地域においてHIV陽性者等のメンタルヘルスを支援する研究

文献情報

文献番号
201421013A
報告書区分
総括
研究課題名
地域においてHIV陽性者等のメンタルヘルスを支援する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究事業)
研究分担者(所属機関)
  • 生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究事業/支援・相談サービス)
  • 肥田 明日香(医療法人社団アパリ アパリ・クリニック)
  • 若林 チヒロ(埼玉県立大学 健康開発学科)
  • 大木 幸子(杏林大学 保健学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,503,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、HIV感染症と薬物使用を含むメンタルヘルスについて、その相互関連の現状を背景とともに明らかにし、求められる対応を検討し、HIV陽性者と薬物使用者の生活を地域において支援するための基礎資料を収集し整理することを目的とする。そうした基礎資料を、HIV医療領域および精神保健福祉領域の専門機関、地域の相談機関、HIV陽性者支援NGO、薬物依存回復施設、HIV陽性者および薬物使用者自身とそのパートナーや家族、そして行政諸機関に提供し、もってHIVと薬物使用の予防と治療に資することを目指す。
研究方法
a. 医療機関におけるHIV陽性者の精神保健課題への準備性を明らかにするための質問紙調査を、1)全国のエイズ治療拠点病院の専門職、2)全国の保健行政機関のエイズ担当者と精神保健担当者に行い、2009年度に実施した調査と比較した。
b. 東京都および大阪府の福祉・就労等の地域の相談機関に対して、相談の現状、相談員のHIVに関する知識、当面する問題等について質問紙調査を行い、その結果を、相談担当者に対する同様の調査結果と対応させて分析した。
c. HIV陽性者の社会生活実態を明らかにする目的で、通院患者に対する無記名自記式質問紙調査を、1)ACC+ブロック拠点8病院に加えて、2)中核拠点等22病院で実施した。質問項目は、精神健康、就労、家計、人間関係、健康管理、薬物使用等とし、2003年、2008年の調査と比較した。
d. 薬物使用者に支援を提供し自らも使用経験をもつ者、および薬物使用経験をもつ陽性者を対象に半構造化面接調査を行い、薬物使用の開始状況や関連する背景要因、性的少数者の直面する問題等の実態を把握した。
e. HIV感染と薬物使用との関連の歴史的経緯と直面する課題とを明らかにするために、HIV陽性者を支援する2つのNGO、薬物使用者の2つの自助グループに加えてさらに1グループで、相談担当者を対象に半構造化面接を行った。
結果と考察
a. エイズ治療拠点病院の医師、看護師、ソーシャルワーカーは、HIV陽性者を支援するために連携すべき他機関として、他の拠点病院(診療継続)、地域の年金等福祉担当部署に加えて、今後は地域の他の医療機関(透析、精神科)、メンタルヘルス支援(依存症)、高齢者施設を挙げている。また保健行政機関(保健所、保健センター)には、連携の仲介と陽性者受入円滑化への支援が期待されている。
b. 相談機関の中で、HIV陽性者とその周囲の人からの相談を受けたことがあると回答したのは、東京都では3分の1だが、大阪府では1割にとどまった。障害者登録数の違いにほぼ対応しているが、人口1,000人あたりの登録数(2:1)からすると、大阪での相談がさらに増えることが期待される。
c. HIV陽性者の生活調査では、ぼっき薬を含む12種類の薬物のいずれかの使用経験があるのは、回答者の半数を超えているが、使用の要因の一つに、メンタルヘルスの状態がよくなく(K6尺度)、睡眠上の問題をもち、睡眠剤や精神安定剤を使用していることが指摘された。さらにその背景をなす社会生活において、陽性判明後に就業率が下がり、職場では病名を開示せず、漏えいを心配するということでは、この10年に顕著な変化は見られなかった。
d. 薬物使用の経験をもつ陽性者、支援者を対象とする面接調査からは、1)薬物使用の背景に、性的少数者への偏見と排除による孤立があること、2)薬物使用は性行動と結びついていること、3)薬物使用により感染予防行動(コンドーム使用)が低下することが示された。
e. 薬物使用経験者の面接調査から、男性同性愛者・MSMの一部にラッシュに代表される薬物使用が、快感を高め痛みを和らげるセックスドラッグとして広まったのは、ハッテン場が多様化し、インターネットが普及する1990年代から2000年代にかけてであり、ラッシュやゴメオが違法化される2005年前後までは、価格が低く入手も容易であったことが示された。
結論
 本研究により、とくに感染者の多数を占める男性同性愛者・MSMと薬物使用との関係があきらかになり、またその背景にメンタルヘルスの問題があることが示された。HIV感染症では、療養のストレスに加えて、私たちの社会に根強く存在している偏見と排除がHIV陽性者に、そしてまた性的少数者に、少なからぬ負荷を与えている。
 HIV感染と薬物使用との関係に関するこうした情報は、HIV陽性者からの相談を受けるエイズ拠点病院や保健行政機関の医療者が求めているものでもある。陽性者のメンタルヘルスや薬物使用の問題に直面し、支援しようとする医療者は少なくないが、本研究が収集した情報は、陽性者支援および感染予防の方策を検討する際の基礎資料になると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201421013B
報告書区分
総合
研究課題名
