産業保健分野のポピュレーションアプローチ推進手法の開発と産業保健師等の継続教育に関する研究

文献情報

文献番号
201425012A
報告書区分
総括
研究課題名
産業保健分野のポピュレーションアプローチ推進手法の開発と産業保健師等の継続教育に関する研究
課題番号
H25-労働-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
荒木田 美香子(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
研究分担者(所属機関)
  • 青柳美樹(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
  • 大谷喜美江(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
  • 吉岡さおり(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
  • 谷 浩明(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
  • 池田俊也(国際医療福祉大学 大学院)
  • 大神あゆみ(大神労働衛生コンサルタント事務所)
  • 五十嵐千代(東京工科大学)
  • 三好智美(東京工科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢労働者の増加に伴い、健康で安全な職場の創造は喫緊の課題である。対策として、特定のリスクをもった人への対応(ハイリスクアプローチ)だけでなく労働者の健康確保に向けた職場ぐるみの対策(ポピュレーションアプローチ)が必要であり、それを効果的に行う有能な産業保健師等の人材育成も必要である。そこで、本研究は多数の労働者に産業保健サービスを提供する方法としてポピュレーションアプローチによる事業所の健康づくり発掘し、その推進手法を検討することを目的とした。さらに産業保健の推進に貢献できる産業保健師等を育成するためのキャリアラダーを開発し、それに基づいた教育を構築することを目的とした。
研究方法
これらの目的を達成するために、本研究の調査は大きく2つからなっている。一つは事業所の健康づくりに関する取り組み事例の収集(研究1:中高年労働者の健康づくりに関する推進手法の開発-事業所へのインタビュー調査から)である。もう一つは、産業保健師の研修プログラムの開発(研究2. 産業保健師等の継続教育に関する研究―キャリアラダーに基づく研修モデルの構築―)であった。
研究1はインタビュー内容は、①事業所の特に中高年労働者の健康課題(健康状態、事故の状態)、②高齢労働者へのポピュレーションアプローチによる健康増進対策をおこなうことになった理由や背景、③高齢労働者へのポピュレーションアプローチによる健康増進対策の内容・推進体制、④対策の手ごたえ、成果、社員への影響(影響評価、結果評価)、⑤対策をうまく展開させるための工夫(困難だったところへの対応もふくむ)であった。インタビューは文章化し、産業保健分野のポピュレーションアプローチ推進手法を明らかにできるように、質的・帰納的に分析を行った。さらに共同研究者間で検討を行った。
研究2は1年目の新人期、5年目のマスター期の研修モデルを構築した。いずれも3回の研修に分け、回の間には課題を提出し、参加者が自分たちの職場を意識しながら進めていけるように、理論と実践の両方を取り入れた。研修内容は、ポピュレーションアプローチを展開することが多い総括管理の中でも、職場組織をみる力(職場アセスメント力)を育てる点にウエイトをおいた。
 研修の評価はラダーをもとに項目を設定し、研修前後に自己評価を行った。
 研修への参加者は新人期の研修に6名、マスター期の研修に6名の参加者が得られた。
結果と考察
研究1の聞き取り調査では、事業所の業種、勤務、資源などの状況に応じて、様々な健康づくりが展開されていた。この中で、保健専門職が労働者の健康課題について健診結果や生活習慣に関するデータを分析しており、更に入手できる場合は医療費の変化も分析していた。これらの分析から単年度の労働衛生計画ではなく、複数年にわたる中期的な労働衛生計画を立案していることが明らかとなった。このことより、産業保健スタッフは情報を分析し、計画に反映し、アウトカム指標を含んだ評価を行える能力が重要であることが示唆された。
一方、研究2の新人期とマスター期の産業保健師を対象とした研修では、キャリアラダー作成の段階で多くの先駆的活動をしている産業保健師から意見が出た“組織をみる力”“企業人としての能力”の育成に主軸をおいて研修を行った。新人期には保健事業計画の施策と立案が到達度には達していなかったが、経験5年目のマスター期ではそれらは到達度に達していた。
結論
中高年労働者に対する対策を事業所で中長期的に展開するには、健康診断結果や保健行動などの情報を分析・評価することによって、健康課題とそれに応じた労働衛生事業を計画に組み込むと共に、実施計画に評価計画に組み込んでおく必要がある。このような分析・計画・評価ができる保健専門職の育成が求められていた。就職したときから5年目までにそれらの業務への自信度が上昇する可能性があることより、この時期の研修に集団を把握するための方法や評価に関する研修を組み入れていくことの重要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

