ウイルス性慢性肝疾患の病態に影響を与えるmiRNA多型の網羅的探索

文献情報

文献番号
201423028A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性慢性肝疾患の病態に影響を与えるmiRNA多型の網羅的探索
課題番号
H25-肝炎-若手-015
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
三木 大樹(独立行政法人理化学研究所 統合生命医科学研究センター消化器疾患研究チーム)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって、C型慢性肝炎患者に対するインターフェロン治療の効果を強く規定するIL28B遺伝子多型が発見され、B型慢性肝炎・C型慢性肝炎の易罹患性、肝硬変・肝癌への進展などに関連する遺伝子多型あるいは一塩基多型(SNP)も明らかになった。しかし、GWASではカバーしきれないゲノム領域の存在や、統計学的検出力の不足などの問題が依然として残っている。一方で、機能を有するノン・コーディングRNA、中でも21~25塩基ほどのmiRNAが肝疾患を含む多くの疾患で新規バイオマーカーとして期待され、これを核酸医薬の標的としたC型慢性肝炎治療薬の臨床試験が進行中であるなど、注目が集まっている。本研究では、これまでのGWASでは明らかにできなかったウイルス性慢性肝疾患の病態・種々の表現型に関連するmiRNAとそれに関連した多型の同定を目指す。
研究方法
虎の門病院、札幌厚生病院、広島大学病院とその関連病院等の研究協力施設で収集されたB型慢性肝炎2,000例、C型慢性肝炎5,000例、健常人1,000人超のゲノム試料を用いてSNP genotyping(Invader法)を行った。miRNAアレイで肝組織・血清の網羅的発現解析を行った。miRNAやそれに関連した多型が表現型に影響するメカニズムにつきin vitro/in vivoの実験系での機能解析を進めている。
結果と考察
中国を中心にB型肝癌との関連が報告されているmiR-146a上のSNPとmiR-196a2上のSNPについて、1,500人以上のB型慢性肝炎患者を解析した結果、わが国におけるB型肝癌においても関連があることを明らかにした(AASLD 2014)。
癌組織の全ゲノム解析で報告のあった高頻度変異遺伝子の発現量をbaselineで規定しているgermlineのSNPについて、肝癌関連解析のGWASデータで検討した。C型慢性肝炎977例(うち肝癌合併212例)の解析から、これらSNPと肝癌易罹患性とは関連が無いことを明らかにした(AASLD 2014)。
HCV持続感染下での肝臓内遺伝子発現パターンと遺伝子多型との関連について、C型慢性肝炎133例を解析した結果、インターフェロン誘導遺伝子群(ISGs)の一つであるOAS1のHCV持続感染肝内における発現量は、HCV非感染時リンパ球とは全く異なるパターンでIL28B遺伝子多型の影響を受けていることが明らかになった(AASLD 2014)。
IFNL4-IL28Bの領域に存在する互いに連鎖の強い3つのSNPについて、C型慢性肝炎4,630症例と健常人1,122名を用いてハプロタイプを推定した上で、Peg-IFN+Rib併用療法のSVR率との関連を解析した結果、ss469415590、rs12979860の2つが治療効果とより強く関連することが示された(J Gen Virol 2014)。
HCV慢性化とHLA-DQB1*03およびIFNL4あるいはIL28B遺伝子多型との関連を確認するとともに、両者の相互作用を示唆する知見を得た(PLoS One 2013)。また、HLA-DQB1*03はSVR率とは関連しないことを明らかにしたが、これはIFNL4遺伝子多型が治療効果にも強く関連するのとは対照的な結果であった(AASLD 2014)。
ヒト肝細胞キメラマウスを用いて肝細胞をmiRNAアレイにより検討した結果、HBV感染によって最も増加が顕著かつHBVゲノムとの相補性の高いmiR-1231に注目して機能解析を行った。miR-1231はHBVコア領域のmRNAに結合してコア蛋白の産生を阻害することでHBV複製を抑制することが示唆された(J Viral Hepat 2014)。
B型・C型慢性肝炎患者(42例・30例)の血清中miRNAのプロファイリングを行った。B型よりもC型肝炎群でより多くのmiRNAの変動が認められた。miR-122はHBV-DNA量に、miR-125bはHBV-DNAとHBs抗原とHBe抗原の量に関連していることが明らかとなった(J Infect 2015)。
これまでの網羅的解析で、miRNAの増減やその多型の効果は単独では決して大きなものではないことが分かってきた。多数のmiRNAが種々の程度で増減し、複数の標的遺伝子あるいはウイルスに対して様々な効果量で作用して病態を形成・修飾していると考えられる。
結論
ゲノム情報あるいは発現量情報を網羅的に解析することで、ウイルス性慢性肝疾患と関連する複数のmiRNAあるいはそれに関連した遺伝子多型を同定した。バイオマーカーや創薬といった臨床応用を目指し、in vitro/in vivoの実験系での機能解析など、さらなる検証が必要である。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201423028Z