日本国内のHIV感染発生動向に関する研究

文献情報

文献番号
201421025A
報告書区分
総括
研究課題名
日本国内のHIV感染発生動向に関する研究
課題番号
H26-エイズ-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 佐織(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
7,125,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 HIV感染拡大抑制は重要課題であり、そのためにはHIV感染発生動向の正確な把握が必要である。HIV感染症は感染症法に基づき全数発生報告が義務づけられている第5類感染症である。感染症サーベイランス(National Epidemiological Surveillance of Infectious Disease [NESID])システムを介して、国内新規HIV感染・エイズ診断例はエイズ発生動向委員会に報告され、年間新規HIV感染・エイズ報告件数が公開されている。しかし、HIV感染症は無症候期の長い慢性感染症であるため、多くのHIV感染者が感染を自覚せず感染者として把握・報告されていない可能性が高い。実際エイズ発症により初めてHIV感染が判明する例が毎年500件近く(年間新規HIV感染・エイズ報告件数の3割超)報告されている。したがって実際の国内HIV感染者数は報告件数を大幅に上回っていると予想されるが、日本政府の公式見解としてのHIV感染者数の発表はない。本研究ではより正確かつ効率よく日本国内のHIV感染発生動向を把握することを目的とし、日本のHIV蔓延率、社会構造に適したHIV感染者数の推定法を樹立すると共に現行のエイズ発生動向調査データを基本として統計学的解析を推進する。
研究方法
 平成26年度はHIV感染者数推定において根幹となる感染数理モデルの選択、エイズ発生動向調査で公開されているデータの統計学的解析、HIV感染者数推計のために必要となるデータを収集するための共同研究体制の構築に重点を置いた。
(1)感染数理モデルの選択
我々はこれまでの研究で、諸外国の各国政府から公式に発表されている感染者推定理論に関して調査を行い、日本においてHIV蔓延率、社会構造を考慮し、HIV感染者数推定理論として3つのパターンに分類している。本研究では現行のエイズ発生動向データを基に日本で実際に感染者数の算出に結び付く可能の高い方法を精査し、実際に有用性が高いと考えられる理論に関しては詳細な調査を進めた。さらにサーベイランスに含まれないデータ種に関しては追加データの入手の可能性、方法について検討した。
(2)HIV発生動向報告データの統計学的解析
エイズ発生動向調査にてすでに公開されているデータを基に統計学的解析を行った。特に新規HIV報告数の増減に関与する因子の探索として年齢、報告値、感染経路、抗HIV抗体検査受検数、新規HIV報告数に占めるAIDS患者の割合等に重点をおいて解析を行った。
結果と考察
(1)HIV感染者推定の理論
 HIV蔓延率、サーベイランス体制を考慮して、過去のHIV感染者数の推定理論として用いられている逆算法を基本とし、これにHIV感染者の血清学的データを合わせた感染数理モデルを選択することとした。本法はカナダ、オーストリアで公式に採用されている方法論、かつ慢性感染症において利用される理論であることを確認した。プログラムは学術論文上で既に公開され、著者の許可を得て入手した。平成27年度は現行のエイズ発生動向データをあてはめモデルの改良を進める。
(2)エイズ発生動向調査のデータを基にした統計学的解析
エイズ発生動向調査を基にした統計学的解析から、東京、大阪、名古屋等の大都市圏とそれ以外の地域では新規報告数に占めるAIDS患者の割合が異なることから、地域ごとにHIV感染からHIV診断に至るまでの期間、HIV診断率において異なる傾向を示すことが予測される。本結果から、日本国内のHIV感染者数推定においては報告地をHIV発生報告数の変動に関与する一つの要因として考慮する必要があることが示唆された。
その一方でエイズ発生動向における報告地とは、患者の居住地ではなくHIV感染が診断された医療機関、すなわち受診機関の所在地である。大都市圏では受診地と居住地が一致しない例が含まれることが予想される。平成27年度はこの点を明らかにするためにNESIDを管理する感染症疫学センターと連携を進め、居住地と報告地に関する乖離に関して調査を進める。
結論
日本国内におけるより正確なHIV感染発生動向の把握にむけて、HIV感染者数の推定理論、実際の推定値算出を目標に研究を推進した。平成26年度はHIV感染者数の推定において根幹となる数理モデルの選定を行った。本研究ではカナダ政府から公式に発表されているHIV感染者推定理論をプロトタイプとして推定値を算出することを決定した。またこの決定に基づきHIV感染者数推定値の算出に必要となる血清学的データを収集するための研究協力体制を構築した。平成27年度は実際に感染者血液を用いた分子生物学的解析、データ収集を計画している。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-01-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201421025Z