文献情報

文献番号
201425012B
報告書区分
総合
研究課題名
産業保健分野のポピュレーションアプローチ推進手法の開発と産業保健師等の継続教育に関する研究
課題番号
H25-労働-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
荒木田 美香子(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
研究分担者(所属機関)
  • 青柳美樹(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
  • 大谷喜美江(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
  • 谷 浩明(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
  • 池田俊也(国際医療福祉大学 大学院)
  • 五十嵐千代(東京工科大学 医療保健学部)
  • 三好智美(東京工科大学 医療保健学部)
  • 吉岡さおり(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
  • 大神あゆみ(労働科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢労働者の増加に伴い職場における健康づくりの推進は喫緊の課題である。対策の進め方としては、特定のリスクをもった人への対応(ハイリスクアプローチ)だけでなく労働者の健康確保に向けた職場ぐるみの対策(ポピュレーションアプローチ)が必要であり、それを効果的に行う有能な産業保健師等の人材育成も必要である。そこで、本研究は多数の労働者に産業保健サービスを提供する方法としてポピュレーションアプローチによる健康づくり活動を収集し、その推進手法を開発する。さらに産業保健の推進に貢献できる産業保健師等を育成するためのキャリアラダーを開発し、それに基づいた教育を構築することを目的とした。
なお、本研究では、中高年労働者を50歳以上の労働者と操作的に定義した
研究方法
上記の目的を達成するために、平成25年度には研究1・2を実施し、平成26年度には研究3・4を行った。
【平成25年度の研究】
研究1.産業保健分野における基礎的実態調査
①衛生管理者及び産業看護職への調査(高齢者対策・健康増進対策の実施状況)と②労働者への調査(加齢に伴う心身の変化と自覚等)を行った。
研究2. 産業保健師等のキャリアラダーの開発
先行研究等を参考に、産業保健師等のキャリアラダーの開発と妥当性の確認(H25年実施)を行った。
【平成26年度の調査】
研究3. ポピュレーションアプローチ推進手法の開発
事業所における健康づくり事業の聞き取り調査を行ない、健康づくりの推進手法を検討し、それをもとに「中高年労働者のための健康づくり 事業所の取り組み 事例集」を作成した。
研究4.平成25年度に作成した産業保健師等のキャリアラダーをもとに、1年目の新人期と、5年目のマスター期の研修プログラムを作成し、実施し、評価した。

