文献情報
文献番号
199800398A
報告書区分
総括
研究課題名
成人病に関する遺伝子の同定と病態の解明
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 陽一(京都大学大学院医学研究科教授)
研究分担者(所属機関)
- 藤森俊彦(京都大学大学院医学研究科助手)
- 吉田松生(京都大学大学院医学研究科助手)
- 星野幹雄(京都大学大学院医学研究科助手)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
200,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では「成人病関連遺伝子の分離、同定」及び「ヒト疾患モデル動物の作製と病態解析」を目的として、(1)特に成人病や加齢にともって発症する疾患との関連が推定されるアルツハイマー病遺伝子産物と結合する分子、STEF、Limkinase1、sim2Klothoホモログ、をコードする遺伝子のノックアウトマウスの作成を試みた。また、(2)多彩な老化症状を示すKlotho変異マウスをモデルとして、老化関連症状の成り立ちに関与する遺伝子の探索、さらに、発症や症状の強さに関連する遺伝子素因について、新しい方法の開発を含めて検討した。
研究方法
プレセニリン結合蛋白、STEF1, Klothoホモログについては、染色体遺伝子を分離し、相同組み換えベクターを作製し、ノックアウトマウスの作成を進めているところである。sim2遺伝子のノックアウトマウスは発生過程、生後の各ステップで解剖し、形態学的な解析を行った。また、sim2はTCDDによる奇形の発生に関与することが知られていることから、共同研究により妊娠ノックアウトマウスにTCDDを投与し、その影響を観察した。Limkinase 1はヒトにおいて精神、記憶、学習などの障害に関連することが報告されていることから、水迷路テストや恐怖からの回避行動に関するテストを行った。また、本遺伝子には構造の保存されたホモログ,LimKinase 2が知られており、ノックアウトマウスを分与してもらい、ダブルノックアウトマウスを作成することとした。
Klothoマウスおよび野生型マウスの臓器よりmRNAを調製し、発現が変化しているmRNAを解析した。遺伝的背景が異なる実験室マウスとKlothoマウスを掛け合わせ、変異表現型を解析し、その差異を検討した。日本において、20年前に系統化され、自然マウスに近い系統であるmsmと掛け合わせ、変異表現型を解析した。
STEF分子をコードするStef遺伝子をショウジョウバエのstill life (sif)遺伝子のマウスホモログとしてクローニングした。各ステップのマウスの中枢神経系よりmRNAを分離し、RNAブロットハイブリダイゼーション、In Situ HybridizationによりSTEF遺伝子の発現を詳細に解析した。また、STEF cDNAを発現ベクターに連結して、培養細胞に導入し、アクチン繊維の動態を観察した。
Klothoマウスおよび野生型マウスの臓器よりmRNAを調製し、発現が変化しているmRNAを解析した。遺伝的背景が異なる実験室マウスとKlothoマウスを掛け合わせ、変異表現型を解析し、その差異を検討した。日本において、20年前に系統化され、自然マウスに近い系統であるmsmと掛け合わせ、変異表現型を解析した。
STEF分子をコードするStef遺伝子をショウジョウバエのstill life (sif)遺伝子のマウスホモログとしてクローニングした。各ステップのマウスの中枢神経系よりmRNAを分離し、RNAブロットハイブリダイゼーション、In Situ HybridizationによりSTEF遺伝子の発現を詳細に解析した。また、STEF cDNAを発現ベクターに連結して、培養細胞に導入し、アクチン繊維の動態を観察した。
結果と考察
変異症状の個体差、あるいは系統差については、B6のバックグラウンドで、やや症状が軽い傾向にあること、メスの症状がオスに比して重い傾向にあることが明らかとなった。msmマウスにはKlotho変異を抑える遺伝子が存在することが示唆された。また、B6バックグラウンドでmsmの特定のクロモゾームをもつコンソミック系統との掛け合わせを進めており、この結果から、抑制遺伝子座を特定できるものと考えている。
