B型肝炎ウイルスの感染複製機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201423031A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルスの感染複製機構の解明に関する研究
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
脇田 隆字(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 哲朗(浜松医科大学 医学部)
  • 梁 明秀(横浜市立大学 医学部)
  • 朴 三用(横浜市立大学 生命医科学研究科)
  • 菅 裕明(東京大学大学院 理学系研究科)
  • 千葉 勉(京都大学 医学部)
  • 加藤 直也(東京大学 医科学研究所)
  • 五十川 正記(名古屋市立大学大学院 医学研究科)
  • 堀田 博(神戸大学大学院 医学研究科)
  • 巽 智秀(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 加藤 孝宣(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 岡本 徹(大阪大学 微生物研究所)
  • 榎本 信幸(山梨大学大学院 医学工学総合研究部)
  • 馬場 昌範(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • アクバルシェイク モハマドファズレ(東芝病院 研究部)
  • 森川 賢一(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 豊田 哲也(医療法人さわらび会福祉村病院 長寿医学研究所)
  • 有海 康雄(熊本大学 エイズ学研究センター)
  • 朝比奈 靖浩(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 渡士 幸一(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 谷口 英樹(横浜市立大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
200,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 宮城 琢也(平成26年4月1日~26年6月30日)→巽 智秀(平成26年7月1日以降) 所属機関異動 研究分担者 森川賢一 昭和大学医学部(平成26年4月1日~26年9月30日)→北海道大学 大学院医学研究科(平成26年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
B型肝炎の治療では逆転写酵素阻害剤が導入されて、抗ウイルス療法が可能となった。しかし、逆転写酵素阻害剤単剤の治療ではウイルス排除に向けた根治は困難で、またウイルス量の制御のために抗ウイルス薬を中止することも難しい。さらに薬剤耐性ウイルス出現のリスクがある。従って、多くのHBVキャリアの治療法開発、改善のために新たな抗HBV治療薬の開発が望まれている。
 本研究ではB型肝炎の新規治療薬開発に向けて、HBVの感染複製増殖機構の解明を目指す。
研究方法
HBVの生活環の各過程を網羅的かつ詳細に検討し、関与する宿主因子の同定などを通じてそのメカニズムを解明する。さらに、各過程の解析から新たな抗ウイルス薬標的を同定する。下記の研究項目について研究を進める。
1.ウイルス生活環各ステップを制御する因子の同定とその分子メカニズム解析
2.初期感染過程(ウイルス吸着から侵入、核への輸送)の解析
3.cccDNA転写機構、ウイルスゲノムインテグレーション機構、ウイルスゲノム複製機構の解析
4.ウイルス構造蛋白質、逆転写酵素の発現、酵素活性、構造の解析
5.ウイルス粒子形成および分泌機構の解析
6.HBc抗原、HBx抗原の発現、機能、構造の解析
結果と考察
1. DNA損傷センサー因子DNA-PK及びPARP-1と、相同組換因子Rad51およびRNAヘリケースMOV10がHBV増殖を抑制していることが示唆された。
2.シクロスポリンがHBVの感染過程を阻害する事を明らかにし、より抗HBV効果の高い誘導体を同定した。NTCPとLHBsの相互作用アッセイ系によるスクリーニングで感染阻害活性を有する化合物を同定した。NTCPタンパク質を標的として、RaPIDシステムを駆使し11種の特殊ペプチドを獲得した。
3. PRE RNA領域に結合する宿主因子23種類を同定した。hnRNPUがHBV RNA分解促進とスプライシング促進に働くことと、AUF1がHBV RNA分解促進とスプライシング抑制に働くことを見出した。APOBEC3GがHBV RNA及び7SL-RNAと結合すること、7SL-RNAがHBV粒子内にパッケージングされるが、APOBEC3Gによりそのパッケージングが阻害されることが示唆された。
4.カプシド蛋白を標的としたin silicoスクリーニングを実施し, 2種類のリード化合物を同定した。さらにより抗HBV活性の強い誘導体を同定した。RNase H阻害剤スクリーニング系を開発した。蛍光ラベルオリゴdTプライマー、ポリA RNA鋳型によるポリメラーゼの試験管内逆転写系を開発した。新規核酸誘導体に選択的な抗HBV効果を同定した。
5.任意の時期に肝細胞にHBV全タンパク質を発現する新規モデルマウス作成を進めている。F1マウスへの薬剤投与にてマウス肝組織にHBV RNAが発現誘導された。
6.新規HBx結合宿主タンパク質として、Prdx1及びSMYD3、JMJD5を同定した。JMJD5はHBxとの結合を介してHBVの複製に関与している。
7.HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスにおける酸化ストレスに伴う線維化は抗マウスTLR4抗体投与により抑制された。NTCP発現細胞はHBV感染によりオートファジーが亢進した。オートファジーを抑制するとHBV感染時の細胞内cccDNA量は増加した
8.HBs抗原とHBc抗原による免疫療法を開発した。慢性B型肝炎症例に対する第三相試験をバングラデシュにおいてペグIFN療法との比較で実施した。
9.ヒトiPS細胞から分化誘導した前腸内胚葉細胞・血管内皮細胞・間葉系幹細胞の共培養により、世界で初めてiPS細胞由来のヒト肝臓原基(肝芽)の作成に成功した。肝芽を免疫不全マウスに移植することにより、血管網を有した機能的なヒト肝臓が構築されることを明らかにした。
結論
NTCP活性を抑制して感染を阻害するリード化合物が得られた。CsA誘導体展開では、他の活性をほとんど持たず抗HBV活性を保持する誘導体が得られた。in vitroのRNasHアッセイ系や逆転写酵素アッセイ系を開発した。粒子形成機構ではカプシド蛋白を標的としたin silicoスクリーニングからリード化合物を同定した。新規治療法としてHBV抗原特異的な免疫治療の海外での臨床試験に関わっている。また、世界初のヒトiPS細胞由来肝臓原基(肝芽)の作製に成功している。本研究により、HBV感染による肝硬変および肝臓癌という高度な医療が必要な疾患の患者数を減らすことができれば、結果的に医療費の低減に寄与し、社会の福祉に寄与することが可能となる。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201423031Z