と畜・食鳥検査における疾病診断の標準化とカンピロバクター等の制御に関する研究

文献情報

文献番号
201426009A
報告書区分
総括
研究課題名
と畜・食鳥検査における疾病診断の標準化とカンピロバクター等の制御に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 茂貴(東海大学 海洋学部)
  • 中馬 猛久(鹿児島大学 共同獣医学部)
  • 森田 幸雄(東京家政大学 家政学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、1)食鳥肉のカンピロバクター等の制御、2)牛内蔵肉の衛生管理、3)と畜・食鳥検査における疾病診断の標準化の3項目に係る微生物リスク管理に関わる基礎・応用知見の集積を通じ、食肉の衛生を確保するための施策に貢献する研究である。
研究方法
(1)食鳥肉のカンピロバクター等の制御:農場検体・鶏肉からのカンピロバクター定性・定量検出試験は,概してISO 10272-1および-2:2006に準じて行い,得られた分離株はMLST解析に供することで、遺伝子型別試験を行った。食鳥糞便検体を用いて、複数の市販迅速簡便キットの評価を行った。
(2)牛内臓肉の衛生管理:内臓の漿膜面と粘膜面を採材し、生菌数/大腸菌数を測定した。また、牛ミノを対象に、煮沸湯中でのO157大腸菌の生残性を確認した。
(3)疾病診断の標準化:
12自治体の食肉衛生検査所の協力を得て、と畜検査マニュアルの共通化を図る上での問題点を抽出した。また、敗血症を一例として、現行の検査マニュアルの改訂案の作成にあたった。
結果と考察
食鳥肉のカンピロバクター等の制御に関する項目として、東北・九州地方の農場の協力を得て、調査を行った。東北地方の2農場を対象に、経時的汚染動態に関する検討を行い、特定の鶏舎が汚染源(増幅源)として出荷時における広範な農場内汚染を伝播したと推察される知見を得た。九州地方の農場では、持続汚染を顕すことが明らかな農場を対象として、一定期間毎に分離調査と分離株の遺伝子型別を行うことで、持続汚染を顕す農場においても、特有の遺伝子型株が持続的に農場に定着している訳ではないことが明らかになった。食鳥処理段階に関する事項として、処理場搬入鶏群の糞便中カンピロバクター菌数を測定し、A農場では搬入14日前・7日前・当日で3.7x107 CFU/g, 2.4x 106 CFU/g, 4.2 x 107 CFU/g、B農場では搬入14日前・7日前・当日で2.2 x 105 CFU/g, 1.7 x 105 CFU/g, 1.9 x 105 CFU/gであることを確認した。2)同一糞便検体を用いて、迅速簡便キットの有効性を評価し、一定数以上の汚染を示す検体であれば、有効性は担保されるとの結論を得た。3)エアーチラー設置処理場での聞き取り調査を行い、塩素滴下チラー水による処理後に冷却されたエアーチラー室内で30分間保持するという稼働状況を把握した。流通段階では、国産冷蔵鶏肉と輸入冷凍鶏肉におけるカンピロバクター検出率の比較を行い、これまでの知見の通り、国産冷蔵鶏肉の方が有意に高い検出率を示す状況を把握した。また、国産流通鶏肉の汚染率を部位別に比較した昨年度のデータとは異なる成績として、ささみ肉で最も高い検出率を認めた。また、カンピロバクター検出の有無と一般細菌数や腸内細菌科菌群数等の指標菌数は統計学的関連性を示さない状況を把握した。
牛内蔵肉の衛生管理に関する研究としては、全国8か所の食肉衛生検査所の協力の下、各食肉センター内の内臓処理施設で処理される牛白物(第二胃、第三胃、小腸、大腸)を対象に、漿膜面と粘膜面での汚染指標菌数の比較を行った。漿膜面の菌数が粘膜面より高い施設も存在していたが、衛生状況の良好な施設(全体での生菌数が概ね100-1000CFU/g)では、粘膜面でより高い菌数(約1対数個/g)を認めたことから、漿膜面の汚染菌数が高い施設では、処理中の交差汚染が想定され、今後処理方法を改善すべきと考えられた。衛生状況の良い施設では、1)一頭毎に処理台を洗浄する、2)洗浄水を適切な頻度で交換する、3)大腸を切開する際、腸内容物の汚染を漿膜面に拡大しない、4)腸管の洗浄間に氷冷却を行う等のポイントが挙げられたが、それぞれの施設の構造・設備を変更しなければ達成できないものもあることから、共通のマニュアル化は現時点では困難と考えられた。
と畜・食鳥検査における疾病診断の標準化に関する検討としては、前年度までに取りまとめた、今後診断基準の改正が望ましいと考えられる疾病のうち、敗血症を例に挙げ、食肉衛生に関わる12自治体の職員を対象に議論する場を設定した。現行マニュアルをもとに項目別に追加・削除・修正すべき要点を議論し、マニュアル案を作成した。
結論
食鳥肉におけるカンピロバクター制御にあたって、本研究の成果を生かしつつ、より実践的なアウトプットを検討していく必要があると考えられる。特に生食用の食鳥肉に対する制御策を検討することは急務の課題といえよう。また、牛内臓肉加工施設の衛生状況は、施設間で差異が大きいが、個々の施設での洗浄方法を精査し、指導していくことが当面の改善策と考えられた。検査マニュアルについては、実務者からの意見を集約し、実践的な利用価値を高める必要性が提唱された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201426009B
