自然リンパ球の活性化を介した肺炎球菌ワクチン開発

文献情報

文献番号
201420062A
報告書区分
総括
研究課題名
自然リンパ球の活性化を介した肺炎球菌ワクチン開発
課題番号
H25-新興-若手-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
金城 雄樹(国立感染症研究所 真菌部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 肺炎球菌は成人肺炎をおこす原因菌として最も頻度の高い細菌である。肺炎は特に高齢者の主要な死亡原因であることから、高齢化社会を迎えた我が国の国民の保健医療向上にとって、肺炎球菌感染症の予防は重要である。肺炎球菌は90種類以上の血清型が存在するため、多くの血清型に対して有効なワクチンの開発が求められている。
 本研究では、血清型を超えた有効性をもたらす新しい肺炎球菌ワクチンの開発を目指し、新規肺炎球菌蛋白・糖脂質併用ワクチンの肺炎球菌感染防御効果をマウスモデルで解析した。多くの肺炎球菌株に共通して存在する蛋白をワクチン抗原として用いて、ワクチン効果を誘導するためのアジュバントとしてNKT細胞というリンパ球を活性化する糖脂質抗原を併用した。これまでに、蛋白・糖脂質併用ワクチンの経鼻接種により、蛋白抗原に対する抗体が誘導され、肺炎球菌感染防御効果をもたらすことを見出した。今年度は本併用ワクチンによって誘導される抗体の機能を解析した。
 また、肺炎球菌多糖抗原ワクチンの認識、抗体産生誘導および感染防御機構の解明に関する基礎的研究を行い、これまでに肺炎球菌多糖ワクチン接種による抗体産生にDectin-2という糖鎖認識分子が重要であることを明らかにした。今年度は肺炎球菌多糖抗原の認識および感染防御におけるDectin-2の役割を解析した。
研究方法
 肺炎球菌蛋白・糖脂質併用ワクチン免疫マウスの血中に誘導されるIgG抗体の蛋白抗原に対する親和性を調べるため、尿素洗浄を追加したELISA法により高親和性抗体価を解析した。また、肺炎球菌感染防御における本併用ワクチンの有効性を調べるために、本併用ワクチン免疫マウス血漿中のIgG抗体の肺炎球菌への結合性を数種類の菌株を用いて解析した。さらに、免疫血漿で処理した肺炎球菌に対する補体C3の結合性を解析した。
 また、肺炎球菌多糖抗原の認識におけるDectin-2の重要性を明らかにするため、野生型およびDectin-2欠損マウスの骨髄由来樹状細胞を用いて、肺炎球菌のlysateや培養上清による刺激に対するサイトカイン産生を比較解析した。さらに、肺炎球菌感染防御におけるDectin-2の重要性を明らかにするために、野生型およびDectin-2欠損マウスに肺炎球菌を感染させ、生存期間や臓器内菌数を測定した。
結果と考察
 肺炎球菌蛋白・糖脂質併用ワクチン接種群の血中に高親和IgG抗体価の著明な上昇を認め、本併用ワクチンにより、蛋白抗原に対する高親和性IgG抗体産生が誘導されることが示された。また、本併用ワクチン接種により血中に誘導されるIgG抗体は、少なくても数種類の血清型の菌株に結合することを見出した。さらに、菌にIgG抗体が結合することで補体C3の菌体沈着が増加することが明らかになった。菌へのIgG抗体結合および補体C3沈着は、現行ワクチンに含まれない血清型の菌株に対しても認められたことより、本併用ワクチンは血清型を超えた肺炎球菌感染防御効果をもたらす可能性が期待される。
 野生型およびDectin-2欠損マウスの骨髄由来樹状細胞を肺炎球菌lysateや培養上清で刺激し、IL-12p40産生を調べた。その結果、野生型マウスの樹状細胞と比較して、Dectin-2欠損マウスの樹状細胞はIL-12p40産生の低下を認めた。そのことから、肺炎球菌の多糖抗原を含む培養上清中の成分がDectin-2によって認識されることが明らかになった。さらに、Dectin-2 KOマウスでは、野生型マウスと比較して肺炎球菌感染後の生存期間短縮および臓器内菌数増加を認めた。これらの結果から、Dectin-2は肺炎球菌多糖ワクチン接種によるIgG抗体産生に関与するのみならず、肺炎球菌菌体成分の認識を介して、肺炎球菌感染防御において重要な役割を担うことが明らかになった。
結論
 肺炎球菌蛋白抗原と糖脂質抗原の併用ワクチンは、蛋白抗原に対する高親和性IgG抗体産生の誘導により、感染防御効果をもたらすと考えられた。本併用ワクチンによって誘導される高親和性IgG抗体は、少なくても数種類の血清型の肺炎球菌株に結合し、補体C3の菌への沈着を増加させた。IgG抗体および補体C3の沈着増強効果は現行ワクチンに含まれない一部の血清型にも認めたことより、血清型を超えた肺炎球菌感染予防効果が期待される。また、肺炎球菌多糖抗原の認識、多糖抗原特異的IgG抗体産生および肺炎球菌感染防御誘導にDectin-2が重要であることも明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2015-05-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-01-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201420062Z