生後7週のKlothoマウスとコントロールマウスよりmRNAを調製し、発現変化を調べたところ、多数の遺伝子の発現に変化があることが示されたが、顕著な形態学的な異常を反映したものが多く含まれると推定された。現在は形態学的変化の観察されない1、2週のマウスの解析を行っている。続いて、DNAチップの利用のための予備実験を行い、体系的に発現変化を解析するシステムを立ち上げた。
プレセニリン結合蛋白遺伝子、STEF1, Klothoホモログについては、全長を含む染色体遺伝子を分離し、相同組み換えベクターを作製し、相同組み換え細胞を選択している。
sim2ノックアウトマウスは生後、2、3週に死亡する個体が多いことがわかり、形態学的な解析を行ったところ、脂肪組織の発達が障害されていることが判った。とりわけ、褐色脂肪細胞が存在する部位での減少が顕著であった。また、TCDDなどの奇形誘発剤による奇形の発生を検討した。
Limkinase 1はヒトにおいて精神、記憶、学習などの障害に関連することが報告されている。そこで、Limkinase 1遺伝子にlacZ遺伝子をノックインする形の相同組み換えマウスを作成し、発色をメルクマールに脳における発現を解析したところ、海馬に強い発現があること、基底核、橋に発現の強い部分があること、大脳皮質にも部分的ではあるが層状の発現があることが観察された。ついで、水迷路テストや恐怖からの回避行動に関するテストを行ったが、現時点ではコントロールとの差異は見い出されていない。Limkinase 1遺伝子には構造の保存されたホモログ、Limkinase 2が知られており、代償作用が推定されることから、Limkinase 2遺伝子のノックアウトマウスを入手し、ダブルノックアウトマウスを作成し、解析を行っている。
Klothoマウスの生化学的検索によりカルシウム、リン酸塩の血中、尿中濃度が顕著に高いこと、ビタミンD血中濃度はコントロールの2倍以上あること、また、成長ホルモン、テストステロンなどの濃度も顕著に高いことが明らかになり、さらに重要なことは生化学的な変化は生後から観察され、その結果として、生後3、4週に形態学的な変化が現われると考えられ、変異症状の階層性を解析する手段が得られた。また、ホルモンやビタミンなどの生体の維持、制御に関わるシグナル分子の血中濃度がコントロールより高いにも関わらず、マウス個体では欠損症状が観察され、この事実はKlotho蛋白の分子機能と深く関わっていると推定された。
STEF分子は、PHドメインを2つ、PDZおよびDHドメインを1つずつ含んだ細胞内蛋白質で、SIF以外にもマウスTIAM1蛋白質とアミノ酸配列およびドメイン構成の上で高い類似性を示した。また、STEF分子はRho類似GTPaseの中でもRacのみに特異的なグアニンヌクレオチド変換因子であることが明らかになった。さらに、STEF 蛋白質は細胞内アクチンフィラメントの構造を変化させラッフリング膜を引き起こすことも示された。Stef遺伝子は発生途上の中枢神経系の一部、特に移動中の神経細胞や神経突起を伸ばしたりシナプスを形成している時期の神経細胞で強く発現していることがわかった。成体になるとほとんどの脳組織におけるStef遺伝子の発現は微弱になるが、まだ活発なシナプスの可塑性が残っている海馬などでは強い発現が認められた。
生後7週のKlothoマウスとコントロールマウスよりmRNAを調製し、発現変化を調べたところ、多数の遺伝子の発現に変化があることが示されたが、顕著な形態学的な異常を反映したものが多く含まれると推定された。現在は形態学的変化の観察されない1、2週のマウスの解析を行っている。続いて、DNAチップの利用のための予備実験を行い、体系的に発現変化を解析するシステムを立ち上げた。
プレセニリン結合蛋白遺伝子、STEF1, Klothoホモログについては、全長を含む染色体遺伝子を分離し、相同組み換えベクターを作製し、相同組み換え細胞を選択している。
sim2ノックアウトマウスは生後、2、3週に死亡する個体が多いことがわかり、形態学的な解析を行ったところ、脂肪組織の発達が障害されていることが判った。とりわけ、褐色脂肪細胞が存在する部位での減少が顕著であった。また、TCDDなどの奇形誘発剤による奇形の発生を検討した。
