サル等を用いたウイルスベクターの安全性及び有効性評価のための実験系の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800405A
報告書区分
総括
研究課題名
サル等を用いたウイルスベクターの安全性及び有効性評価のための実験系の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山田章雄(国立感染症研究所)
  • 佐多徹太郎(国立感染症研究所)
  • 北村義浩(国立感染症研究所)
  • 神田忠仁(国立感染症研究所)
  • 永井美之(国立感染症研究所)
  • 西山幸広(名古屋大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療用ウイルスベクターの安全性と有効性の評価の為の系を確立することを研究目標とする。評価系の中で、ヒトに近い霊長類を使用したものは、特に今後重要と思われる。しかし、ベクターの安全性は、ベクターが作られた基となるウイルス自体の性質にも左右される。従って、ベクターとしての改変により基のウイルスとどれくらいヒトへの病原性が低下しているか、又、基のウイルスがヒトに病原性を欠くとされている場合には、ウイルス自体の病原性の再評価が必要である。このような検討を加えつつ、同時に、研究を行政に反映させる為、現在、世界で進行中の遺伝子治療の安全評価を総括し、それぞれのベクターに対する具体的な評価項目の設定を行う事とした。
研究方法
アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスを対象に、サルを使用した安全性評価研究を行う事を目的として班を構成した。サルの実験は、筑波霊長類センターをベースに行った。アデノウイルス、AAVについては、神田班員、レトロウイルスについては北村班員、ヘルペスウイルスについては西山班員、センダイウイルスについては永井班員が担当した。サルにおけるウイルス体内分布につき、佐多班員が病理学的解析を行った。実験対象となるサルの免疫学的性質を明らかにしておくことがベクター評価の上で重要であるので、カニクイザルの主要組織適合抗原の解析を山田班員が担当した。最後にこの研究の行政的利用を考慮し、遺伝子治療におけるベクターの使用を再評価する作業を吉倉が行った。
結果と考察
ヘルペスウイルスベクターの開発と安全性評価:最良のヘルペスウイルスベクター構築の為、ウイルス構造遺伝子のみならずウイルス遺伝子産物の内機能が不明な遺伝子すべてに対する抗体を作成し機能解析をした。US3遺伝子はアポトーシス抑制機能を持ち、UL39は主要抑制機能を持つ事を明らかにした。
センダイウイルスベクターのサル個体レベルでの安全性解析:サル免疫不全ウイルス粒子内蛋白、外皮蛋白及びインフルエンザウイルス血球凝集素蛋白を発現するセンダイウイルスを構築し、サルとマウスに置いてその安全性と良好な免疫誘導性を確認した。
導入効率の良いレトロウイルスベクター系開発:安全なレトロウイルスベクターはマウス白血病ウイルス由来のものであるが、宿主細胞が増殖しないと感染が成立しない。この為、宿主細胞の増殖を誘導する系の確立が必要である。サルでの実験系確立の為サルのStem Cell Facor とLeptinのcDNAのクローンを分離した。
AAVベクターの安全性有効性の解析:AAVはRep遺伝子が機能していると染色体の特定部位に組み込まれる。ヒトの組み込み部位配列に対するサルの相同配列をクローンし、塩基配列を決定した。他方、lacZ遺伝子を持つAAVを独自に開発した。これらは、サルでのAAV体内動態解析に必須なこの2つの道具となる。
ヒト剖検例におけるウイルス抗原存在部位の検索:ベクターの安全性を解析する上で、ベクターが由来した基のウイルスの生体内分布を知る必要がある。この為、種々のウイルス感染におけるアデノウイルス、AAVの臓器内分布を検索した。アデノウイルス感染剖検症例9例の内1例で肺病変部にAAV抗原を検出した。但し、アデノウイルス抗原は何れの症例でも検出し得なかった。種々のウイルス感染症例検体114例につき末梢血のAAV検索を行った処、3例が陽性であった。ヒトパピローマウイルス感染子宮頚部病変につき検索したケースでは、CIN1、2、3及び頚部がんでそれぞれ25%、8%、21%、63%がAAV陽性であった。これらの結果は導入ベクターと自然感染ウイルスとの相互作用を安全評価の際、考慮しなければならない事を示唆する。
カニクイザル組織適合抗原の解析:医学実験に用いられる頻度の高いカニクイザルのMHCクラスI遺伝子をRT-PCRと塩基配列決定により解析し、新たにA座に3つのアレルを発見した。
ウイルスベクター安全性評価基準の資料作成:本年度からこの作業を開始した。AAVに本当に病原性が無いのか、アデノウイルスベクターの治療中の分泌の問題、パピローマウイルスや肝炎ウイルス感染者におけるウイルスベクターの使用など、幾つかの問題が浮かび上がった。
種々のウイルスベクターに関する安全性評価の研究を開始したが、ベクターの基となるウイルスの生物学的性質が、特に生体内での挙動について不明である事が問題であることが認識された。又、生体に自然感染しているウイルスの存在が明らかとなり、これらのウイルスと遺伝子導入ベクターとの遺伝学的相互作用が問題となる可能性が出てきた。最後に、宿主の免疫学的性質が有効性、安全性評価に可成りの影響を及ぼすことが予測されるに至り、安全性評価に於ける宿主の評価の重要性が浮かび上がって来た。
結論

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研究報告書(紙媒体)

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