エクソソームを介したHBV感染及び発がんメカニズム解析と治療戦略

文献情報

文献番号
201423046A
報告書区分
総括
研究課題名
エクソソームを介したHBV感染及び発がんメカニズム解析と治療戦略
課題番号
H25-B創-肝炎-一般-019
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
落谷 孝広(独立行政法人国立がん研究センター 分子細胞治療研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 仁科 博史(東京医科歯科大学 分子細胞生物学)
  • 宮島 篤(東京大学 生物化学)
  • 梅村 武司(信州大学 肝臓病学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型肝炎ウイルス (HBV) に対する治療として、Peg-インターフェロンや核酸アナログ製剤等が主流であるが、奏効率や耐性株の出現、長期服用に伴う副作用などの問題がある。さらに、HBV感染メカニズムについては未だその全容は明らかとなっておらず、この分子基盤の解明ならびに新規治療薬の開発が急務である。近年、細胞が分泌する小胞顆粒であるエクソソームに関心が集まり、様々なウイルス種の感染機構やウイルス性疾患の発症メカニズムにエクソソームが関わることが報告されている。したがって、HBV感染細胞が分泌したエクソソームが、周囲の免疫細胞や星細胞などの間質細胞に作用することで、HBV感染や慢性疾患、がん化を制御している可能性がある。しかし、HBVとエクソソームとの関連については未だ明らかとなっていない。そこで本研究では、(1) 細胞外分泌顆粒であるエクソソームによるHBV感染、免疫細胞制御、星細胞の活性化、および薬剤耐性メカニズムの解明、(2) エクソソームによる発がんメカニズムの解明に焦点を当て、(i) HBV感染培養系を用いたエクソソームによる感染機構の解明とエクソソーム阻害による感染防御の検討、(ii) HBV感染肝細胞の分泌するエクソソーム内のHBV関連タンパク質の解明と発がん関連分子の同定を実施することで、エクソソームを起点としたHBV感染と関連する肝疾患に対する創薬研究を展開する。
研究方法
研究目的 (i) (ii) の達成のため、本年度は(1) エクソソーム回収のためのHBV感染肝細胞の大量培養系、およびエクソソーム回収法の構築、(2) 回収されたHBV感染肝細胞由来エクソソーム内部のmiRNAの網羅的解析、(3) HBV感染細胞由来エクソソームの肝臓星細胞、免疫細胞に対する機能、(4) 効率的なHBVマーカーの検出系の確立について実施した。(1)については、まずHBV感染細胞の培養条件を精査し、安定した培養系の構築を行った。その後、確立された本培養系から大量のエクソソーム回収系の構築およびエクソソーム試料の調製を行った。(2) では、(1)で確立した培養系より単離したエクソソームを対象に、マイクロアレイならびにマススペクトル(MS)解析によるmiRNA、タンパク質の網羅的解析を試みた。(3)については、マイクロアレイ解析により得られた候補分子について、in vitroの強制発現系およびKnock down系を用いて機能の解析を行った。(4)では、HBV感染患者血清を対象に、HBV DNA、RNA、表面抗原(HBs)タンパク質の評価系の構築、および各種HBVマーカーの測定を行った。
結果と考察
(1) HBV感染肝細胞を安定培養可能な系、ならびに本細胞からのエクソソームの大量回収法を確立できた。この成果により、今後エクソソーム試料を大量に供給することが可能となった。(2) マイクロアレイ解析により得られた発現プロファイルから、HBV感染細胞由来のエクソソームに豊富に含まれるmiRNAを複数ピックアップした。MS解析については、現在HBV感染細胞由来のエクソソームを対象に解析中である。(3) HBV感染細胞由来のエクソソームを肝星細胞に処理したところ、星細胞活性化の指標であるα-SMAや種々のコラーゲン、TGF-βなどの発現誘導が確認された。このことから、HBV感染後の肝細胞に由来するエクソソームは肝星細胞の活性化寄与することが示唆された。さらに、同エクソソーム内に見られたmiRNAを導入した際の、マクロファージに対する機能についても同様に検討を行った。その結果、マクロファージのTNF-α産生量の低下が認められた。TNF-αは肝細胞に対し、アポトーシスを誘導することが知られている。そのため、エクソソームによるマクロファージのTNF-αの産生抑制により、肝細胞のアポトーシスが抑制されている可能性がある。肝臓線維化には、肝内マクロファージと肝星細胞の相互作用が重要であることも知られており、今後エクソソームがもたらす各細胞との相互作用の詳細なメカニズムについて解析する必要がある。(4)高感度なHBVマーカー測定系の確立に至った。今後エクソソーム内のHBVウイルスマーカーの測定系として利用予定であると同時に、実臨床におけるHBV偽陰性を防止する新規診断法の開発につながる可能性がある。
結論
本年度までの研究成果から、本課題の主眼のひとつである、本課題の主眼のひとつである、HBV感染後の肝細胞に由来するエクソソームが肝星細胞の活性化に重要な役割を持つことが実証できた。さらに、免疫細胞に対するエクソソーム内のmiRNAの影響についても確認された。本成果により、最終目的である創薬に向けて、エクソソーム阻害という明確な標的が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201423046Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
40,300,000円
(2)補助金確定額
40,300,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 25,238,058円
人件費・謝金 0円
旅費 316,920円
その他 5,445,022円
間接経費 9,300,000円
合計 40,300,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
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