血液製剤によるHIV/HCV重複感染患者の肝移植適応に関する研究

文献情報

文献番号
201421030A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤によるHIV/HCV重複感染患者の肝移植適応に関する研究
課題番号
H24-エイズ-指定-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
江口 晋(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 玄田 拓哉(順天堂大學医学部附属静岡病院 消化器内科)
  • 上平 朝子(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 感染症内科)
  • 國土 典宏(東京大学医学部大学院医学系研究科)
  • 塚田 訓久(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 中尾 一彦(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 永野 浩昭(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 古川 博之(旭川医科大学 医学部)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
  • 四柳 宏(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 高槻 光寿(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
13,110,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、既に長崎大学で集積されたHIV/HCV重複感染者(以下、重複感染者)の肝検診のデータおよびエイズ診療拠点病院、国立病院機構長崎医療センターにおいて過去に集積された肝機能データを解析し、重複感染患者とHCV単独感染患者のデータを比較することにより本邦の特に血友病患者での重複感染者への肝移植適応基準を確立することである。薬害による重複感染者は血友病を有するため肝生検が困難であり、非侵襲的検査を確立することも目的の一つとする。
研究方法
長崎大学病院では、平成21年度厚生労働科学研究費エイズ対策事業「HIV/HCV重複感染患者に対する肝移植のための組織構築」の一環として重複感染患者に対して肝機能をはじめとした検診事業を行い、肝機能以外でも免疫能やウイルス学的検査等、網羅的に多岐にわたるデータを集積している。これらのデータを詳細に解析し、さらにエイズ診療拠点病院の症例を含めて予後調査を行うことによってHCV単独感染による非代償性肝硬変患者との相違を明らかにし、移植適応の判断に必要な検査項目を明らかにする。
結果と考察
長崎大学病院でHIV/HCV重複感染者に対する肝機能検査を行った症例は平成26年末までに44例あり、血液生化学検査では肝機能は保たれているが(Child-A,87%)、画像検査や肝予備能検査でみると、見かけ以上に門脈圧亢進症の所見が強いことがわかった。
これらの結果をもとに日本肝移植研究会で脳死肝移植登録ポイントについて議論し、通常緊急度で3点(Child-B)・6点・8点(Child-C)・10点(劇症肝不全などの超緊急症例)とされているポイントを、薬害による重複感染者は一段ランクアップし、Child-Aでも門亢症の所見があれば登録できるようにすべき、として3点(Child-A)、6点・8点(Child-B/C)で登録することを提言した。これが平成25年2月に脳死肝移植適応評価委員会に承認され、全国施設へ通知された。
この緊急度アップ以降全国で6例が登録され、平成26年度はそのうちの1例に対して長崎大学にて脳死肝移植を施行、現在のところ短期的には良好な成績が得られている。
平成26年度は本邦で過去に肝移植を施行された重複感染者10例の摘出肝を用いて組織学的検討を行った。HCV単独感染症例10例と比較し、年齢中央値は重複群31.5歳、HCV単独群51.5歳と重複群が有意に若年であった。
免疫染色では、CD68(Kupffer細胞)陽性細胞数は重複群で有意に多かった。また健常群との比較として、生体肝移植ドナーのうち、若年ドナー群(年齢中央値28.0歳)、及び高齢ドナー群(同じく52.0歳)各10例をそれぞれ重複群、HCV単独群と比較したところともに有意差を認めた。つまりCD68陽性細胞数は、重複群は健常群より多くHCV単独群は健常群より少ないことが示唆された。
遺伝子レベルでの検討として、標本のパラフィン切片よりmicroRNAの抽出を行い、十分量が得られた症例(重複群6例、HCV単独群7例)で検討を行ったところ、肝の線維化を抑制する機能をもつとされるmicroRNA-101の発現が重複群において有意に低下していた。
今回行った摘出肝を用いた組織学的検討では、重複感染患者の肝ではKupffer細胞が有意に多く、microRNA-101の発現が有意に低い可能性が示唆された。Kupffer細胞は星細胞を活性化させることで肝線維化を進行させることが知られており、またmicroRNA-101は星細胞の活性化に必要なTGFβを抑制することで肝線維化を抑制することが過去に報告されている(Tu X, et al. J Pathol. 2014)。これらのメカニズムがHIV/HCV重複感染群において肝線維化の進行が速いことに関与している可能性が示唆された。
 研究結果から脳死肝移植への早期登録が可能となり、今年度は実際に脳死肝移植を施行した。今後は、本研究で行ったランクアップが適切であるか、他疾患の患者に与える影響が妥当であるかについても慎重に検討していく必要がある。
結論
本研究の結果より、重複感染患者は肝硬度(線維化)の進行がHCV単独感染患者よりも早く、致死的となることが明らかとなった。これらのデータをもとに、Child-BやCの患者はもちろん、Child-Aの患者でも門亢症の所見があれば、脳死肝移植登録が可能となるように脳死肝移植適応評価委員会に提言した。平成24年度にこれが承認され、今年度は実際に脳死肝移植を施行した。また重複感染患者では、HCV単独感染者と比較して線維化の進行が早い可能性が遺伝子レベルで示された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201421030B
