老化、癌化におけるDNA修復の役割に関する研究

文献情報

文献番号
199800408A
報告書区分
総括
研究課題名
老化、癌化におけるDNA修復の役割に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田中 亀代次(大阪大学細胞生体工学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 北村幸彦(大阪大学医学部)
  • 畠中寛(大阪大学蛋白質研究所)
  • 堀尾武(関西医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair; NER)機構は、紫外線(ultraviolet light; UV)、種々の化学発癌剤を始め多種の要因によるDNA損傷を修復する重要なDNA修復機構の一つである。NER機構には「転写と共役したヌクレオチド除去修復」 (transcrition-coupled NER; TC-NER) と「ゲノム全体の修復」(global genome NER; GG-NER)の2つのsubpathwayが存在し、TC-NERにより転写鎖上のDNA損傷は非転写鎖上のそれよりも早く修復され、GG-NERにより転写鎖以外の損傷はゆっくりと修復される。NER機構に異常を持つヒト遺伝疾患として、高発癌性の色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum; XP)と早老症コケイン症候群(Cockayne syndrome; CS)が知られており、CSではTC-NER機構が選択的に欠損していることが解っている。CSにはAとB群の2つの遺伝的相補性群が存在し、CSA(A群CS)、CSB遺伝子が既にクローニングされている。しかし、NE-TCR機構の詳細は不明である。本研究では、TC-NERの分子機構の一端を解明すると共に、XPA遺伝子をノックアウトしたマウスを用いて、その紫外線による高頻度皮膚発癌の分子機構を解明することを目的とする。
研究方法
1)XPA蛋白質の損傷DNA結合ドメインおよびRPA p70 subunit結合ドメインであるMF122の高次構造解析は、multi-dimentional heteronuclear magnetic resonance (NMR) spectroscopyにより行った。2)酵母Two Hybrid SystemによるXAB2遺伝子のクローニングは、pGBT9-XPA (Gal4 DNA binding domain-XPA fused protein producer, TPR1)をbaitにして、pGADGH-HeLa cDNA library (Gal4 activation domain fused protein producer, LEU2)をスクリーニングすることにより行った。4)XAB2とCSA、CSBの免疫共沈降実験には、heamagglutinin (HA)-tagを付けたCSA、CSB cDNAを発現させたCS-AおよびCS-B細胞を用いた。まず、これらの細胞抽出液を抗HAモノクローナル抗体で免疫沈降し、その沈降物をSDS-PAGEで分離してのち、抗XAB2ポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロットし、XAB2とCSA、CSBの細胞内での結合を確かめた。XAB2とRNA polymerase IIとの免疫共沈降では、RNA polymerase II最大サブユニットに対するモノクローナル抗体を用いた。5)抗XAB2血清のマイクロインジェクション法によるXAB2蛋白質の機能解析は以下のように行った。正常ヒト線維芽細胞の細胞質に抗XAB2血清をマイクロインジェクションし、24時間培養する。そこでUV照射し、不定期DNA合成の測定のためには、照射後すぐに[3H]-thymidineによるパルスラベルを行う。UV照射後のRNA合成の回復の測定には、UV照射24時間後に[3H]-uridineによるパルスラベルを行う。ついで、オートラジオグラフィーによりこれらの[3H]-thymidine、[3H]-uridineの細胞内への取り込みを銀粒子として可視化した。6)XPA欠損マウスのUV照射により発生した皮膚癌組織におけるp53遺伝子の突然変異の解析は以下のように行った。切片標本において皮膚癌組織部分のみをmicrodissection法でかき集め、DNAを抽出し、PCR法にてexon 5、6とexon 7、8を増幅した。それらを用いてdirect sequencing法にて突然変異の有無を調べた。7)RLGS解析は吉川らの方法(Biochem. Biophys. Res. Comm., 196, 1566-1572, 1993)により行った。
結果と考察
1)NMR法により、XPA蛋白質の損傷DNAおよびRPA p70 subunit結合ドメインは、C4タイプZincフィンガーおよびαヘリックス・ターン・ヘリックスのサブドメインからなることを明らかにした。また、C4タイプZincフィンガードメインにRPA p70 subunitが結合し、αヘリックス・ターン・ヘリックスドメイ
ンに損傷DNAが結合することを明らかにした。蛋白質が結合するZincフィンガードメインの構造解析としては最初の成果である。2)yeast two hybrid systemを用いて、XPA蛋白質と結合する新規の蛋白質(XPA-binding protein 2: XAB2)を見つけた。さらに、XAB2蛋白質はCSA蛋白質、RNAポリメラーゼII/CSB蛋白質複合体とも結合することを明らかにした。さらに、抗XAB2抗体を正常細胞にマイクロインジェクションしたところ、XP-C細胞における紫外線照射後の不定期DNA合成が著明に抑制されたが、正常細胞の不定期DNA合成は抑制されなかった。さらに、正常細胞の紫外線照射後のRNA合成の回復が抗XAB2抗体により著明に抑制された。これらの結果は、XAB2蛋白質が、TC-NERに必須の因子であることを示唆する。全長のXAB2蛋白質に対する抗体をマイクロインジェクションすると、未照射細胞のRNA合成も抑制され、XAB2蛋白質は転写そのものにも重要な役割を果たすことが明らかになった。4)XAB2遺伝子をノックアウトしたマウスを作成するため、マウスXAB2遺伝子をクローニングし、その構造と機能を明かにした。そして、転写制御部位とエキソン1ー4を欠失させるような、あるいは、C末端162個のアミノ酸残基を欠失させるような、ポジテイブーネガテイブ選別用のターゲテイングベクターを構築し、そのターゲテイングにより相同組み換え体ES細胞を数クローン得た。5)XPAマウスは低線量のUV照射により皮膚癌を高頻度で発生した。XPAマウスにUV照射し発生した皮膚癌のp53遺伝子の突然変異は正常マウスのそれとは異なり、変異のホットスポットが欠如していること、転写鎖のDNA損傷が突然変異の原因になっていることを明らかにした。6)RLGS (restriction landmark genomic scanning) 法により、癌細胞および癌組織で共通に変化しているスポット63例(減衰スポット45、増幅スポット18)を選定し、更に、そのうち共通性の高いスポット19例(減衰スポット12例、増幅スポット7例)についてクローニングを行い、サザンブロッティングおよびノーザンブロッティングによって、単離したDNAの皮膚癌におけるゲノム構造および発現の変化を調べた。それらの内、ノーザンブロッティングでDermo-1遺伝子発現が腫瘍と正常上皮で異なっていることを見つけた。
結論
1)XPA蛋白質の損傷DNAおよびRPA p70 subunit結合ドメインの高次構造をNMR法により解明した。2)CSA、CSB、XPA蛋白質、および、RNA Polymerase IIと結合する活性を持ち、TC-NER機構に関与する新規の蛋白質 XAB2を同定し、その遺伝子をクローニングした。3)XPA欠損マウスにUV照射し発生した皮膚癌のp53遺伝子の突然変異は、正常マウスのそれとは異なり、変異のホットスポットが欠如し、転写鎖のDNA損傷が突然変異の原因になっていた。Restriction Landmark Genomic Scanning法により、XPA欠損マウスに発生した皮膚癌と正常皮膚上皮のDNAを比較し、皮膚癌で特異的に変化している遺伝子を同定した。

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