報告書区分
総合
研究課題名
と畜・食鳥検査における疾病診断の標準化とカンピロバクター等の制御に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 茂貴(東海大学 海洋学部)
  • 中馬 猛久(鹿児島大学 共同獣医学部)
  • 森田 幸雄(東京家政大学 家政学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
平成24年度:山本茂貴(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部)より、 平成25-26年度:朝倉宏(同上)に変更となっております。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では(1)食鳥肉のカンピロバクター等の制御、(2)牛内蔵肉の衛生管理、(3)と畜・食鳥検査における疾病診断の標準化の3項目に係る微生物リスク管理に関わる基礎・応用知見の集積を通じ、食肉の衛生を確保するための施策に貢献する研究である。平成24-26年度の研究実施により、以下の知見を得た。
研究方法
カンピロバクター分離はプレストン及びmCCDA寒天培地を用いた増菌培養を経て実施した。分離株は、MLST解析またはflaA-PCR法を用いた遺伝子型別解析に供した。鶏盲腸便については各種イムノクロマトキットに指示書に従って供し、検出感度の検証を行った。食鳥肉の衛生指標菌としては一般細菌数・腸内細菌科菌群等を用いた。冷凍処理は、研究機器による-20℃下での凍結条件を用いて実施した。
結果と考察
食鳥肉のカンピロバクター制御に関する検討を、農場・食鳥処理・流通の各段階で行った。農場段階では、農場内水平伝播様式及び汚染源の推定に関する研究、持続的汚染を顕す農場での汚染実態調査等を行った。東北地方の農場を対象とした汚染実態調査では、対象鶏舎の出荷鶏群は概ねカンピロバクター汚染を受けており、多くが水平伝播によると推察された。経時的汚染動態観察を通じ、特定鶏舎が汚染源として出荷時における広範な農場内汚染を伝播したと推察される知見を得た。持続汚染を顕すことが明らかな農場を対象に、分離調査と分離株の遺伝子型別を行い、当該農場では特有の遺伝子型株が持続的に農場に定着している訳ではないことが明らかになった。食鳥処理段階の検討では、汚染・非汚染鶏群の処理順序を考慮した場合の交叉汚染発生に関する実証試験を行い、識別と順序替えが可能な場合には、交差汚染を制御する有効な手立てであることが示された。鶏群の汚染をはかる手法としてイムノクロマト法に関する検討を行ったが、現行のキットでは、増菌培養が必要であることが明らかとなった。この他、最終年度にはエアチラー導入施設への立ち入り調査を行い、意見交換を行った。流通段階における検討としては、市販流通食肉におけるカンピロバクター分離陽性率に関する検討を行った他、カンピロバクター検出の有無と一般細菌数や腸内細菌科菌群数等の指標菌数は統計学的関連性を示さない状況を把握した。また、文献調査により当該段階での応用可能な手法として報告のあったものを調査し、その中より冷凍処理法に着目した上で、添加回収試験を通じた有効性の評価を行った。当該処理による汚染低減効果は概ね1~2対数個であり、40%の自然汚染率を示す鶏肉挽肉検体を用いた調査では、1日冷凍で陽性率は半減、1週間冷凍で更に半減する等、その有効性が示された。
牛内蔵肉の衛生管理に関する研究では、全国8ケ所の食肉衛生検査所の協力の下、食肉センター内・内臓処理施設で処理される牛白物(第二胃、第三胃、小腸、大腸)を対象に、漿膜・粘膜面での汚染指標菌数の比較を行った。漿膜面の菌数が粘膜面より高い施設も存在していたが、衛生状況の良好な施設(生菌数が概ね102-103CFU/g)では、粘膜面でより高い菌数(約1対数個/g)を認めたことから、漿膜面の汚染菌数が高い施設では、処理中の交差汚染が想定され、今後処理方法を改善すべきと考えられた。衛生状況の良い施設では、(1)一頭毎に処理台を洗浄する、(2)洗浄水を適切な頻度で交換する、(3)大腸を切開する際、腸内容物の汚染を漿膜面に拡大しない、(4)腸管の洗浄間に氷冷却を行う等の要点が挙げられたが、各施設の構造・設備を変更しなければ達成できないものもあり、共通のマニュアル化は現時点では困難と考えられた。
疾病診断の標準化に関する検討としては、前年度までに取りまとめた、今後診断基準の改正が望ましいと考えられる疾病のうち、敗血症を例に挙げ、食肉衛生に関わる自治体の職員を対象に議論する場を設定した。現行マニュアルの問題点に関する意見を集約した上で、項目別に追加・削除・修正すべき要点を議論し、敗血症に係るマニュアル案を作成した。
結論
農場のカンピロバクター陽転時期は既知の通りであったが、持続汚染農場の原因菌は必ずしも同一の菌株ではないことが示された。また、農場内鶏舎間での伝播様式を明らかにした。食鳥処理段階での衛生管理を図る上で、汚染・非汚染鶏群の識別が求められるが、これを可能とする迅速簡便検査法は、現時点では応用可能な状況にはなく更なる研究開発が求められる。流通段階での制御策としては、冷凍処理が有効であることが明らかとなった。
