血清群の感染も考慮され試験されることの必要性が考えられた。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
平成24年12月17日食安監発1217第1号「食品からの腸管出血性大腸菌O26、O111及びO157の検査法について」:それまでの通知法で使用されている遺伝子検出法等が本研究成果をもとに改定され通知された。平成26年11月20日食安監発1120第1号「腸管出血性大腸菌 O26、O103、O111、O121、O145 及び O157 の検査法について」:これまでの試験対象の3血清群に加え日本で感染数の多いO103、O121、O145も含めた食品試験法が本研究成果を元に通知された。
その他のインパクト
厚生労働省食品衛生検査施設信頼性確保部門責任者等研修会(平成24年10月5日、平成26年10月10日)にて、腸管出血性大腸菌の通知法について地方自治体担当者に講演を行い解説した。また、食品衛生登録検査機関協会の研修会(平成24年10月22日、平成25年12月6日、平成26年11月28日)にて、当該通知法について食品衛生実務者に講演を行い解説した。さらに、日本食品衛生協会(平成27年3月3日、同年6月5日)にて地方自治体の担当者に当該通知法について解説と実技指導を行った。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Iguchi A, Iyoda S, Ohnishi M
Molecular characterization reveals three distinct clonal groups among clinical shiga toxin-producing Escherichia coli strains of serogroup O103.
J Clin Microbiol , 9 (50) , 2894-2900  (2012)
原著論文2
Wang L, Wakushima M, Aota T, et al
Specific properties of enteropathogenic Escherichia coli strains isolated from diarrheal patients: comparison with the strains from foods and fecal specimens of cattle, pigs, healthy carriers in Osaka City, Japan
Appl. Environ. Microbiol. , 4 (79) , 1232-1240  (2013)
DOI: 10.1128/AEM.03380-12.
原著論文3
Morita-Ishihara T, Miura M, Iyoda S, et al
EspO1-2 regulates EspM2-mediated RhoA activity to stabilize formation of focal adhesions in enterohemorrhagic Escherichia coli-infected host cells.
PLoS One. , 2 (8) , e55960-  (2013)
原著論文4
Ohnishi, T., Goto, K., Kanda, T., et al
Microbial contamination by procedures of consumption and the growth in beverage.
J. Environ. Sci. Health, Part A. ,  (48) , 781-790  (2013)
DOI: 10.1080/10934529.2013.744647
原著論文5
Hara-Kudo, Y., Kumagai, S. Konuma, H., et al
Decontamination of Vibrio parahaemolyticus in fish by washing with hygienic seawater and impacts of the high level contamination in the gills and viscera.
J. Vet. Med. Sci. ,  (75) , 589-596  (2013)
doi: 10.1292/jvms.12-0459
原著論文6
Hasegawa, A., Hara-Kudo, Y., Ogata, K., et al
Differences in the stress tolerances of Vibrio parahaemolyticus strains due to their source and harboring of virulence genes..
J. Food Prot. ,  (76) , 1456-1462  (2013)
doi:10.4315/0362-028X.JFP-13-038
原著論文7
Kobayashi, N., Lee, K., Yamazaki, A., et al
Virulence gene profiles and population genetic analysis for exploration of pathogenic serogroups of Shiga toxin-producing Escherichia coli.
J. Clin. Microbiol. ,  (51) , 4022-4028  (2013)
doi:10.1128/JCM.01598-13
原著論文8
Jones, J.L., Benner, R.A., DePaola, A. et al
Vibrio densities in the intestinal contents of finfish from coastal Alabama.
Agr. Food Anal. Bacteriol. ,  (3) , 186-194  (2013)
原著論文9
Iyoda S, Manning SD, Seto K, et al
Phylogenetic clades 6 and 8 of enterohemorrhagic Escherichia coli O157:H7 with particular stx subtypes are more frequently found in isolates from hemolytic uremic syndrome patients than from asymptomatic carriers.
Open Forum Infectious Diseases , 2 (1) , ofu061-  (2014)
DOI: 10.1093/ofid/ofu061
原著論文10
Sudo N, Soma A, Muto A, et al
A novel small regulatory RNA enhances cell motility in enterohemorrhagic Escherichia coli.
J Gen Appl Microbiol. , 1 (60) , 44-50  (2014)
doi 10.2323/jgam.60.44
原著論文11
Isobe J, Shima T, Kanatani J, et al
Serodiagnosis using microagglutination assay during the food-poisoning outbreak in Japan caused by consumption of raw beef contaminated with enterohemorrhagic Escherichia coli O111 and O157.
J Clin Microbiol. , 4 (52) , 1112-1118  (2014)
doi:10.1128/JCM.03469-13
原著論文12
Saito, S., Iwade, Y., Tokuoka, T., et al
Epidemiological Evidence of lesser role of thermostable direct hemolysin (TDH)-related hemolysin than TDH on Vibrio parahaemolyticus pathogenicity
Foodborne Pathogens and Disease , 12 (2) , 131-138  (2015)
DOI: 10.1089/fpd.2014.1810
原著論文13
Iguchi A, Iyoda S, Kikuchi T, et al
A complete view of the genetic diversity of the Escherichia coli O-antigen biosynthesis gene cluster.
DNA Res. , 1 (22) , 101-107  (2015)
doi: 10.1093/dnares/dsu043
原著論文14
工藤由起子、磯部順子、古川一郎、他
腸管出血性大腸菌O26, O103, O111, O121, O145およびO157の食品からの検出における選択増菌培地および酵素基質培地の検討
日本食品微生物学会雑誌 , 32 (1) , 60-66  (2015)
原著論文15
Hara-Kudo, Y., et al
An interlaboratory study on efficient detection of Shiga toxin-producing Escherichia coli O26, O103, O111, O121, O145, and O157 in food using real-time PCR assay and chromogenic agar
Int. J. Food Microbiol. , 230 , 81-88  (2016)
doi: 10.1016/j.ijfoodmicro.2016.03.031

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
2020-06-22

収支報告書

文献番号
201426010Z