サルモデルにおけるベクターの安全性・有効性の評価実験系の開発

文献情報

文献番号
199800403A
報告書区分
総括
研究課題名
サルモデルにおけるベクターの安全性・有効性の評価実験系の開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
中村 伸(京都大学霊長類研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 清水慶子(京都大学霊長類研究所)
  • 今村隆寿(熊本大学医学部)
  • 恵美宣彦(名古屋大学医学部)
  • 阿部明弘(名古屋大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療において目的遺伝子の担体となるベクターの開発は不可欠である。同時に、ベクターの安全性と有効性を検証するための評価実験系の確立も必須である。しかしながら国内ではベクターの安全性と有効性を充分に評価・検討するための実験系の確立が遅れている。サル類は進化的位置から免疫系、感染感受性ならびに代謝系など医生物学的特性はヒトに類似し、ヒトの疾病とその治療に関わるbiomedicalな研究において他の実験動物にない希有な実験モデルである。ことに、薬剤の安全性や有効性を評価する上でサルモデルでの実験は不可欠である。
本研究ではこのようなサル類の医生物学的特質に着目し、これまでの霊長類研究、臨床医学研究ならびに遺伝子免疫治療研究の実績を基に、ベクターの安全性と有効性を検討するための、サルモデルでの有用な実験系を開発する。こうした研究成果を基に、遺伝子治療用ベクターの安全性、有効性の評価・検査のための実験系を確立し、より安全で効率的な遺伝子治療の発展を目指す。
研究方法
これまでに得られている血液性状、種々代謝系、感染感受性、免疫応答など医生物学的特質に関する知見、繁殖性、ライフスパンならびに侵襲、非侵襲性実験の可否などを検討して、新世界ザル、旧世界ザルおよび類人猿の中からそれぞれ複数の代表種を特定し、今後の研究実施のためのサルモデルとして用いる。
既に開発している非ウイルス性のリポソームベクター(VSVG/lipid)にマーカーとなるGFP遺伝子(GFP plasmid)を挿入し、それをサル(主にマカクザル)に投与し、GFP遺伝子の体内動態、GFPタンパク質の発現性を調べる。同時に、安全性検討項目として、血液細胞の増減、血中タンパク質の変動、サイトカインや炎症メディエター(TNF, CRP)の産生、血管障害マーカーのtissue factor (TF) の動態を検討する。また、投与ベクターに対する抗体産生とそれに伴うアレルギー反応の有無も調べる。これらの研究結果を比較検討しながら、ベクターの安全性試験に好適なサルモデル実験系について明らかにする。
結果と考察
本研究に用いるサルモデルとして、感染感受性、免疫応答など医生物学的特性、実験・飼育条件などを検討し、類人猿からはチンパンジー、旧世界ザルからニホンザルおよびカニクザル、新世界ザルからはコモンマーモセットを特定した。また、それらサルを用いたベクター実験を長期に安定して進めるための種々な環境条件も整備した。TF,TNF, CRPなど血管障害マーカや炎症メディエターに関する関連研究を展開した。さらに、リポゾーム性ベクターなど数種の非ウイルス性ベクターを作製した。その中で生体細胞への導入効率を高めたベクター(VSVG/lipid)にトレーサー遺伝子(GFP plasmid)を組込んだVSVG/lipid/GFP plasmidを調製し、カニクザルでの投与実験を行い、以下の結果を得た。
今回用いたリポソーム性ベクター(VSVG/lipid)でのトレーサー遺伝子(GFPplasmid)の体内導入は予想以上に効率的で、投与部位(皮下)の樹状細胞、マクロファージ、血管や毛根周辺細胞、および繊維芽細胞でGFPタンパク質が投与1日めから見られ、9日後でもGFPタンパク質が認められた。一方、GFP-DNAの血中拡散は投与1~3日目まで見られるがそれ以降はPCR法でも検出されなかった。なお、白血球(リンパ球、好中球)、血小版、赤血球の変動は見られず、初期炎症反応マーカーのTNFは血中に全く検出されなかった。また、他の炎症マーカーのCRPは一部が血中濃度の軽い上昇が見られたが、採尿カテーテル挿入による物理的な炎症などの可能性が強い。
更に、下記に示すプログラムの研究会「遺伝子治療を含む新規治療法の開発のために」の開催、海外からの遺伝子治療研究者(Dr.Miyanohara,USA)招聘、および国外研究室(Dr.Brown,UK) 訪問など、関連の研究交流や共同研究を促進し、本研究事業の推進を図った。
研究会「遺伝子治療を含む新規治療法の開発のために」
1.新しい研究が治療になるまで 座長・中村 伸(京大霊長類研究所)
「パイオニア研究の特許化とインキュベーションの重要性」
村井 深(特許流通アドバイザー パイオニアバイオサイエンス研究所
先端科学技術インキュベーションセンター(CASTI))
「くすりの出来るまで-組換え医薬品を例にとって」
坂田 恒昭、鈴木 隆二(塩野義製薬(株)医科学研究所 )
2.安全性検査のガイドライン 座長・堀田知光(東海大学細胞移植医療センター)
「生物学的製剤の品質保証システム」
倉知 透(愛知県赤十字血液センター 医薬情報課)
「新しいマテリアルのための新しい検査」
植田昌宏(SRL(エスアールエル))
3.臨床サイドの検討点  座長・下山正徳(国立名古屋病院長)
「新規治療のための臨床試験 - 抗腫瘍剤を例として」
横澤敏也、竹山邦彦(名古屋大学第一内科)
「Informed Consentの手法」
浜島信之(愛知県癌センター研究所疫学部)
4.アメリカでのシステム 座長・上田龍三(名古屋市立大学第二内科)
「UCSD Gene Therapy Programのシステム」
宮之原 厚司(UCSD GTP, Vector Development Lab)
5.総合討論   座長・恵美宣彦、齋藤英彦(名古屋大学第一内科)
結論
ベクターの安全性試験に好適なサルモデルの選定を進め、チンパンジー(類似年、)マカクザル(旧世界サル)、コモンマーモセット(新世界ザル)を特定し、これらを用いて研究展開するための環境条件を整備した。TF,TNF, CRPなど安全性マーカーに関する関連研究を進め、サルでの測定・分析を確立した。ポソーム性ベクター(VSV/lipid)に挿入されたトレーサー遺伝子(GFP plasmid)の体内導入とその発現性に関して、免疫組織染色法での評価・検討法を確立した。一方、安全性指標の炎症応答に関してはTNF, CRP,TFなどの血中動態を調べる、分子病態学的評価・実験法を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-