comparative genomic hybridization法とrepresentational difference analysis法を用いた悪性腫瘍の進展増悪に関与するゲノム変異の研究

文献情報

文献番号
199800394A
報告書区分
総括
研究課題名
comparative genomic hybridization法とrepresentational difference analysis法を用いた悪性腫瘍の進展増悪に関与するゲノム変異の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 裕子(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 澤田賢一(北海道大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、高齢患者数が増加しており、しかも病勢増悪を阻止することにより、大幅な予後の改善が期待される慢性骨髄性白血病(CML)や骨髄異形性症候群(MDS)において、病勢増悪責任遺伝子を単離し、予後予測に役立てるほか、その遺伝子をターゲットとした遺伝子治療の開発をめざす。
研究方法
病勢増悪時(CML急性転化時、MDS白血病移行時)検体と慢性期検体からDNAやmRNAを抽出し、RDA法を用いて、[病勢増悪時]-[慢性期]のsubtractionを行い、病勢増悪時に特異的に発現しているDNA sequenceを増幅して検出し、BLAST検索を行って候補遺伝子の同定をする。これらの候補遺伝子が実際の病勢増悪時検体で高発現しているかどうかを多数の臨床例で検討して、最終的に病勢増悪責任遺伝子を決定する。
結果と考察
今年度は実験系の検討を行った。RDA法にはgenomic DNAを用いる方法とcDNAを用いる方法がある。前者では、ゲノムの増幅部位、欠失部位を含めたゲノム変異の全てを捉えることが可能であるが、反面、・検体が多量に必要である(一制限酵素あたりDNA 10_g必要。3種の制限酵素を使いたいが、それには30_g必要。この検体量は血液腫瘍患者ではかなり困難)、・<腫瘍細胞>と<正常細胞>の差を見る検査であるため、検体中に両者の混入があると結果が明瞭に出ない(混入率20%以下が望ましい。しかし、血液腫瘍患者では両者の混入のない検体を得ることは不可能)という難点がある。。そこで予備実験として、・検体必要量を減らすことが可能か、・混入率20%の検体で良好な差がでるか、を検討した。その結果、・最終段階のアンプリコンをプローブとしてコロニーのdot hybridizationを行う過程で、PCRで増幅したアンプリコンをプローブとして使用できないか試してみたが、PCR増幅するとアンプリコンの性状が修飾されてしまい、プローブとして不正確になること、つまり、検体必要量を減らすことは不可能であること、・20%の混入率でも良好な結果を出すことが困難であること、が判明した。そこで次にcDNA-RDA法を検討した。予備実験としてCML myeloid crisis時に樹立された細胞株TNCC-SとCML慢性期骨髄血プール検体を用い、両検体のsubtractionをcDNA-RDA法で行った結果、合計41個の遺伝子が検出された。この内、4個(transglutaminase、90-kDa heat-shock protein、elongation factor 2、acidic ribosomal phosphoprotein PO)はdot hybridizationで、肉眼的に高発現が確認された。検出された遺伝子の中には非特異的に検出されるribosomal protein遺伝子やHLA関連の遺伝子も少数含まれていたが、dot hybridizationでは慢性期骨髄血プール検体との差が明らかではなかったものの、病勢増悪因子の候補遺伝子としての今後検討の余地があるものとして、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase、3-phoshoglycerate dehydrogenase、calcium-independent phosholipase A2、wbscr1 and replication factor C subunit 2、erythroid ankyrin、c-myc oncogene、protein phosphatase 2A B56-epsilon、GPI-anchored protein p137、dystroglycan、putative potassium channel subunit (h-erg)、transcriptional activator (BRG-1)、transferrin receptor、Immunophilin (FKBP52)、diaphanous 1 (HDIA1)、HERC2、cell cycle progression 2 protein、cystathionine-beta- synthaseなどがある。また、5個は新規遺伝子であり、この内、1個はendogenous retrovirus type C oncovirusとの相同性が確認され、この遺伝子は多数のコロニーで検出されたばかりか、dot hybridizationでも高発現が確認された
。CML megakaryocytic crisisの臨床例で同様の検討を行ったところ、合計31個の遺伝子が検出され、この内、6個は新規遺伝子であった。この内、1個は24個のDNAがC. elegans beta-1 glucosaminyl transferaseと一致していた。dot hybridizationの結果との照合を現在、行っている最中である。この症例はmegakaryocytic crisisであったが、芽球の性質を反映してhuman platelet glycoprotein IIIa、human platelet glycoprotein IIb、thrombospondinなど血小板関連の遺伝子発現が検出されたのは興味深い。その他、erythrocyte plasma membrane glycoprotein、membrane glycoprotein Ib-alpha (GPIP) gene、endogenous retrovirus type C oncovirus、caldesmon、tissue inhibitor of metalloproteinase-3、mdr1、fibroblast tropomyosin TM30、elongation factor 2、cyclooxygenase 1なども検出された。endogenous retrovirus type C oncovirusとelongation factor 2は両検体で検出された。Daheronら(Leukemia 12:326-332, 1998)はPCR増幅を行わずにcDNA libraryを用いたサブトラクション法でK562細胞株とCML慢性期患者脾臓細胞とで発現差のある遺伝子の検出を試み、1084個のコロニーから43個のクローンを検出した。その内、30個のコロニーではribosomal protein、mitochondrial DNA、Alu sequenceなどでったが、その他のコロニーではlaminin-binding proteinやMAZ proteinなどが検出でき、実際の急性転化臨床症例3例をプールした検体でこれらの遺伝子が高発現していることをノーザン解析で確認している。しかし、ribosomal proteinの高発現は細胞増殖時に常に見られる非特異的な現象であり、病勢増悪因子単離につながるとは考え難い。我々のcDNA-RDA法でも非特異的発現遺伝子と考えられるribosomal protein、satellite III DNA、immunoglobin、MHC関連遺伝子などの検出率は全コロニーの10-15%程度に見られたが、その他のコロニーでは病勢増悪因子候補遺伝子として可能性のある多数の遺伝子を検出できたので、cDNA サブトラクション法としては優れた方法だと考える。また、differential display(DD)法との比較検討も同一の検体を用いて行った(委託検査:大塚アッセイ研究所)。その結果、TNCC-SではS19 ribosomal protein mRNA、HE5 mRNA for CDw52 antigen、cytochrome C oxidase subunit Vb mRNA、metastasis suppressor gene、MHC protein homologous to chicken B complex protein mRNA、colin carcinoma laminin-binding protein mRNA、amino exchange protein 2、GT335 mRNA、elongation factor 1-gamma、4F5 rel mRNAが高発現してが、cDNA-RDA法とDD法の両方で検出された遺伝子は一つも見られなかった。病勢増悪因子単離法として、どちらの方法が優れているかの結論は現段階では出せないが、DD法は大変な労力を要するので現在の我々の研究室で行うことは不可能である。今後は、検出された候補遺伝子の臨床検体における発現量を定量性RT-PCRで検討し、最終的に病勢増悪因子遺伝子を同定する予定である。
結論
病勢増悪因子単離の為の実験系を検討した結果、cDNA-RDA法は簡便で優れた方法であることが判った。今後は候補遺伝子の臨床検体における発現量を検討し、最終的病勢増悪因子の同定を行う。MDS症例に於いても同様の検索を行う。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-