男性不妊症に関与する遺伝子群の包括的解析

文献情報

文献番号
199800399A
報告書区分
総括
研究課題名
男性不妊症に関与する遺伝子群の包括的解析
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
西宗 義武(大阪大学微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山明彦(大阪大学医学部)
  • 岡部勝(大阪大学遺伝情報実験施設)
  • 野崎正美(大阪大学微生物病研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトゲノムプロジェクトの究極の目的は単に遺伝子の塩基配列を知ることでは
なく、その情報を人類の健康と福祉に役立てることにある。本申請は、ゲノム解析の一方
法として、雄性生殖細胞の分化、すなわち精子形成過程に焦点を絞り込み、その局面で発
現される遺伝子群の包括的解析を行うものである。さらにこれらの遺伝子群を解析するこ
とにより発現時期の特異性を明らかにするだけでなく、その機能を解析し、さらにはヒト
疾病との関連性の解明を目指す。具体的なターゲットは男性不妊症である。この疾病を解
析するためには、精子形成過程に関与する様々な遺伝子群をそれぞれ単離し、それらの機
能を解析し、個体で果たす役割を包括的に解明する必要がある。従って、これらの遺伝子
群の働きを解析することは、様々な臨床像を示す男性不妊症を引き起こすメカニズムへの
理解を深め、ひいてはその治療法の開発に寄与したい。さらに、これらの遺伝子群の発現
とその制御機構を解明し、精子形成をコントロールして、生殖の制御をより容易で安全な
方法によって確実に行い得るようにする。
研究方法
概略としては実験動物であるマウスを用いて得られた分子レベルの知見を個体
レベルへ還元し、精子形成の本質を理解する。次ぎにヒト男性不妊症の原因遺伝子につい
ての解析を行い、その診断や治療へ、すなわち男性側から見た生殖制御への応用へと進め
る。具体的には、初めにマウス成熟精巣からcDNAライブラリーを作製し、未成熟マウス
精巣のmRNAを差し引いたサブトラクテッドライブラリーを作製する。このライブラリー
をもとに重差分化法を行うことによって、発現量の如何にかかわらず精子形成過程に発現
するcDNAの網羅的クローニングが可能となる。これらの塩基配列を決定した後、データ
ベースを検索することにより既知遺伝子の情報からその構造上の特徴を調べる。次ぎにこ
れらの遺伝子がいつどの細胞で発現するのかをノーザンハイブリダイゼイションおよび
in situ ハイブリダイゼイションで調べる。また、それらの遺伝子にコードされる蛋白質
の抗体を作製し、蛋白質の局在を調べ、生理機能を類推する。さらに解析の結果、精子形
成あるいは受精に関与すると考えられた遺伝子を操作したマウスを作製し、個体レベルで
の解析を進める。この遺伝子操作マウスの中で雄性不妊となるものについて、精巣サンプ
ルの観察や交配実験、体外受精により不妊の原因を究明する。以上、マウスを実験動物と
して用いて解析した結果、精子形成および受精に重要であることが確認された遺伝子につ
いてヒトホモローグをクローニングして、不妊患者における当該遺伝子の変異を調べて、
ヒト男性不妊症の原因遺伝子である可能性を探る。
結果と考察
平成10年度においては、最初の目的である精子形成過程に伴って発現され
る遺伝子cDNA群の網羅的クローニングとその解析を行った。成熟精子を持つマウス精巣
と未熟精巣とを差し引きすることで精子完成過程すなわち半数体精子細胞特異的遺伝子の
cDNA群を発現の如何にかかわらずクローニングすることができた。クローニングされた
遺伝子群は、すでに報告されている遺伝子、既知のものとの相同性を持つ新規遺伝子、さ
らに相同性を持たない新規遺伝子の3群に大別された。これらの中には体細胞型に対する
生殖細胞型の遺伝子、いわゆるアイソフォームが多数含まれていた。このことは精子形成
過程という特殊な細胞分化、あるいは受精を行う細胞としての特殊性を担うためだけに機
能する遺伝子が、体細胞で機能する遺伝子から進化の過程で分岐、形成され、これらの遺
伝子群がこの時期に一斉に発現し始めることを意味するのではないかと考えている。この
ことは生殖生物学的にも分子進化学的にも大変興味深い。さらにこれらの遺伝子にコード
される蛋白質を構造と細胞内局在とで分類してみると、核蛋白質、細胞骨格関連蛋白質、
シグナル伝達系関連蛋白質さらに代謝系酵素が多くを占めており、今後の解析の手がかり
を示すものと思われる。また、これらの解析から、さらに生体内での機能解析へと進展し
た例として我々がこの研究過程で発見した遺伝子カルメジンがある。生殖細胞の小胞体に
局在する分子シャペロンであるカルメジンの機能をノックアウトマウスを用いて個体レベ
ルで解析した結果、受精能に関与する遺伝子であることが明らかとなった。そこで、現在、
ヒトホモローグをクローニングして、ヒト男性不妊症との関連を解析している。他のクロ
ーンについても同様な進展が見込まれる。
結論
サブトラクテッドライブラリー作製と重差分化法を組み合わせた結果、細胞内で大
量に発現する遺伝子も少量しか発現しない遺伝子も同様にクローニングすることができ、
精子形成過程の半数体精子細胞特異的遺伝子の全体像を解析できる目処がたった。半数体
特異的遺伝子の大半は新規の遺伝子であったが、その中にはコードする蛋白質が体細胞型
に対する生殖細胞のアイソフォームと考えられるものも含まれていた。また単離された遺
伝子の構造と細胞内局在を調べると、核蛋白質、細胞骨格、シグナル伝達系蛋白質、代謝
酵素に分類できた。

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