家族性遺伝性疾患の解析のための情報・検体の集積分配ネットワーク構築に関する研究

文献情報

文献番号
199800395A
報告書区分
総括
研究課題名
家族性遺伝性疾患の解析のための情報・検体の集積分配ネットワーク構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
鈴森 薫(名古屋市立大学医学部産科婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 千葉喜英(国立循環器病センター周産期科)
  • 名取道也(国立大蔵病院臨床研究部)
  • 堀尾裕幸(国立循環器病センター研究所疫学部)
  • 石川睦男(旭川医科大学産婦人科)
  • 佐藤昌司(九州大学医学部附属病院周産母子センター)
  • 下山豊(国立大蔵病院外科)
  • 由谷親夫(国立循環器病センター臨床検査部)
  • 種村光代(名古屋市立大学医学部産科婦人科)
  • 戸田達史(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター)
  • 羽田明(旭川医科大学公衆衛生学)
  • 清水宏(慶應義塾大学医学部皮膚科)
  • 孫田信一(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所遺伝部)
  • 遠藤文夫(熊本大学医学部付属病院小児科)
  • 大橋博文(埼玉県立小児医療センター内科)
  • 田中一(信楽園病院神経内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎児由来細胞による遺伝情報の解析や発生過程の環境因子の評価を、広範な研究協力の元に実施するための情報・検体の集配システムを構築する。本システムを用いて胎児病や胎芽・胎児死亡素因の広範な解明を行うとともに、先天性疾患、家族性疾患にかかわるヒト胎児遺伝子、胎芽胎児形態学研究の世界的情報、およびわが国における研究実施施設を、広く周産期医療施設へ知らしめる情報ネットワークを構築し、生殖医療の現場にリアルタイムに正しい情報を伝えることを最終目標とする。本研究は患者への十分な説明と同意の上に行われるものであり、日本産科婦人科学会、日本人類遺伝学会をはじめとする日本医学会分科会、及び関連組織の倫理規定の元に推進する。
研究方法
遺伝子・染色体診断研究状況の調査は主任研究者;鈴森と分担研究者;下山、由谷、種村、戸田、羽田、清水、孫田、遠藤、大橋、田中と、遺伝子研究にかかわる研究協力者が担当する。個体標識情報と検体の収集:胎内で形態診断がなされた先天性疾患、もしくは流・死産した胎芽・胎児由来細胞(以下検体)を、家系、環境、形態情報と共に集積する。胎児異常の診断、検体の採取、個体標識情報の収集は、各地方ごとに設ける地方・地域拠点施設の周産期部門が担当する。主任研究者;鈴森は中部地区、分担研究者;佐藤は九州地区、千葉は近畿地区、名取は関東地区、石川は北海道地区の地域拠点施設の運営にあたる。他の地方、地域については研究協力者を配置する。なお、検体バンク用に分担研究者;孫田、大橋は患者細胞株をBリンパ芽球様細胞株樹立法にて樹立する。データバンクと検体バンク:データバンクに家系、環境、形態情報で標識登録された胎芽・胎児由来細胞、DNAは、検体バンクに保管され、遺伝子、形態、環境因子を研究する研究者に配分され解析される。解析されたデータもデータバンクに保管される。データバンクのホストコンピュータには国立循環器病センター研究所のコンピュータを採用し、データバンクの設計構築は分担研究者;千葉、名取があたり、システムの立ち上げ、情報回線の整備、システムの保守管理は分担研究者;堀尾が担当する。検体バンクは名古屋市立大学医学部産科婦人科学教室内に置き、主任研究者;鈴森と分担研究者;種村が管理する。検体集配システムは分担研究者;千葉、種村が設計する。なお、主任研究者;鈴森と分担研究者;由谷、羽田、名取、種村により、日本産科婦人科学会、日本人類遺伝学会をはじめとする日本医学会分科会、及び関連組織の倫理規定をふまえ本研究用のインフォームドコンセント用紙を作成し、関連施設の倫理委員会に提出し検討を依頼する。まず、臨床応用に先立ち、各分担研究者、研究協力者がそれぞれの既存の症例をシュミレーション登録し、年間のデータ数、データ精度、症例数、サンプル数、疾患の種類などについて検討する。追跡情報:死亡児や死亡胎芽・胎児については剖検、先存児は乳児期まで追
