HIV陽性者における進行性多巣性白質脳症に対する高精度検査技術の開発および診断への応用

文献情報

文献番号
201421032A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV陽性者における進行性多巣性白質脳症に対する高精度検査技術の開発および診断への応用
課題番号
H24-エイズ-若手-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中道 一生(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,273,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy, PML)は、JCウイルス(JCV)に起因する致死的な脱髄疾患であり、HIV陽性者を中心とした免疫不全患者等において発生する。PMLの診断では、脳脊髄液を用いたJCVゲノムDNAのリアルタイムPCRが一般的な検査手法となっている。この検査は、健常人にも持続感染しているアーキタイプJCVの混入、もしくは陽性検体から陰性検体への汚染によって偽陽性を生じる危険性を有する。髄液PCR検査における偽陽性はPMLの診断や治療に悪影響を与えるリスクが大きい。そのため、脳脊髄液を用いたJCVのPCR検査において、偽陽性およびウイルス変異の有無をモニターするための新たな検査技術の開発が必要であると考えた。本研究は、「高解像度融解曲線分析(High-Resolution Melting analysis, HRM)法を用いて、JCVのゲノムDNAに生じるランダムな変異を迅速に識別するための検査系を確立し、PMLの高精度診断技術へと応用すること」を目的とする。
研究方法
健常人に持続感染しているJCVゲノムのDNA配列は宿主の終生にわたって安定している。一方、PMLを引き起こすJCVのゲノムDNAは、ウイルス遺伝子のプロモーター領域(調節領域)において患者個人レベルの多様な変異を生じる。本検査系は、JCVの調節領域の変異に着目し、リアルタイムPCR法によって標的配列を増幅した後、配列の相違に伴うDNA断片の解離温度の差をHRM法によって測定することを原理としている。前年度までの本研究では、JCVゲノムの調節領域を標的としたHRM検出系を開発し、臨床面でのバリデーションを経てPMLの診断技術として実用化することに成功した。研究最終年度となる今年度では、PMLの治療中の脳脊髄液検査および脳組織検査、さらには基礎研究における応用性を評価した。PMLの診断後に治療がなされた患者を対象として、初回検査およびフォローアップ検査に用いられた脳脊髄液におけるJCVの変異パターンをリアルタイムPCR-HRMにより比較した。これにより、PMLのフォローアップ検査において陽性が認められた検体から過去の検体を患者個人レベルで照合しうるか否かを解析した。また、PML患者の脳組織DNAを対象として、各検体をHRMによって識別しうるか否かを解析した。加えて、調節領域をプラスミドにクローニングする際、本検出系がクローンのスクリーニングに応用できるか否かを解析した。なお、本研究は、国立感染症研究所ヒトを対象とする医学研究倫理審査委員会の承認を受けた後、適切な配慮のもとに実施された。
結果と考察
PMLと診断された患者では、抗レトロウイルス療法もしくは免疫抑制の解除等が行われ、脳脊髄液中のJCV量を定期的に測定することが多い。診断時に提出された検体およびフォローアップにおいて採取された検体においてJCVの変異パターンをHRMによって比較したところ、各々の検体中のJCVを患者個人レベルで識別することが可能であった。また、各患者の診断時およびフォローアップ時の検体中のJCVは極めて類似した変異パターンを示しており、診断から治療までの長期に亘ってJCV陽性検体を識別しうることが分かった。加えて、PML患者の脳組織から増幅したJCVの調節領域をプラスミドにクローニングし、1,500クローンを超える変異型JCVのDNAライブラリーを作製した。その際、プラスミドを導入した大腸菌から核酸を抽出することなく、菌体をそのままリアルタイムPCR-HRMの鋳型として用いることで、JCV-DNAクローンの絞り込みが可能であった。これらの結果から、本検査系はPMLの診断だけではなく、①PML治療時のフォローアップ検体からのキャリーオーバーによる偽陽性を監視することでPCR検査の信頼性の向上に繋がること、ならびに、②PMLの病態解明に向けた基礎研究において有用な研究ツールとなることが期待された。
結論
