全国を対象とした抗菌薬使用動向調査システムの構築および感染対策防止加算の評価

文献情報

文献番号
201420059A
報告書区分
総括
研究課題名
全国を対象とした抗菌薬使用動向調査システムの構築および感染対策防止加算の評価
課題番号
H25-新興-若手-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
村木 優一(三重大学医学部附属病院 薬剤部)
研究分担者(所属機関)
  • 辻 泰弘(富山大学大学院医学薬学研究部)
  • 田辺 正樹(三重大学医学部附属病院 医療安全・感染管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 抗菌薬耐性菌の増加は世界的な問題であり、特に医療施設で懸念されている。わが国では全国を対象とした抗菌薬使用動向は把握されておらず、仕組みも存在しなかった。そこで、本研究では全ての医療施設において抗菌薬の使用状況を簡便に把握できるシステムを構築し、我が国における抗菌薬使用動向を明らかにすると共に抗菌薬適正使用や医療施設の感染対策の現状を把握することを目的とした。
研究方法
 本システムは、WHOやCDCで推奨されている使用量の指標であるAUD(Antimicrobial Used Density)、DOT(Day of Therapy)をweb上で自動計算できるように設計した。また、抗緑膿菌作用を有する①ピペラシリン/タゾバクタム、②第4世代セフェム、③ニューキノロン、④カルバペネムといった4系統の比率を求めるAntimicrobial heterogeneity(AHI)も自動計算し、表示できる機能を持たせた。次に、AUD、DOT、AHIが有用な指標となり得るか調査した。
 WHO監修の「Guidelines for ATC classification and DDD assignment 2014 47頁」および「Introduction to Drug Utilization Research 48頁」の日本語訳を行った。IMSジャパン株式会社より2009、2011、2013年の抗菌薬使用量を入手し、AUDで換算した。また、NDBの抽出項目を検討した。NDBを分析するためのコンピューターシステムが構築可能か医用工学研究所株式会社と検討を行った。
結果と考察
 使用量動向調査のWebシステムは平成27年4月に公開とした(https://www.jacs.asia)。本システムはインターネット環境さえ整っていれば、どのような施設からも無償でデータ集計できる環境を整えることができた。また、本システムは入力者が複雑な計算を行う必要がないため、サーベイランス時の計算間違いを防ぐだけでなく、日頃の感染対策活動にも容易に利用できる有用なツールとなることが期待された。さらに、本システムが普及し、継続的に入力される仕組みが整った場合、日本における感染対策の現状や使用動向が経年的に蓄積可能となることが示唆された。このようなソフトウェアは市販されているが高額であり、中小規模の施設で導入することは難しい。したがって本システムを無償公開したことは施設規模を問わず感染対策を行う上での有用であり、日本の医療に還元できるツールの1つとなることが推察された。
 本システムは自動算出できる指標としてAUD、DOT、AHIを用いているため、その有用性について調査した。その結果、国公立大学病院感染対策協議会の報告より、耐性菌で問題となるカルバペネム系薬の使用動向は、適正使用が進み、感受性率も悪化していないことが明らかにされており、その指標にはAUD とDOT が用いられている。また、丹羽らの報告(日本環境感染学会誌29: 333,2014)においてもAUDとDOTの有用性が報告されている。さらに、竹末らはAHI の有用性も耐性菌対策に有用とする報告をしている(World J Surg 30:1269, 2006)。今後、本システムが普及することにより、さらに日本の医療施設における現状が明らかにできることが期待される。
 「ATC分類およびDDD付与に関するガイドライン2014」および「医薬品使用状況調査概論」として翻訳(ドラフト版)を完了した。本資料は抗菌薬使用量の基礎データ作成が容易となり、今後は医療システムの電子化が進み、情報収集が簡素化されることが予測されるため、本研究課題の遂行は他の疫学調査にも貢献することができる。
 2009、2011、2013年の注射薬・内服薬を含めた使用量を集計することができた。本結果より、経年的に使用量は増加していることが明らかとなった。また、日本在住の患者を対象とした場合、感染症治療における抗菌薬の使用は、内服薬が90%以上占めており、なかでもマクロライド系薬、第三世代セファロスポリン系薬、キノロン系薬など広域な経口抗菌薬の使用が多いことが明らかとなった。NDBの抽出予定項目を設定し、システム開発会社より目的とした仕組みは構築可能であることを確認した。一方、データ利用のための手続きやシステム構築費用等、超えるべきハードルは高いが、NDBを用いた本研究による日本の抗菌薬使用の実態把握は抗菌薬適正使用推進への1つのステップと考えられた。
結論
これらの結果は、いずれも我が国全体の感染制御を質的に向上させ、抗菌薬の適正使用を促し、患者の予後だけでなく多剤耐性菌の抑止に繋がる可能性もあり、非常に重要な成果となる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-12
更新日
2015-06-05

収支報告書

文献番号
201420059Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,510,000円
(2)補助金確定額
3,510,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,038,462円
人件費・謝金 0円
旅費 748,546円
その他 912,992円
間接経費 810,000円
合計 3,510,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-05-12
更新日
2015-06-05