重篤小児集約拠点にかかる小児救急医療体制のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201424002A
報告書区分
総括
研究課題名
重篤小児集約拠点にかかる小児救急医療体制のあり方に関する研究
課題番号
H25-医療-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
阪井 裕一(国立成育医療研究センター 総合診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 直樹(東京都立小児総合 医療センター  救命・集中治療部)
  • 中川 聡(国立成育医療研究 センター 教育研修部)
  • 松本 尚(日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター)
  • 太田 邦雄(金沢大学大学院 医薬保健研究域 小児科学教室)
  • 前田 貢作(神戸大学大学院医学研究科 小児外科学分野)
  • 田口 智章(九州大学医学研究院 小児外科 外科系(小児外科学、病理学))
  • 岩中 督(東京大学大学院医学研究科 生殖発達加齢医学専攻 小児医学講座 小児外科学・ 小児腫瘍学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,140,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、「PICU(小児集中治療室)はじめ重篤小児集約拠点のあり方」について、救命救急事業を包括した姿として政策提言し、わが国の重篤小児患者の救命率向上に貢献することを目的とする。
研究方法
2010年度から2013年度までの4年間において、東京都こども救命センター指定を受けている都内4施設から集められた症例1663例から都外の症例3例を除いた1660例を解析対象とし、PIM2による転帰予測と実際の転帰との比較検討、各施設の年間症例ボリウム変化とアウトカム変化等について解析した。体外式膜型人工肺等、重篤小児集約拠点で実施され得るべき、特殊治療の供給体制についても併せて解析した。
 Diagnosis Procedure Combination (DPC) データベースから、2011年の1年間にDPC参加病院で人工呼吸が行われた15歳未満の小児患者を抽出し、これらの患者の転帰(生死)と、それぞれの患者での集中治療室管理料、救命救急入院料の算定の有無を調査した。さらに、このDPCに登録している施設毎のPICU対象と考えられる人工呼吸患者数と死亡率の関係、地域差を分析した。
 National Clinical Database (NCD)から、2011年から2013年の3年間に全参加病院で手術が行われた15歳以下の小児患者のデータ(小児外科学会専門医制度認定施設からはほぼ100%の登録が行われている)を抽出し、小児外科専門医の関与度や専門施設において手術された割合を検討した。
結果と考察
東京都こども救命センター4施設の1660例の死亡は57例(死亡率3.4%)であった。PIM2データが得られた1488例(予測死亡率5.9%)の46例が死亡しており、実死亡率3.1%は予測死亡率よりも低値であった。救命救急センターもしくはその保有3次施設からの転送例においては、予測死亡率11.7%に対して実死亡率6.6%であった。体外式膜型人工肺を用いた呼吸管理などの特殊治療の実施率については、救命救急センターもしくはその保有3次施設からの転送例と、救命救急センターを保有しない3次施設もしくは2次施設から転送された症例との間で、有意差は見いだされなかった。単一施設への年間集約症例数が200-300例を超えてくると治療成績が安定し、実死亡率/予測死亡率比の変動がなくなることが示された。
 2011年にDPC参加病院で20,890症例の小児の人工呼吸が行われ、NICU対象症例が11,770人、PICU対象症例は9,120人であった。次にPICU対象患者4,778人を対象として施設ごとの人工呼吸患者数を調べると、年間の人工呼吸症例数が多い施設の方が死亡率が低い、という傾向にあり、年間症例数が100症例未満と100症例以上の施設間では死亡率に有意差を認めた(p<0.001)。患者の重症度が標準化できていないので、人工呼吸症例数の少ない施設と多い施設での患者の重症度が同等であるかどうかはわからないが、東京都の解析結果が示している「年間集約症例数が200-300例を超えると治療成績が安定してくる」ことを勘案すると、小児の人工呼吸症例数の多い施設ではその施設のチームが人工呼吸管理に習熟していて質の良い診療を提供できている可能性がある。
