C型肝炎ウイルス感染特異的な長鎖ノンコーディングRNAの探索

文献情報

文献番号
201423022A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルス感染特異的な長鎖ノンコーディングRNAの探索
課題番号
H24-肝炎-若手-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
島上 哲朗(金沢大学 附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 白崎 尚芳(金沢大学 医薬保健研究域)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は以下である。
1)HCV感染特異的に発現が増減するlncRNAを探索する。
2)さらにそれらのlncRNAの中からHCV複製および感染を制御するlncRNAを同定する。
3)同定したlncRNAによるHCV複製制御機構を解明する。
4)C型慢性肝炎感染肝組織におけるlncRNAの発現と、インターフェロン治療効果およびインターフェロン治療抵抗性の関連を明らかにする。
 昨年度までのHCV感染培養細胞由来RNAの次世代シークエンサーを用いた解析からlncRNAの一つであるlncRNA-HがHCV感染において発現誘導されること、またlncRNA-Hの発現抑制によりHCV複製が抑制されることを見いだした。本年度の検討では、研究分担者白崎が、lncRNA-Hの発現抑制のHCV感染性粒子産生能に与える影響、およびHCVによるlncRNA-Hの発現誘導機序の解明を行った。研究代表者島上は、in vitro(培養細胞)において認めたHCV感染によるlncRNA-Hの発現誘導が、in vivo(マウス、チンパンジー、ヒト)においても認められるかどうかを検討した。また昨年度までの検討でC型慢性肝疾患患者では肝内のlncRNA-Hの発現量がIL28B Gtマイナー患者は有意にIL28BGtメジャー患者に比べ高値であることを見いだした。本年度は血清中のlncRNA-Hの発現量に関して測定し、L28Bメジャー患者とマイナー患者での比較を行った
研究方法
1)HCV感染培養細胞にlncRNA-Hを発現抑制するsiRNAを投与し、感染粒子産生能に与える影響を検討する。
2)転写因子c-JunをHCV感染、非感染培養細胞に投与してlncRNA-H発現に与える影響を検討する。
3)キメラマウス、チンパンジーにHCV感染させ、肝内lncRNA-H発現量の経時的変化を検討する。
4)HCV排除前後で肝生検を施行しえたC型慢性患者20例に関して肝内lncRN-H発現量をHCV排除前後で比較検討する。
5)テラプレビル併用ペグインターフェロン、リバビリン療法を施行されたC型慢性肝疾患患者80例(IL28B Gt メジャー、マイナー 各々40例)に関して治療開始前の血清中lncRNA-H量を定量PCR法にて測定してIL28B GtによるlncRNA-Hの発現量を比較した。
結果と考察
1)lncRNA-HのHCV感染性ウイルス粒子産生に与える影響の解析
lncRNA-Hに対するsiRNAの投与を行ったHCV複製細胞からの感染性粒子産生は、コントロールと比較して、siRNAの投与においても約10分の1にまで低下した。
2)HCV感染によるlncRNA-H発現制御に関する検討
lncRNA-Hのプロモータ領域の解析からc-JunがlncRNA-Hの発現制御に関与している可能性が考えられた。そのためc-Junに着目し、HCV感染によるlncRNA-H発現抑制機序の解明を行った。その結果HCV感染はc-Junを活性化を介してlncRNA-Hの発現を促進していると考えられた。
3)HCV感染チンパンジー、HCV感染マウスによるlncRNA-H発現に関する検討
 HCV感染マウス、チンパンジーにおいてHCV感染により肝でのlncRNA-Hの発現誘導を認めた。
4)ヒトでのHCV感染と肝lncRNA-H発現に関する検討
 C型慢性肝炎患者においてHCV排除前後での肝内でのlncRNA-Hの発現量を比較したところ、HCV排除後にlncRNA-Hの有意な発現低下を認めた。
5)IL28B Gtによる血清中lncRNA-H発現量の検討
 Il28Bマイナー患者での血清lncRNA-H発現量はメジャー患者に比べて有意に高値であった。
結論
 培養細胞系を用いた解析から、HCV感染によるlncRNA-Hの発現誘導は、c-Junの活性化を介したものである可能性が示唆された。
 In vivoにおいてもin vitroと同様にHCV感染によるlncRHA-Hの発現誘導を認めた。
 またIL28Bゲノタイプマイナー患者の肝内、血清中lncRNA-H発現量はメジャー患者に比べて有意に高値であった。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201423022B