PMLを引き起こすJCVゲノムでは患者個人レベルの多様な変異が生じる。検体中のJCVの変異パターンをHRMによって迅速にスキャンすることで、陽性検体を患者個人レベルで識別するための検査技術を開発した。また、HRMによるJCVの変異スキャニングは、PMLの診断だけでなく、フォローアップ検査や脳組織検査、さらにはPMLの病態機序に関する基礎的研究においても有用なツールとなりうることを示した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201421032B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV陽性者における進行性多巣性白質脳症に対する高精度検査技術の開発および診断への応用
課題番号
H24-エイズ-若手-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中道 一生(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy, PML)は、JCウイルス(JCV)に起因する致死的な脱髄疾患であり、HIV陽性者を中心とした免疫不全患者等において発生する。PMLの診断では、脳脊髄液を用いたJCVゲノムDNAのリアルタイムPCRが一般的な検査手法となっている。この検査は、健常人にも持続感染しているアーキタイプJCVの混入、もしくは陽性検体から陰性検体への汚染によって偽陽性を生じる危険性を有する。髄液PCR検査における偽陽性はPMLの診断や治療に悪影響を与えるリスクが大きい。そのため、脳脊髄液を用いたJCVのPCR検査において、偽陽性およびウイルス変異の有無をモニターするための新たな検査技術の開発が必要であると考えた。本研究は、「高解像度融解曲線分析(High-Resolution Melting analysis, HRM)法を用いて、JCVのゲノムDNAに生じるランダムな変異を迅速に識別するための検査系を確立し、PMLの高精度診断技術へと応用すること」を目的とする。
研究方法
健常人に持続感染しているJCVゲノムのDNA配列は宿主の終生にわたって安定している。一方、PMLを引き起こすJCVのゲノムDNAは、ウイルス遺伝子のプロモーター領域(調節領域)において患者個人レベルの多様な変異を生じる。本検査系は、JCVの調節領域の変異に着目し、リアルタイムPCR法によって標的配列を増幅した後、配列の相違に伴うDNA断片の解離温度の差をHRM法によって測定することを原理としている。平成24年度(研究開始年度)では、JCVゲノムの調節領域を標的としたリアルタイムPCR-HRM検査系を確立した。平成25年度では、PML患者および非PML患者の脳脊髄液を用いた本検査系の臨床面でのバリデーションを実施した。平成26年度(最終年度)では、①PMLの治療に伴うフォローアップ検査、②脳組織検査、③病態解明に向けた基礎的研究におけるリアルタイムPCR-HRM検査系の有用性を解析した。なお、本研究は、国立感染症研究所ヒトを対象とする医学研究倫理審査委員会の承認を受けた後、適切な配慮のもとに実施された。
結果と考察
JCVゲノムの調節領域を標的とした多数のプライマーセットを設計し、標準DNAを鋳型としてリアルタイムPCR-HRMに適した条件を解析した。様々な候補検出系の中から最も安定かつ鋭敏な検出系を選定した。本検査系はNested PCRに匹敵する感度および特異性を有することが分かった。また、PML患者およびその他の患者から採取された脳脊髄液を用いて本検査系のバリデーションを行い、その実用化に成功した。さらに、本検査系はPMLの診断を目的とした脳脊髄液検査だけではなく、①PML治療時のフォローアップ検体からのキャリーオーバーによる偽陽性を監視することでPCR検査の信頼性の向上に繋がること、②脳組織を用いたJCV検査において用いることが可能であること、③PMLの病態解明に向けた基礎研究において有用な研究ツールとなることが期待された。
結論
PMLを引き起こすJCVゲノムでは患者個人レベルの多様な変異が生じる。検体中のJCVの変異パターンをHRMによって迅速にスキャンすることで、陽性検体を患者個人レベルで識別するための検査技術を開発した。また、HRMによるJCVの変異スキャニングは、PMLの診断だけでなく、フォローアップ検査や脳組織検査、さらにはPMLの病態機序に関する基礎的研究においても有用なツールとなりうることを示した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201421032C

収支報告書

文献番号
201421032Z