肝細胞への取り込み機構に着目したC型およびB型肝炎治療薬新規奏功因子の同定

文献情報

文献番号
201423027A
報告書区分
総括
研究課題名
肝細胞への取り込み機構に着目したC型およびB型肝炎治療薬新規奏功因子の同定
課題番号
H25-肝炎-若手-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
降幡 知巳(千葉大学 大学院薬学研究院薬物学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 千葉 寛(千葉大学 大学院薬学研究院薬物学研究室 )
  • 坪田 昭人(東京慈恵会医科大学 総合医科学研究 センター 臨床医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業では、難治性肝炎の奏功率を向上させるため、B型およびC型肝炎治療薬の取り込みトランスポーターの機能に着目することにより、肝炎治療に貢献する新規宿主因子を明らかにすることを目的としている。これに準じ、平成26年度は、①B型肝炎治療薬エンテカビル(ETV)およびテノフォビル(TFV)の肝細胞取り込み輸送体の同定、②直接作用型C型肝炎治療薬による肝薬物トランスポーターに対する新たな阻害機序の解析、③C型肝炎患者由来試料を用いた新たな治療奏効率規定因子の探索をおこなった。以降、①-③の各項に分けて報告する。
研究方法
①B型肝炎治療薬ETV・TFVの薬効発現に関わる機序を明らかとするため、ヒト肝細胞へのETV・TFV取り込み解析を、取り込みトランスポーター阻害剤存在下・非存在下でおこなった。また、代表的なヒト肝取り込みトランスポーターの安定発現系を構築し、各トランスポーターによるETV・TFVの取り込み活性を解析した。
②直接作用型C型肝炎治療薬による薬物相互作用リスクを評価するため、シメプレビル(SMV)、アスナプレビル(ASV)、ダクラタスビル、ソフォスブビルを用い、肝薬物トランスポーターOATP2B1に対する阻害能を解析した。OATP2B1の安定発現系を構築し、モデル基質取り込みに対する上記薬物の阻害作用を解析した。
③肝炎患者の臨床的知見の的確な把握と治療応答性の特徴解明のため、二剤併用療法をおこなった日本人C型肝炎患者130名を部分応答・不応答群と治療奏功・再燃群に分け、各患者群肝組織におけるmRNAおよびmiRNAの網羅的発現プロファイルを比較解析することにより、治療奏功関連因子の探索をおこなった。
結果と考察
①ETVはOAT2により肝細胞内へと取り込まれることが明らかとなった。したがって、今後OAT2の機能とETV薬効発現との関連を明らかとする必要があるが、OAT2がETVの薬効発現規定因子として確立すれば、薬効発現の個人差の一端が明らかとなる可能性があり、さらに治療効果予測にも貢献できる可能性がある。一方、TFVについても同様の検討をおこなったが、ヒト肝細胞へのTFV取り込み活性は低く、また、いずれのトランスポーター発現系においてもTFV取り込み活性は認められなかった。したがって、その実体は不明であるが、TFVは、少なくともETVとは異なる経路で肝細胞に取り込まれる可能性が考えられた。
②SMVおよびASVにおいて特に強いOATP2B1共存下阻害効果が認められた。また、これら薬剤は持続的にOATP2B1を阻害すること、さらにこの持続的阻害効果は、共存下阻害効果を増強することが明らかとなった。したがって、SMVおよびASVは、臨床においてこれまで用いられてきた手技から予想されるよりも強いOATP2B1阻害作用を有する可能性がある。したがって、今後臨床においてさらなる検証が必要ではあるが、C型肝炎治療薬SMVおよびASVは特に薬物間相互作用リスクが高いと考えられ、本成果はこれら薬剤との併用注意・禁忌薬の喚起やより適切な治療薬選択など新規の治療ガイドラインの策定に係る実験的基盤情報となると考えられる。
③MAP3K8 mRNAの発現量がP/N群においてS/R群よりも有意に高かった。また、miR-17-5pの発現量がP/N群においてS/R群よりも有意に低く、MAP3K8と逆相関関係にあった。これと一致して、MAP3K8の3’非翻訳領域にmiR-17-5pが結合することが明らかとなった。さらに、HCV産生モデル細胞においてMAP3K8およびmiR-17-5pの発現や機能を変動させると、それぞれについて、患者治療応答性と一致したHCV産生プロファイルの変動が認められた。したがって、MAP3K8およびmiR-17-5pはペグインターフェロンα2b/リバビリン併用療法の治療効果関連因子であることが明らかとなった。したがって、これら新たな経路の同定により、これまで不明であった治療奏功や不応患者の原因解明およびそれら患者集団の抽出が可能となることが期待される。
結論
以上、本研究により、OAT2がETV肝細胞取り込みトランスポーターであることが明らかとなった。また、SMVおよびASVは特に強いOATP2B1阻害効果を有することが明らかとなり、これら薬剤は他薬との間で相互作用を起こすリスクがあると考えられた。さらに、MAP3K8およびmiR-17-5pはペグインターフェロンα2b/リバビリン併用療法の治療効果関連因子であることが明らかとなった。これら研究成果は当初研究目的に沿った内容であり、今後研究を継続することにより、さらにB型・C型肝炎治療の質の向上に貢献する成果が得られることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201423027Z