東京電力福島第一原子力発電所における緊急作業従事者の放射線被ばく量と水晶体混濁発症に関する調査

文献情報

文献番号
201425008A
報告書区分
総括
研究課題名
東京電力福島第一原子力発電所における緊急作業従事者の放射線被ばく量と水晶体混濁発症に関する調査
課題番号
H25-労働-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 洋(金沢医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 初坂 奈津子(金沢医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所での緊急作業従事者における水晶体への影響について調査する。本研究では厚生労働省が構築したデータベースを活用し、外部被ばく者を対象に、被ばく後3~5年における累積被ばく量と水晶体混濁発症の関係について、細隙灯顕微鏡所見および撮影画像を分析し検討する。平成25年度に引き続き、平成26年度も受診者の多い健診施設における眼科健診と健診システムの構築および昨年度開発した水晶体徹照撮影用簡易型カメラの改良を行う。
研究方法
震災による東電福島第一原発における緊急作業従事者約13,000名の内、水晶体混濁に関するデータが収集可能であった者について水晶体混濁と累積被ばく量の関係を検討する。年1回の眼科健診が義務付けられているが、本調査では前眼部解析装置にて水晶体徹照画像・スリット画像撮影を行う。水晶体混濁病型評価は申請者である佐々木が全て行う。水晶体撮影法は受診医療機関ごとに異なる可能性があるため、下記指針に準じた混濁評価法・撮影法を受診医療機関に依頼し、判定の精度向上を目指す。核、皮質、後嚢下白内障の3主病型に関してはWHO分類を使用し、程度0~3の4段階。皮質白内障に関しては瞳孔領3mm以内の混濁有無についても判定する。視機能に影響する副病型Retrodotsについては金医大分類を用いて0~4の5段階評価を行う。放射線による後嚢下白内障の初期病変として重要なVacuolesは徹照画像判定が可能であり、後嚢下にみられたVacuolesの個数により評価する。統計解析については加齢白内障の危険因子を調整した上で、被ばく量と白内障との関連を検討する。本調査ではコントロール群がないため、極めて被ばく量の少ない者をコントロール群として、多被ばく量群との比較も行う予定である。統計解析は初坂が担当する。
結果と考察
本年度は受診者の多い施設である東電本店、福島第一原発、柏崎刈羽原発における健診を行い、計510名(1020眼)の水晶体撮影を行った。水晶体撮影は前眼部解析装置(EAS-1000、ニデック)および簡易型徹照カメラを使用し、水晶体徹照画像およびスリット画像の撮影を行い、撮影画像から申請者が白内障の混濁病型について判定した。水晶体混濁の有所見率は皮質白内障2.06%、瞳孔領皮質白内障0.59%、核白内障0%、後嚢下白内障0%、Retrodots 0.39%、Water clefts 1.96%、Vacuoles 12.55%であった。昨年度より対象者数が増えてはいるが、昨年度の有所見率に比べ本年度は高く、この1年で新たに白内障初期変化を発症した症例が多くみられた。放射線白内障に特徴的な後嚢下白内障の初期病変である可能性がある後嚢下中央3mm以内のVacuolesの有病率も昨年度(1.96%)に比べ、本年度(7.45%)は急激に増えており、来年度以降に後嚢下白内障を発症する症例が増える可能性がある。
昨年開発した水晶体徹照撮影用簡易型カメラを健診で使用し、改良点について検討した。徹照画像をきれいに撮影するためには虹彩面に合わせる必要があり、眼球とカメラの距離を微調整しなければならない。暗室で行うには難しいため、カメラ装置にLEDライトを組み込み、暗室での微調整・撮影を可能にした。また、暗室でも被験者が固視灯を見やすいように、装置内部に赤・緑のLEDライトを取り付けた。長時間の連続撮影を可能にするため、バッテリーを電源を使用するもに改良した。
本年度、Vacuolesの有所見率が急激に増えたことを確認できたことは、本縦断的調査での大きな成果と言える。被ばく量との関係がまだ検討できていないため、これが本当に放射線被ばくの影響であるか断定できないが、その可能性は十分にあると考える。今後も長期に渡りこれらの症例を追跡調査することにより、被ばく量と初期混濁発症時期の関係、初期病変の進行過程を明らかにすることで、低線量被ばくによる水晶体への影響をより明確にできる可能性がある。水晶体の累積被ばく量については、近日中に東電側からの入手が可能になるため、来年度は累積被ばく量と水晶体混濁の関係について検討ができる。
受診者数が多い健診施設用に開発した簡易型徹照撮影用カメラを設置して、多施設で調査を行う予定であったが、限られた予算であり調査の実施は極めて困難であるのが現状である。しかし、開発中の簡易カメラはEAS-1000と同等の画像が得られることも確認しており、今後の放射線白内障の評価に有用であると考えられた。
結論
被ばく後4年では視機能に影響する放射線白内障の症例は少なかったが、この1年で初期白内障の有所見率が急増した。今後視機能に影響する白内障を生じる症例が増加する可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-10-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201425008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,000,000円
(2)補助金確定額
2,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,500,336円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 38,664円
間接経費 461,000円
合計 2,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
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