肝炎ウイルスの複製増殖および病原性発現機構と薬剤感受性の解析

文献情報

文献番号
201423009A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルスの複製増殖および病原性発現機構と薬剤感受性の解析
課題番号
H25-肝炎-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
脇田 隆字(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 土方 誠(京都大学 ウイルス研究所)
  • 飯島 沙幸(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 森石 恆司(山梨大学 大学院医学工学総合研究部)
  • 池田 正徳(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 大西 俊介(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 萩原 正敏(京都大学 大学院医学研究科)
  • 青戸 一司(浜松医科大学 医学部)
  • 八木 清仁(大阪大学 大学院薬学研究科)
  • 水口 裕之(大阪大学 大学院薬学研究科)
  • 石井 孝司(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 森川 賢一(北海道大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 三浦直行(平成26年4月1日~27年1月21日)→青戸一司(平成27年1月22日以降) 所属機関異動 研究分担者 森川賢一 昭和大学医学部(平成26年4月1日~26年9月30日)→北海道大学 大学院医学研究科(平成26年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
肝炎ウイルス感染症は我が国における最も重要な疾患のひとつであり、その対策を迅速に進める必要がある。近年開発中の抗HCV薬に対する感受性や耐性変異などウイルス学的研究が必要である。さらに薬剤耐性HBVの出現およびそのコントロールが問題である。また、近年我が国土着の人獣共通感染症としてHEV感染症が問題となってきた。特に老人における感染では重症化・劇症化する場合がある。これらの肝炎ウイルスに関する問題点を解決するためには、ウイルス複製増殖機構や病原性発現機構を理解することが重要である。
研究方法
新規ウイルス培養系の開発と、ウイルス培養系を利用して、ウイルス複製増殖過程と病原性発現機構を解析した。さらに、抗ウイルス薬に対する感受性を解析した。ウイルス培養系を利用してウイルスライフサイクルの各過程を標的として研究を進めた。さらに、必要な宿主因子を明らかにして、新規感染動物モデルの開発を試みた。また、最近著しい進歩をとげている細胞リプログラミング技術を利用して、肝炎ウイルス感染感受性を有する新たな培養細胞モデルの開発を進めた。
結果と考察
遺伝子型3のHCV感染モデルを確立した。遺伝子型3の感染細胞における脂肪滴の量が増加していた。遺伝子型2bの感染性HCVクローンを樹立し、抗HCV薬の感受性を解析した。
HEVのレプリコンを作成し、HEV増殖阻害剤のスクリーニングを開始し、複数の化合物を同定した。リバビリンがHEVに効果がああった。
LカルニチンはHCV増殖陽性効果・抗脂肪化効果を有する。また、IFN抵抗性HCV株を樹立した。
ミツバチのプロポリスの主成分からの誘導体caffeic acid n-octyl esterが抗HCV活性を示し、IFNおよびDAAに対して相乗効果を示した。さらにTyphostinおよびその誘導体が抗HCV活性を示した。
宿主キナーゼを標的とした汎用性の高い抗ウイルス剤を創製した。臨床試験の準備中である。
小胞輸送蛋白質Rabを修飾するGGTase IIを構成するREP1, -2はHCVの増殖に重要な宿主因子である。RabとREPの相互作用を評価するアッセイ系を開発した。
HBVおよびHCVに共通するウイルス発癌因子の同定および解析を行った。同定タンパクのクローニングを行い、発現プラスミドを構築した。同定タンパクの各種細胞株内および感染患者ないでの発現量をmRNAおよび蛋白質を比較検討した。
HBV複製効率の著しく異なるgenotypeを用いてCP領域部位のキメラウイルスを構築した。Basal core promoter領域のキメラウイルスで著しい複製効率増強が確認された。
HCV cDNA Tgマウスを作製した。このマウス血液中に感染性ウイルスが検出され、患者血清と同等の感染性が観察された。抗コア抗体で全ての肝細胞が強く染色され、慢性HCV感染モデルマウスとして、治療薬の開発やワクチン開発も可能となる。HCVのマウス肝細胞への侵入因子、ヒトCD81とヒトOCLNを発現するノックインマウス(DCマウス)の作製に成功した。
ヒト肝幹細胞を肝細胞へ分化させ、この細胞が組換えHCVに対して感染感受性を示した。培養肝細胞に対するHCV感染増殖は一過性であり、細胞の自然免疫機構により感染増殖が抑制される可能性がある。HCVの感染増殖にIFNλが関与した。IFN λはIFN αとは異なる抗HCV作用を示した。
ヒトiPS細胞由来肝細胞分化誘導系を用いてHCV侵入および複製に関与する候補遺伝子の絞り込みを行い、HCV侵入について99遺伝子、HCV複製について33遺伝子を抽出した。低分子化リグニンがHCV侵入阻害作用を有していることを明らかとした。
種々のiPS細胞におけるIL28BのSNPを検討し、マイナーアリルの5株を同定した。iPS細胞由来肝細胞はRIG-Iなど種々の自然免疫受容体およびその関連分子を発現した。iPS細胞由来肝細胞にHCV (JFH-1株)を作用させたところ、ISGが発現上昇したことから、iPS細胞由来肝細胞を用いてHCVによる自然免疫応答を評価可能であることが明らかとなった。
結論
肝炎ウイルスの複製増殖機構および病原性発現機構の解析によるに対する新たな治療法の開発は患者の予後を改善する可能性がある。また、薬剤感受性の解析によりより適切な治療選択を可能とすることが期待できる。さらに最近ウイルス性肝炎患者を広く検診で拾い上げ、治療が必要な患者に対して適切な治療を行うことが社会的な要請であり期待である。この要請に応えるためにはより効果の高い治療法を低コストで実施できるよう開発していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201423009Z