Limkinase 1はヒトにおいて精神、記憶、学習などの障害に関連することが報告されている。そこで、Limkinase 1遺伝子にlacZ遺伝子をノックインする形の相同組み換えマウスを作成し、発色をメルクマールに脳における発現を解析したところ、海馬に強い発現があること、基底核、橋に発現の強い部分があること、大脳皮質にも部分的ではあるが層状の発現があることが観察された。ついで、水迷路テストや恐怖からの回避行動に関するテストを行ったが、現時点ではコントロールとの差異は見い出されていない。Limkinase 1遺伝子には構造の保存されたホモログ、Limkinase 2が知られており、代償作用が推定されることから、Limkinase 2遺伝子のノックアウトマウスを入手し、ダブルノックアウトマウスを作成し、解析を行っている。
Klothoマウスの生化学的検索によりカルシウム、リン酸塩の血中、尿中濃度が顕著に高いこと、ビタミンD血中濃度はコントロールの2倍以上あること、また、成長ホルモン、テストステロンなどの濃度も顕著に高いことが明らかになり、さらに重要なことは生化学的な変化は生後から観察され、その結果として、生後3、4週に形態学的な変化が現われると考えられ、変異症状の階層性を解析する手段が得られた。また、ホルモンやビタミンなどの生体の維持、制御に関わるシグナル分子の血中濃度がコントロールより高いにも関わらず、マウス個体では欠損症状が観察され、この事実はKlotho蛋白の分子機能と深く関わっていると推定された。
STEF分子は、PHドメインを2つ、PDZおよびDHドメインを1つずつ含んだ細胞内蛋白質で、SIF以外にもマウスTIAM1蛋白質とアミノ酸配列およびドメイン構成の上で高い類似性を示した。また、STEF分子はRho類似GTPaseの中でもRacのみに特異的なグアニンヌクレオチド変換因子であることが明らかになった。さらに、STEF 蛋白質は細胞内アクチンフィラメントの構造を変化させラッフリング膜を引き起こすことも示された。Stef遺伝子は発生途上の中枢神経系の一部、特に移動中の神経細胞や神経突起を伸ばしたりシナプスを形成している時期の神経細胞で強く発現していることがわかった。成体になるとほとんどの脳組織におけるStef遺伝子の発現は微弱になるが、まだ活発なシナプスの可塑性が残っている海馬などでは強い発現が認められた。
結論
多彩な老化症状を呈するKlothoマウスをモデルとして、遺伝子素因がその多彩な症状の発症にどのように影響するかを検討した。遺伝的背景により、症状が一部に軽減される傾向にあることが明らかとなった。また、msmマウス系統にはKlotho変異を抑える機能をもつ遺伝子が存在することが示唆された。第2の方法として、Klothoマウスと野性型マウスで発現変化の認められる遺伝子の分離同定を試みており、さらに体系的に検討する手段としてDNAチップシステムを導入するための基礎的検討を行った。
ヒト疾患モデル動物の作製を目的として、プレセニリン結合蛋白、STEF1,Klothoホモログ、 sim2、Limkinase1のノックアウトマウスの作成を試み、その変異表現型を解析した。Limkinase1ノックアウトは記憶、学習、情動に関する解析を行っているが、顕著な変化が見い出せない。そこで、Limkinase2ノックアウトマウスとの掛け合わせによりダブルノックアウトマウスの作成を進めている。sim2遺伝子のノックアウトマウスは生後に発達する褐色脂肪細胞が顕著に少なく、2、3週以内に死亡するケースが多くみられるが、この時期をクリアした個体は褐色脂肪も増加し、正常に発育することが可能となる。
STEF分子がRacの活性化を介してアクチン細胞骨格系の構造変化を引き起こし、神経細胞の移動や神経突起の伸長、およびシナプス形成等に関与していることが示唆された。
ヒト疾患モデル動物の作製を目的として、プレセニリン結合蛋白、STEF1,Klothoホモログ、 sim2、Limkinase1のノックアウトマウスの作成を試み、その変異表現型を解析した。Limkinase1ノックアウトは記憶、学習、情動に関する解析を行っているが、顕著な変化が見い出せない。そこで、Limkinase2ノックアウトマウスとの掛け合わせによりダブルノックアウトマウスの作成を進めている。sim2遺伝子のノックアウトマウスは生後に発達する褐色脂肪細胞が顕著に少なく、2、3週以内に死亡するケースが多くみられるが、この時期をクリアした個体は褐色脂肪も増加し、正常に発育することが可能となる。
STEF分子がRacの活性化を介してアクチン細胞骨格系の構造変化を引き起こし、神経細胞の移動や神経突起の伸長、およびシナプス形成等に関与していることが示唆された。
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