跡調査を行う。これには地方・地域拠点病院の元に定点観測病院を依頼する。追跡情報は実時間でデータバンクに登録される。
結果と考察
データバンクのホストコンピュータには国立循環器病センター研究所のコンピュータ、回線はセキュリティを重視してインターネットの利用を避けISDN回線による直接ダイヤルアップとし、各研究者が日々利用しているパソコンを端末とするネットワークを構築した。各班員が使用するソフトウェアはWebブラウザとして汎用的なNetscapeをデータの入力とデータベースの検索に利用した。平成10年度は過去の症例を参考にバンク登録のシュミレーションを行った。同時に、検体と情報の収集・保存のための倫理に関して十分に討議を重ね、倫理面での専門家の研究協力を得て、本研究用インフォームドコンセント用紙を作成した。また、検体の採取や集配、解析の潤滑化を図るために検体採取・輸送マニュアル、疾患分野ごとの遺伝子解析専門家リストを作成した。なお、バンクのシュミレーション結果を参考に検体バンクを名古屋市立大学医学部産科婦人科学教室研究室内に設置し、患者細胞からのBリンパ芽球様細胞株樹立とその管理については愛知県コロニーと埼玉県立小児医療センターにて行うこととした。既存の症例をもとにしたバンクのシュミレーションにより検体バンクの構築はほぼ完成した。データバンクもほぼネットワークが完成し、いずれも臨床実用化が可能となってきた。本研究用に作成したインフォームドコンセント用紙は各関連施設の倫理委員会に検討を依頼し、一部の施設ではすでに臨床応用を開始し、胎芽・胎児由来細胞、DNAは検体バンクに保管され、遺伝子、形態、環境因子を研究する研究者に配分され解析されつつある。検体の収集は始まったばかりであり、現時点では、遺伝情報、環境因子、胎児形態情報の解析については、各分担研究者はそれぞれの領域について既存の症例や動物実験により個別に予備的研究をすすめ、臨床応用に向けて準備をすすめている。具体的には、胎児細胞の分子細胞学的解析(鈴森)、超音波ドップラー解析による胎児循環動態の解明(千葉)、ヒト遺伝子情報のあり方(名取)、データバンクの集積データの数理解析(堀尾)、胎児循環動態からみた疾病双胎胎児の病態形成の検討(佐藤)、臍帯や胎盤の発育異常・位置異常と発生関連遺伝子の役割(石川)、ロキタンスキー症候群における原因・関連遺伝子の解明(石川)、ヒト中枢神経系の発生・分化異常におけるカドヘリン遺伝子群に関する研究(下山)、13トリソミ-における心奇形の病理形態学的解析(由谷)、胎内感染による先天異常発症機序の解明(種村)、福山型先天性筋ジストロフィ-原因遺伝子に関する研究(戸田)、多因子遺伝病の家系および遺伝子解析(羽田)、皮膚症状を呈する遺伝性疾患の解析(清水)、染色体不均衡の発生・分化に及ぼす影響に関する研究(孫田)、先天性高アンモニア血症家系の調査(遠藤)、Bリンパ芽球様細胞株の再解凍後の再増殖成功率(大橋)、Early onset ataxia with hypoalbunemia (EOAHA)責任遺伝子の解明(田中)など、あらゆる領域について研究が推進されている。
結論
全国レベルのネットワーク、情報・検体バンクの構築がほぼ完成し、臨床実用化が始まっているが、参加施設の増加や検体の多様化、症例数の増加などが想定され、さらに円滑なバンク運営を図るため各種マニュアルの改良が望まれる。なお、倫理規定についての討議や、インフォームドコンセントの徹底などについては、さらに継続して検討してゆく必要がある。また、遺伝子染色体解析、胎児形態診断、環境因子解析などの各個別研究も徐々にすすみつつある段階であるが、各研究者は、今後本システムを実際に活用し、ヒトゲノム解析研究と産科周産期医療が連動して遺伝子解析をはじめとする個別研究をすすめ、胎児病や胎芽・胎児死亡素因の広範な解明を行い、生殖医療の現場にリアルタイムに正しい情報を提供することを最終目標とする。

公開日・更新日

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