結果と考察
文献検討から、加齢による中高年労働者の心身の変化は非常に幅広いことがわかった。研究1の労働者に対する質問紙調査では中高年労働者は健康診断などの異常や所見があることは認識しているが、自覚的健康度は若い年代よりも高い傾向があった。また、中高年労働者では運動、食事、睡眠といった保健行動は意識して実施しているものが高くなっていた。つまり、中高年労働者の健康に対する意識は、異常などが指摘されていることや治療の必要性を認識し、何らかの保健行動を行っているが、自覚症状も少なく、身体的な変化も感じていないため、健康度自体は高いと認識しているというアンビバレントな状況にあることがわかった。また、保健行動の実施という点については、30~40歳代は中高年より実施していない傾向にあり、将来の生活習慣病対策を取ることが必要であると考えられた。
 一方、衛生管理者や産業保健師等は中高年労働者の健康管理のためには、メンタルヘルス対策、健診後の保健指導、二次健診の徹底を行うことが重要であると考えていた。実際に事業所を訪問して、中高年労働者の健康課題に対するポピュレーションアプローチは、若い年代の将来を考えて、50歳以上を対象にするというより、全社員の健康づくりとして実施するという事業所が多かった。
 事業所では健康づくりとして、様々な工夫をしてメンタルへルス対策、喫煙対策、食堂メニューの見直し、運動やロコモティブシンドロームに関することなどを行っていた。聞き取り調査から判断する限り、健康づくり活動の展開には必ず、キーパーソンがいた。キーパーソンが産業医・産業歯科医・産業保健師といった産業保健専門職である場合は、健診結果や社員の保健行動などの分析が行われており、複数年や中長期の労働安全衛生計画に寄与することができると考えられた。
 研究4では実際に産業保健師の研修プログラムを開発し、産業保健師に研修を行った。受講者の満足度は高かった。また、研修の受講後の自己評価では、新人期では、計画の立案や、有害物取り扱いや海外赴任者への保健指導などを日常業務で行っていない受講者については、それらの項目の得点が低く、現場での業務経験が研修の成果に影響していることが明らかとなった。マスター期では計画の立案といった業務の自己評価は到達度に達していた。
結論
中高年労働者の増加に伴い、健診などの有所見率も高くなることより、保健師等の産業保健専門職は関連の情報を集め、分析し、アセスメントを企業や労働者に返すという、集団の特徴をとらえて、中期的な計画作成に活かせるような活動を行うことが、事業所における産業保健専門職の特徴であり、求められる業務といえる。大学卒業後のできるだけ初期の現認教育に組み込んでいく必要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201425012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は今後一層の高齢化が予想される企業における産業保健サービスを提供する方法としてポピュレーションアプローチによる事業所の健康づくり発掘し、その推進手法を事例集としてまとめた。事例集は企業などで活用していただけるものである。また、ポピュレーションアプローチを推進する企業のキーパーソンとして活躍が期待される産業保健師のラダーを検討し、1年目と5年目の産業保健師を対象にモデル事業として研修を行ない、そのカリキュラムの検討を行った。
臨床的観点からの成果
平成25年度には労働者、衛生管理者、産業保健師等への全国的規模の質問紙調査を行った。その結果より、労働者の年代別の健康状態、産業保健に期待する事項に加えて、事業所の健康づくり活動の実態が明らかとなった。また産業保健師等の現時点での能力や研修への希望が明らかとなった。さらに、産業保健師に向けた研修カリキュラムモデルを作成した。平成26年度には事業所の健康づくり活動の事例集を作成した。これらの結果は、産業保健現場での健康づくり活動や産業保健師等の研修に役立てることができる。
ガイドライン等の開発
行政における審議会などでは参考とはされていない。平成26年度に実施した事業所への健康づくり事例の聞き取り調査の結果は「中高年労働者の健康づくりー事業所の取り組み 事例集」にまとめ、ホームページに掲載し、制限を設けず、随時ダウンロードできるようにした(平成27年3月)。また、開発した産業保健師のキャリアラダーは日本産業衛生学会産業保健看護専門家制度(平成27年5月の総会で承認)の能力のモデルとして反映されている。
その他行政的観点からの成果
現時点では審議会などでは参考とはされていない。しかしながら、企業では中高年労働者の増加が一層進行し、労働者の健康維持が大きな課題となる。本研究で企業における健康づくりに関する労働者のニーズ、産業保健スタッフの意識・能力の実態の現状を明らかにしたという点、また、労働者100人以上の企業と50人程度の中小企業の実態を比較検討できる情報を提供したという点は、今後の対策にも参考としていただける部分が大きい。
その他のインパクト
現時点ではマスコミ発表等の当該の業績はない。産業保健師の1年目と5年目を対象に研修プログラムのモデル事業を行った。これらのカリキュラムや内容は、日本産業衛生学会の産業保健看護専門家制度において活用していく予定である。また、事業所の健康づくり事例集についてはHPに公開している。しかしながら、まだ論文として発表していないため、論文作成をしていくのが課題である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
中小規模事業場における労働者の健康状況と健康行動の特徴、労働者の健康診断結果の認識と保健行動の関係性 Population Approachの展開に向けて.他3件
学会発表(国際学会等)
2件
Current Situations and Problems of Health Services for Aging Workers in Japan(ICOH)。他ICCHNRにて1件.
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
2019-06-25

収支報告書

文献番号
201425012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
3,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 185,838円
人件費・謝金 768,470円
旅費 736,228円
その他 1,338,781円
間接経費 900,000円
合計 3,929,317円

備考

備考
補助金確定額を超過した29317円は研究者代表者の大学研究費より支出した

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-