報告書区分
総合
研究課題名
血液製剤によるHIV/HCV重複感染患者の肝移植適応に関する研究
課題番号
H24-エイズ-指定-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
江口 晋(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 玄田 拓哉(順天堂大學医学部附属静岡病院 消化器内科)
  • 上平 朝子(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 感染症内科)
  • 國土 典宏(東京大学医学部大学院医学系研究科)
  • 塚田 訓久(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 中尾 一彦(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 永野 浩昭(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 古川 博之(旭川医科大学 医学部)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
  • 四柳 宏(東京大学大学院医学系研究科)
  • 高槻 光寿(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、既に長崎大学で集積されたHIV/HCV重複感染者(以下、重複感染者)の肝検診のデータおよびエイズ診療拠点病院、国立病院機構長崎医療センターにおいて過去に集積された肝機能データを解析し、重複感染患者とHCV単独感染患者のデータを比較することにより本邦の特に血友病患者での重複感染者への肝移植適応基準を確立することである。
薬害による重複感染者は血友病を有するため肝生検が困難であり、非侵襲的検査を確立することも目的の一つとする。
研究方法
長崎大学病院では、平成21年度厚生労働科学研究費エイズ対策事業「HIV/HCV重複感染患者に対する肝移植のための組織構築」の一環として重複感染患者に対して肝機能をはじめとした検診事業を行い、肝機能以外でも免疫能やウイルス学的検査等、網羅的に多岐にわたるデータを集積している。これらのデータを詳細に解析し、さらにエイズ診療拠点病院の症例を含めて予後調査を行うことによってHCV単独感染による非代償性肝硬変患者との相違を明らかにし、移植適応の判断に必要な検査項目を明らかにする。
結果と考察
長崎大学病院でHIV/HCV重複感染者に対する肝機能検査を行った症例は平成26年末までに44例あり、血液生化学検査では肝機能は保たれているが(Child-A,87%)、画像検査や肝予備能検査でみると、見かけ以上に門脈圧亢進症の所見が強いことがわかった。また、24年度にはImmuKnow®(Cylex社)によりTリンパ球機能を、非侵襲的な超音波検査ARFI(Acoustic Radiation Force Impulse Imaging)により肝硬度を測定し、HCV単独感染の非代償性肝硬変よりも免疫能は保たれており、肝硬度はChild-Aにも関わらず年齢をマッチした正常コントロール(生体肝移植ドナー)より硬度が増しており、また硬度は各種線維化マーカー(ヒアルロン酸、4型コラーゲン)や予備能検査(アシアロシンチ)とよく相関し、肝生検に代わる検査となりうる可能性が示唆された。
これらの結果をもとに日本肝移植研究会で脳死肝移植登録ポイントについて議論し、通常緊急度で3点(Child-B)・6点・8点(Child-C)・10点(劇症肝不全などの超緊急症例)とされているポイントを、薬害による重複感染者は一段ランクアップし、Child-Aでも門亢症の所見があれば登録できるようにすべき、として3点(Child-A)、6点・8点(Child-B/C)で登録することを提言した。これが平成25年2月に脳死肝移植適応評価委員会に承認され、全国施設へ通知された。この緊急度アップ以降全国で6例が登録され、平成26年度はそのうちの1例に対して長崎大学にて脳死肝移植を施行、現在のところ短期的には良好な成績が得られている。
また非侵襲的な肝線維化評価として、昨年度までにARFI (Acoustic Radiation Force Impulse Imaging)による肝硬度測定、さらに簡便な線維化マーカーとしてAPRI (AST to platelet ratio index)やFIB4を用いた肝線維化の評価を行ってきた。その結果、Child-A症例でも正常コントロールより肝硬度が増していることが明らかとなり、ARFIやAPRI・FIB4は線維化マーカーだけでなく肝予備能(アシアロシンチLHL15)とも有意な相関を認めた。
平成26年度は本邦で過去に肝移植を施行された重複感染者10例の摘出肝を用いて組織学的検討を行った。HCV単独感染症例10例と比較し、年齢中央値は重複群31.5歳、HCV単独群51.5歳と重複群が有意に若年であった。
研究結果から実際に脳死肝移植への早期登録が可能となり、今年度は実際に脳死肝移植を施行した。今後は、本研究で行ったランクアップが適切であるか、他疾患の患者に与える影響が妥当であるかについても慎重に検討していく必要がある。
結論
本研究の結果より、重複感染患者は肝硬度(線維化)の進行がHCV単独感染患者よりも早く、致死的となることが明らかとなった。これらのデータをもとに、Child-BやCの患者はもちろん、Child-Aの患者でも門亢症の所見があれば、脳死肝移植登録が可能となるように脳死肝移植適応評価委員会で承認され、全国へ通知された。また、非侵襲的な線維化のスクリーニング法も提案できた。重複感染患者では、HCV単独感染者と比較して線維化の進行が早い可能性が遺伝子レベルで示された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201421030C

収支報告書

文献番号
201421030Z