医療需要およ医師供給に対する多変量推計モデル

文献情報

文献番号
201424040A
報告書区分
総括
研究課題名
医療需要およ医師供給に対する多変量推計モデル
課題番号
H26-医療-指定-027
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
藤田 伸輔(千葉大学 予防医学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 井出 博生(千葉大学医学部附属病院 地域医療連携部)
  • 土井 俊祐(千葉大学医学部附属病院 地域医療連携部)
  • 竹内 公一(千葉大学医学部附属病院 地域医療連携部)
  • 小林 美亜(千葉大学医学部附属病院 地域医療連携部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の人口は減少局面に突入しており、大都会での医療需要増加と日本の大部分での医療需要減少が見込まれる。これまでわが国の医療は国民の健康向上を目指してひたすら成長戦略をとってきたと言える。成長戦略では経費(医療費)の増大はサービスの向上(国民の健康増進・健康寿命の延長)にともなう便益の向上によってカバーされてきた。しかし国民の総人口が減少しているため、急速に人口減少が進んでいる多くの地域はもちろんのこと、人口集中地域においても合理化戦略に切り替える必要があるといえよう。医療は国民の健康向上を目的とするものであり、わが国が重視してきた均てん化、公平性の維持が最重要課題と考える。言い換えれば医療需要が減少する中で適切な医師の配分を長期的視野で検討する手法の開発が急務であり、これが本研究の目的である。
研究方法
人口推計モデルから医療需要を推計し、医療供給を検討する手法を確立することが我々の目的であるが、合理化戦略の中でこの目的を達成するためには地域ごとの分析が必要である。先行研究では行政区画単位や二次保健医療圏単位などの分析がなされているが、行政区画と生活圏は乖離している場合も少なくないことから、本研究では全国町丁字別人口データを用いる事とした。医療需要推計の根幹となる受療率については、研究着手時点での水準が続くと仮定する先行研究が多く見られるが、医療の持続的な進歩を考慮し、受療率の改善がどの程度見込まれるかについても検証した。また、得られた医療需要に対してどのように医療を提供するかの検証手法については、医師の労働を詳細に分析した資料が入手困難なため、検討手法そのものを検証した。
結果と考察
医療受療率については、全国規模で同じようなスピードで改善していることを示し、現状のデータをそのまま投影するシナリオ1に対して、性・年齢別の改善傾向が今後も続くとするシナリオ2、性別のみの改善傾向が続くとするシナリオ3を提案した。最も医療需要が低くなるシナリオ2に基づく結果は、「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」による案Aと近似した。次に、地理情報システム(GIS)によるアクセス性解析と、3つのシナリオの推計結果をもとに、全国の一般・療養病床数の過不足を検討した。結果として、シナリオ1では2025年に都市部を中心に最大で約33.7万床の病床の不足が生じる一方で、シナリオ2では2025年には最大で約33.4万床の病床の余剰が生じることを認めた。また、人口分布と医療機関間の地理的位置関係の影響により、同じ都道府県においても病床が不足する地域と過剰となる地域が出現することを地図上に示した。次に、これまでの病床数や医師数の傾向分析を行った上で、住所地から病院へのアクセス性を加味して予測された必要病床数と、病床あたり医師数、患者あたり医師数の予測から、2025年時点における必要医師数の推計を行った。結果として、各シナリオにより推計結果は異なるが、一般病院の精神科を除く医師数は2010年で17.3万人に対し、2025年の必要医師数はシナリオ2では20.6万人、シナリオ1では28.7万人と推計された。診療所医師数については、2010年の10.7万人に対し、2025年には13.1万人と推計された。また、2010年の精神科医数2.7万人が今後も不変であると仮定し、推計結果と合算すると、2025年の全医師数はシナリオ2では36.4万人と推計された。
医療需要推計、必要医師数推計はこれまでも多くの研究者によってなされてきた。これらによればわが国の入院医療需要は2033年ごろまで増加が続くとされ、現在首都圏などの都市部では病床不足が問題となっていたはずである。しかし現在そのような状況は見られず、むしろ空床が目立つ病院も少なくない。この差異の原因を検証するために入院受療率の変化を検証したところ、高齢者に顕著な短縮が見られた。そこで1996年から2005年のデータを用いて改善率を検証した上で、2010年の入院患者数を推計したところ、2010年の実績値に非常に近い推計結果を得られた。我々はこの手法を過去からの順行性現在推計と名づけた。推計に用いる係数を求めるためのデータ収集期間と、過去からの順行性現在推計に用いるデータ収集期間を変更することで高い推計精度を得られた。入院患者を担当する医師数推計では病床規模による補正のみ行ったが、病床機能報告制度を活用すればより精緻な推計が可能になると思われる。地域医療ビジョンの作成においてもこの手法は非常に有効であると思われる。
結論
わが国の医療は拡張戦略から効率化戦略に方針変換しなければならない時期に達していると思われる。過去からの順行性現在推計による医療需要推計からもこれが裏付けられた。医療機関と医師の適正配置に向けて本研究成果が活用されることを期待する。

公開日・更新日

公開日
2015-12-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201424040C

収支報告書

文献番号
201424040Z