2012年に発生した新型ヒトコロナウイルス侵入に備えた診断、治療法確立のための動物モデル開発とSARS-CoVとの鑑別に関する研究

文献情報

文献番号
201420061A
報告書区分
総括
研究課題名
2012年に発生した新型ヒトコロナウイルス侵入に備えた診断、治療法確立のための動物モデル開発とSARS-CoVとの鑑別に関する研究
課題番号
H25-新興-若手-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 奈織子(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2012年9月に中東で重症呼吸器疾患を起こす患者が報告された。2003年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の再興かと疑われたが、患者からは新規のヒトコロナウイルスである中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)が分離された。現在も流行は中東中心だが、欧州地域では輸出症例も頻発している。そのため、日本でも今後、国内侵入を想定した対応が必要で、病原性の解明、診断、治療、予防、防疫対策が急務である。また類似の症状を示すSARSとの鑑別診断も公衆衛生学上、重要である。そこで、本研究ではMERS-CoVに対し病原性の解明、ワクチンなどの有効性試験、ウイルス増殖部位の同定および免疫応答を詳細に検討するため感染動物モデルの確立とSARS-CoVと鑑別可能な病理診断系の確立を行う。さらに、これを利用して診断、治療および予防法の検討を行い、MERS-CoVの侵入に備える。昨年度はマウスおよびラットのMERS-CoVに対する感受性を検討し、これらの動物には感染が成立しない事を明らかにした。しかし、マウス由来培養細胞にMERS-CoVのレセプターであるヒトCD26を発現させ、ウイルスを感染させたところ感染が成立した。そこで、本年度はヒトCD26発現遺伝子改変マウスの作製を行った。また、MERS-CoVの病理学的診断法の確立も行った。
研究方法
BDF1マウス雌20匹に馬血清性性腺刺激ホルモンおよびヒト絨毛性性腺刺激ホルモンを投与し、過排卵処理を施した。その後、雄のC57BL/6マウスと交配させ、前核期受精卵を得た。そして、環状のヒトCD26遺伝子を含む細菌人工染色体 (Bacterial Artificial Chromosome; BAC)を受精卵前核に注入し、注入後の受精卵を偽妊娠仮親ICRマウスの卵管に移植した。得られた産仔の尾からDNAを抽出し、ヒトCD26遺伝子の有無をPCR法で確認した。
 病理組織学的診断法に用いる陽性コントロールとして、MERS-CoV 107 TCID50/mlを生後24時間以内の新生仔ddYマウスに接種(10μl)した。接種後14日で解剖、組織を採材し、常法どおり10%ホルマリン緩衝液固定後、パラフィン切片組織を作製し、病理学的解析を行った。また病変の見られた個体のパラフィン包埋組織からRNAを抽出し、MERS-CoV遺伝子に対するリアルタイムRT-PCRを行い、感染を確認した。免疫組織化学法 (IHC) によるウイルス抗原の検出は、MERS-CoV Nタンパクに対するマウスモノクローナル抗体を用いて行った。In situ hybridization (ISH) 法によるウイルス遺伝子の検出には、MERS-CoVのEあるいはN遺伝子を検出する二種類のプローブを混合して使用した。
結果と考察
Tgマウス作製では、仮親マウスから15匹の産仔が得られ、そのうち10匹でヒトCD26遺伝子が導入されている事がPCR法により確認された。次年度は、これらの次世代マウスから、ヒトCD26タンパク発現を確認し、選択された系統を用いて、MERS-CoVに対する感受性の検討を行う。
 病理組織学的診断法の確立において、MERS-CoVのNタンパクに対するマウスモノクローナル抗体でIHCを行った。その結果、変性細胞の細胞質に抗原が検出された。さらに、この抗体を臨床症状が類似するSARS-CoV感染患者の肺組織でIHCを行ったところ、抗原は検出されず、SARS-CoVと交差しない事が明らかとなった。また、MERS-CoVのEあるいはN遺伝子を検出するantisense およびsenseプローブを用いて、ISHを行った。その結果、IHCで陽性となった変性細胞の細胞質にウイルスゲノムおよびmRNAを検出するantisenseプローブのシグナルが検出された。Senseプローブのシグナルは検出できなかった。この結果から、今回使用したプローブはMERS-CoV遺伝子の検出が可能であると考えられた。
結論
昨年度の研究で、マウスおよびラットはMERS-CoVの動物モデルに適さない事が明らかとなったが、本年度にヒトCD26発現遺伝子改変マウスが作製できたことにより、MERS-CoV感染動物モデル確立の可能性は非常に高くなった。そして、本年度はこれまで感染培養細胞でしか検討できなかった病理組織学的診断法をMERS-CoV感染マウスの組織切片を陽性コントロールとする事により、パラフィン包埋組織切片での検討を可能にした。その結果、MERS-CoVのIHC法やISH法が確立でき、臨床検体の検査対応を可能とした。またIHC法については、SARS-CoV との鑑別診断に応用可能で、非常に有用な診断法である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201420061Z