 地域差を見ると、東京都の人工呼吸患者数1225人で死亡者数65人(5.3%)に対し、重篤小児集約拠点未設置地域と考えられる北海道・東北(6県)・北陸(4県)の人工呼吸患者は 946人で死亡者数92人(9.7%)で、死亡率に有意差を認めた(P=0.0037)。人工呼吸患者の死亡率の地域差の要因として、重篤な小児患者の診療を集約している程度の差が最も大きいと考えられる。
小児の年間の総手術数は毎年6万症例を超えており、そのうち専門医の関与は2/3を占め、新生児や乳幼児の手術に関しては8-9割程度が小児外科専門医の手で手術されていた。高度の専門性が要求される胆道閉鎖症や小児特有の疾患である腸回転異常症、肥厚性幽門狭窄症の手術では約9割が小児外科専門医の手による一方、外傷手術と異物(消化管および気道)除去は小児外科専門医の関与が約6割であった。救急診療である外傷手術や異物除去症例は専門医の手のもとへの集約は進んでいない。
結論
重篤な小児患者を集約して診療する体制作りは、小児医療の正しい政策であると考えられる。集約の方法としては、PICUだけでなく救命救急センター・特定集中治療室にその任が求められる可能性があるが、年間症例数が200-300例(5&#12316;6床程度のユニット)を超えることが治療成績の安定に必要である。さらに解析を進める為に、現存する各種のレジストリ・データベース間の連携と、重篤小児にかかる新たな包括的データベースの構築が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201424002B
報告書区分
総合
研究課題名
重篤小児集約拠点にかかる小児救急医療体制のあり方に関する研究
課題番号
H25-医療-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
阪井 裕一(国立成育医療研究センター 総合診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 直樹(東京都立小児総合 医療センター  救命・集中治療部)
  • 中川 聡(国立成育医療研究センター 教育研修部)
  • 松本 尚(日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター)
  • 太田 邦雄(金沢大学大学院医薬保健研究域 小児科学教室)
  • 前田 貢作(神戸大学大学院医学研究科 小児外科学分野)
  • 田口 智章(九州大学医学研究院 小児外科 外科系(小児 外科学、病理学))
  • 岩中 督(東京大学大学院医学研究科生殖発達加齢医学専攻 小児医学講座 小児外科学・ 小児腫瘍学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「PICU(小児集中治療室)はじめ重篤小児集約拠点のあり方」について、救命救急事業を包括した姿として政策提言し、わが国の重篤小児患者の救命率向上に貢献することを目的とする。
研究方法
日本小児総合医療施設協議会に参加している施設、ならびにPICU保持を表明しているその他の施設を含めた27施設29ユニットを対象としたアンケート調査、東京都において2010年度から実施されている「東京都こども救命センター事業」の4年間にわたる1660症例のデータの解析、2011年のDiagnosis Procedure Combination (DPC)のデータベースを用いた15歳未満の小児患者データの解析、National Clinical Database (NCD)から2011年から2013年の3年間に施行された15歳以下の小児患者の手術データの解析を行った。
結果と考察
2013年12月時点でのわが国の小児ICU(PICU)病床数(特定集中治療室管理料を算定している病床数)は178床(うち小児特定集中治療管理料算定は12床のみ)であった。PICU専従医数は84名であったが、フェロー・レジデントといった修練層は51名と少なく、現有するリソースで現場を維持することで精一杯で、PICU専従医の指導養成体制が普及していない現況も明らかとなった。25ユニットにおける年間入室数は9,095例で、心臓血管外科手術の周術期管理目的の入室が3,428例と38%を占める一方で、救命救急センターならびに特定集中治療室を含めた他施設からの転送は1053例(12%)あり、ドクターヘリが関与する入室は124例、救急搬送診療料を算定する入室は634例に及んだ。