報告書区分
総合
研究課題名
C型肝炎ウイルス感染特異的な長鎖ノンコーディングRNAの探索
課題番号
H24-肝炎-若手-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
島上 哲朗(金沢大学 附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 白崎 尚芳(金沢大学 医薬保健研究域)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年、200塩基以上のlong non-coding RNA(lncRNA)が、様々な疾患・病態において重要な役割を果たしていることが報告されている。C型肝炎ウイルス(HCV)とnon-coding RNAに関しては、短鎖型non-coding RNAであるmicroRNA-122 (miR-122)が、HCV複製に促進的に働き、有力な治療標的であることが明らかとなったが、lncRNAとHCV感染との関連は未解明である。本研究では、新たな抗HCV療法の標的となりえるlncRNAの同定を行なうこと、さらにC型慢性肝疾患におけるインターフェロン治療反応性や肝発癌などの様々な病態におけるlncRNAの関与を明らかにすることを目的とした。
研究方法
 上記目的のため以下の検討を行った。
1)HCV感染培養細胞由来のRNAを次世代シークエンサーを用いて網羅的に解析しHCV感染特異的に発現が増減するlncRNA群を探索する。
2)さらにそれらのlncRNAの中からHCV複製および感染を制御するlncRNAを同定する。
3)同定したlncRNAによるHCV複製制御機構を解明する。
またこれらのin vitroにおける解析から、lncRNAの一つであるlncRNA-HがHCV感染において発現誘導されること、またlncRNA-Hの発現抑制によりHCV複製が抑制されることを明らかにした。さらにlncRNA-Hに着目して、in vivoにおける意義を以下の点から解析した。
1)In vitroにおいて認めたHCV感染によるlncRNA-Hの発現誘導が、マウス、チンパンジーなどのin vivoにおいても認められるかどうかを検討する。
2)C型慢性肝疾患患者で抗ウイルス療法によるHCV排除前後の肝組織中のlncRNA-Hの発現量を比較し、ヒトにおけるHCV感染によるlncRNA-Hの発現の変化を検討する。
3)C型慢性肝疾患患者の抗ウイルス療法前の肝組織中及び血清中のlncRNA-H発現量を定量PCR法にて測定し、IL28B GtとlncRNA-H発現量の相関の有無を検討した。
結果と考察
1)HCV感染培養細胞由来RNAを次世代シークエンサーによるRNAseq法で解析し、HCV感染特異的に発現が増加するlncRNA群26個を抽出した。
2)これら26個のlncRNAの発現を抑制するsiRNAを作成し、HCV複製培養細胞に投与したところ4種のlncRNAに関して発現抑制によるHCV複製の低下を認めた。
3)これら4種類のlncRNAのうち、既にlncRNAとしてデータベースに登録されており、さらに肝臓における発現も報告されているlncRNA-Hに着目した。
4)培養細胞においてHCV感染力価依存性のlncRNA-Hの発現誘導を認め、その発現誘導は転写因子c-Junを介していると考えられた。またlncRNA-Hの発現抑制によりGt1a,1b,2a,1a/2aキメラウイルスのRNA複製の低下、さらに1a/2aウイルスからの感染性粒子産生低下を認めた。
5)マウス、チンパンジーモデルでもHCV感染による肝内lncRNA-Hの発現誘導を認めた。
6)C型慢性肝炎患者でもHCV排除による肝内のlncRNA-Hの発現低下を認めた。
7)C型慢性肝炎患者での血清、肝内でのlncRNA-H発現量をIL28B Gt別で比較したところ、IL28Bマイナー患者では有意にIL28Bメジャー患者に比べて高値であった。
 既報からlncRNA-Hは肝発癌への関与が示唆される。そのためHCVによるlncRNA-Hの発現誘導はHCVによる肝発癌機序の解明につながることも期待される。
結論
 In vitroにおける解析からHCVの感染により発現が誘導されるlncRNA-Hを同定した。In vivoにおいてもin vitroと同様にHCV感染によるlncRHA-Hの発現誘導を認めたため、lncRNA-Hは抗HCV療法の新規治療標的と考えられた。
 またIL28Bゲノタイプマイナー患者の肝内、血清中lncRNA-H発現量はメジャー患者に比べて有意に高値であり、lncRNA-Hはインターフェロン治療抵抗性に関与している可能性、あるいは新規のインターフェロン治療の効果予測のマーカーとなり得る可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201423022C

収支報告書

文献番号
201423022Z