地域においてHIV陽性者等のメンタルヘルスを支援する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究事業)
研究分担者(所属機関)
  • 生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究事業/支援・相談サービス)
  • 肥田 明日香(医療法人社団アパリ アパリ・クリニック)
  • 若林 チヒロ(埼玉県立大学 健康開発学科)
  • 大木 幸子(杏林大学 保健学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、HIV感染症と薬物使用を含むメンタルヘルスについて、その相互関連の現状を背景とともに明らかにし、HIV陽性者と薬物使用者の生活を地域において支援するための基礎資料を収集し整理することを目的とする。そうした基礎資料を、HIV医療領域および精神保健福祉領域の専門機関、地域の相談機関、HIV陽性者支援NGO、薬物依存回復施設、HIV陽性者および薬物使用者自身とそのパートナーや家族、そして行政諸機関に提供し、もってHIVと薬物使用の予防と治療に資することを目指す。
研究方法
a. 医療機関におけるHIV陽性者の精神保健課題への準備性を明らかにするための質問紙調査を、1)全国のエイズ治療拠点病院の専門職、2)全国の保健行政機関のエイズ担当者と精神保健担当者に行い、2009年度に実施した調査と比較した。
b. 東京都および大阪府の福祉・就労等の地域の相談機関に対して、相談の現状、相談員のHIVに関する知識、当面する問題等について質問紙調査を行い、その結果を、相談担当者に対する同様の調査結果と対応させて分析した。
c. HIV陽性者の社会生活実態を明らかにする目的で、通院患者に対する無記名自記式質問紙調査を、1)ACC+ブロック拠点8病院、2)中核拠点等22病院で実施した。質問項目は、精神健康、就労、家計、人間関係、健康管理、薬物使用等とし、2003年、2008年の調査と比較した。
d. 薬物使用者に支援を提供し自らも使用経験をもつ者、および薬物使用経験をもつHIV陽性者を対象に半構造化面接調査を行い、薬物使用の開始状況や関連する背景要因、性的少数者の直面する問題等の実態を把握した。
e. HIV感染と薬物使用との関連の歴史的経緯と直面する課題とを明らかにするために、HIV陽性者を支援する2つのNGO、薬物使用者の3つの自助グループにおいて、相談担当者を対象に半構造化面接を行った。
結果と考察
a. 拠点病院では医療者の半数が、患者の薬物使用が分かった経験をもっているが、保健行政機関の医療者と同様、薬物・依存症治療に関する知識の不足を感じ、どこまで関わるか困惑を覚えていた。また拠点病院では、地域の高齢者施設や他の医療機関等(透析、依存症等)との連携、保健行政機関による仲介が求められている。
b. 地域の相談機関では、HIVに関する知識と相談に対応できるとする自己効力感との間に有意な相関が認められた。生活保護、障害者福祉、就労の担当者の過半数は、陽性者についての情報を得る研修は有用と考えており、その充実が求められる。
c. HIV陽性者の生活調査では、薬物使用経験率は、一般人口に比して高いが、その要因として、男性同性愛者・MSMにおける性と薬物の関係があること、薬物使用が性関係における予防行動を疎かにさせること、使用の背景には低い精神的な健康度があることが指摘された。2003年、2008年の先行調査と比較すると、ARV服薬回数が減り、CD4値は改善して、就労意欲は高まっているが、実際の就労割合は一般男性より低いままにとどまっており、社会生活が容易ではないことがうかがえた。
d/e. 使用経験者と支援者への面接調査により、薬物との関わりには段階があり、興味をもつ、あるいは誘われるという段階から、思い止まる、使ってみる、依存が形成される、回復するという段階の間に、いくつかの分岐点があり、そのそれぞれに使用・不使用いずれかの方向を促す要因が関わっていることが示された。この要因を明確にし、それぞれの分岐点に即して必要な情報提供と介入を行うことが、単に薬物を使用しないようにと伝えるよりも、有効な方策となり得る可能性が示唆された。
結論
 エイズ治療拠点病院の医療者も保健行政機関の担当者も、薬物使用の課題をもつHIV陽性者への支援に困難を感じており、薬物使用に関する知識、使用に関わる地域の医療機関、回復支援機関等との連携を求めている。地域の福祉、年金等の相談機関では、就労相談担当者がHIVに関する知識をもち、さらに研修を求めてもいる。
 HIV感染と薬物使用との関係として、薬物により判断力が下がり予防行動が疎かになることが指摘された。薬物使用の背景にメンタルヘルスの問題が、さらに性的少数者、陽性者ゆえの家族や社会からの疎外があることが示された。使用への興味・被勧誘の段階から継続と回復の逡巡まで、場面に応じて必要な情報の提供と介入が求められる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201421013C

収支報告書

文献番号
201421013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,403,000円
(2)補助金確定額
5,405,541円
差引額 [(1)-(2)]
-2,541円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 155,908円
人件費・謝金 2,244,725円
旅費 476,175円
その他 1,628,733円
間接経費 900,000円
合計 5,405,541円

備考

備考
消耗品が予算を超過し、その分については自己資金にて充当した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-