東京都こども救命センター4施設の2010年度から2013年度までの1660例の死亡は57例(死亡率3.4%)であった。PIM2データが得られた1488例(予測死亡率5.9%)の46例が死亡しており、実死亡率3.1%は予測死亡率よりも低値であった。体外式膜型人工肺を用いた呼吸管理などの特殊治療の実施率については、救命救急センターもしくはその保有3次施設からの転送例と、救命救急センターを保有しない3次施設もしくは2次施設から転送された症例との間で、有意差は見いだされなかった。単一施設への年間集約症例数が200-300例を超えてくると治療成績が安定し、実死亡率/予測死亡率比の変動がなくなることが示された。
 2011年の1年間にDPC参加病院で20,890症例の小児の人工呼吸が行われ、PICU対象患者の60%が、また緊急患者の多くが一般病棟で管理されていた。PICU対象患者4,778人の施設ごとの症例数と死亡率を調べると、年間症例数が100症例未満と100症例以上の施設間では死亡率に有意差を認めた(p<0.001)。患者の重症度が標準化できていないが、東京都の解析結果が示している「年間集約症例数が200-300例を超えると治療成績が安定してくる」ことを勘案すると、人工呼吸症例数の多い施設では質の良い診療を提供できている可能性がある。
地域差を見ると、東京都の人工呼吸患者数1225人、死亡者数65人(5.3%)に対し、北海道・東北・北陸の人工呼吸患者は 946人、死亡者数92人(9.7%)で、死亡率に有意差を認めた(P=0.0037)。この要因として、重篤な小児患者の診療を集約している程度の差が最も大きいと考えられる。
小児の年間の総手術数は毎年6万症例を超えており、そのうち専門医の関与は2/3を占め、新生児や乳幼児の手術に関しては8-9割程度が小児外科専門医の手で手術されていた。このように高度の専門性が要求される手術では小児外科専門医のもとに集約されている一方、外傷手術と異物(消化管および気道)除去のような救急診療の集約化は進んでいない。
結論
わが国の重篤な小児救急患者の診療体制に関して、次の5項目を提言する。
1.重篤な小児救急患者の救命率を上げるために、患者を集約して診療する体制が必要である。
2.症例数が年間200-300例を超えてくると治療成績が安定するので、この規模の拠点作りを目指すべきである。
3.集約の拠点としては、PICUだけでなく、救命救急センター・特定集中治療室にその任を求めることも可能であるが、2の年間症例数を超えることが治療成績の安定に必要である。
4.集約拠点を作るためには、ヘリコプター等による緊急患者搬送体制が重要である。
5.重篤な小児救急患者の救命率改善に寄与している要因をさらに解析するために、現存する各小児医療のレジストリ・データベース間の連携と、重篤小児にかかる新たな包括的データベースの構築が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201424002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国の医療施設へのアンケート調査、DPCの人工呼吸患者のデータ解析、東京都こども救命センター事業の4年間にわたり蓄積された症例の調査のいずれの結果からも、重篤な小児救急患者を集約して診療した方が成績が良いことが示唆された。一方、手術患者のデータベースであるNational Clinical Databaseからは、小児の手術症例が集約されつつある現状は判明したが、成績との関連は明確にできなかった。
臨床的観点からの成果
重篤な小児救急患者を集約した場合、実死亡率が予測死亡率を下回ることが示されたが、特にこの効果は年間入室症例数が500例を越えるユニット、10床を超える規模のユニットにおいて安定してくる状況が確認された。また、単一施設への年間集約症例数が200-300例を超えてくると治療成績が安定し、実死亡率/予測死亡率比の変動がなくなることが示された。したがって、重篤な小児救急患者をこの規模まで集約する診療体制を整備することの重要性が示されたと言える。
ガイドライン等の開発
重篤な小児救急患者の救命率を上げるために患者を集約して診療する体制が必要であることを、治療成績で示すことができ、5項目の提言を行った。
その他行政的観点からの成果
本研究の先行研究の結果、平成24年に小児特定集中治療室管理料が保険収載されたが、本研究はその政策の方向性(集中治療患者の集約化)の正しさを治療成績で裏付けた。
その他のインパクト
特に無い。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201424002Z