牛内臓肉の衛生管理対策として、施設改善以外のソフト面では、水洗浄の回数と頻度を安定的かつ積極的に確認することが有用と考えられる知見を得た。
疾病診断マニュアルの標準化については、検査所間での手技や知識の差異を統合した形で作成する必要があると結論づけられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201426009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
カンピロバクターの農場での制御を目指す上で、菌叢解析に関する知見の一部を得た。本菌の汚染を食鳥処理段階で完全に制御することは事実上困難であることから、流通段階を含めた対策を講じる必要があり、その意味において本研究で実施した冷凍に対する生存挙動成績は今後の対策を検討する上で有用になると考える。
臨床的観点からの成果
本研究班では臨床研究は実施していないが、カンピロバクター感染による入院患者の低減のためにも、食鳥肉を主体とする食品汚染の低減は貢献する課題である。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発を行うためには、今後も汚染低減を可能とする手法の開発や検証が必要となる。
その他行政的観点からの成果
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会食肉等の生食に関する調査会
平成26年3月17日
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Asakura H、 Masuda K、 Yamamoto S、 Igimi S
Molecular approach for tracing the dissemination routes of Shiga toxin-producing Escherichia coli O157 in bovine offal at slaughter.
BioMed Res. Int. , 2014 , 739139-  (2014)
原著論文2
Asakura H, Brueggemann H, Makino S, Sugita-Konishi Y.
Molecular approaches for the classification of microbial pathogens of public health significance
BioMed Res. Int. , 2014 , 725801-  (2014)
原著論文3
Asakura H, Hashii N, Uema M, Kawasaki N, Sugita-Konishi Y, Igimi S, Yamamoto S.
Campylobacter jejuni pdxA affects flagellum-mediated motility to alter host colonization
PLoS ONE. , 8 (8) , e70418-  (2013)
原著論文4
Asakura H, Taguchi M, Ekawa T, Yamamoto S, Igimi S.
Continued widespread dissemination and increased poultry host fitness of Campylobacter jejuni ST-4526 and ST-4253 in Japan
J Appl Microbiol. , 114 (5) , 1529-1538  (2013)
原著論文5
Asakura H, Brüggemann H, Sheppard SK, Ekawa T, Meyer TF, Yamamoto S, Igimi S.
Molecular evidence for the thriving of Campylobacter jejuni ST-4526 in Japan.
PLoS ONE. , 7 (11) , e48394-  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
2018-06-19

収支報告書

文献番号
201426009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,300,000円
(2)補助金確定額
9,300,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,654,417円
人件費・謝金 46,200円
旅費 1,396,994円
その他 2,202,389円
間接経費 0円
合計 9,300,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
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