HTLV-1感染モデルを用いた抗HTLV-1薬の探索および作用機序の解析

文献情報

文献番号
201420056A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1感染モデルを用いた抗HTLV-1薬の探索および作用機序の解析
課題番号
H24-新興-若手-018
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
上野 孝治(関西医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)は予後不良の成人T細胞白血病やHTLV-1関連脊髄症(HAM)などを引き起こす。ATLやHAMなどHTLV-1関連疾患は未だ根本的な治療法は確立されておらず、治療法だけでなく発症予防法の開発が喫緊の課題となっている。これら疾患の発症率は高いプロウイルス量と相関する事が明らかとなっていることから、プロウイルス量の抑制、すなわち新規感染の抑制、感染細胞の増殖抑制、宿主免疫による感染細胞の排除の促進が有効であると予想される。そこで本研究ではヒト化マウスを用いたHTLV-1感染モデル個体内でのプロウイルス量を指標に抗HTLV-1薬を探索し、新規発症予防法・治療法の開発を行う。
研究方法
HTLV-1感染マウスモデル作製:ヒト臍帯血から磁気ビーズ法によりCD133陽性造血幹細胞を単離し、NOG-SCIDマウスの骨髄内に移植した。移植後2~3ヶ月後に採血を行い、ヒト免疫細胞が生着し正常に分化したことを確認した。その後HTLV-1感染細胞を腹腔内投与することでHTLV-1感染を行った。
プロウイルス量の測定:モデルマウスから血液を採取し、ゲノムDNAを精製した後、HTLV-1 pX領域を増幅するプライマーセットを用いてRT-PCRを行い測定した。
抗HTLV-1薬の投与:AZT 125mg/ml/匹/日およびIFN-α30000U/ ml/匹/日を感染2週後あるいは感染5週後より2週間、週5日経口投与を行った。TAS-116 10mg/kg/日あるいは15mg/kg/日を感染2週後から4週後まで週5日経口投与を行った。その後、経時的に採血しRT-PCRによりプロウイルス量を、FACSにより各種血液細数を測定した。
結果と考察
AZT・IFN-α併用は感染早期から投与を開始すると有意に血中プロウイルス量および感染細胞数を低く維持可能であり、期間生存率も顕著に亢進させたが、感染5週後から投与開始した場合は抗ATL効果を示さなかった。この原因としては、本HTLV-1感染ヒト化マウスモデルでは感染3,4週目あたりから血中プロウイルス量が急激に上昇し短期間で白血病死に至ることから、既に血中プロウイルス量が高い状態である感染5週目からのAZT/IFN-α投与は無効であったと考えられる。今後、発症後の治療効果を評価するには緩やかな血中プロウイルス量の上昇を示す感染モデルを開発する必要があり、血中プロウイルス量を低くを長期間維持可能な経口感染モデルやTaxペプチドで免疫した感染モデルが有用である可能性がある。また、有効性が確認された17-DMAGと同じ作用機序を有するTAS-116については、投与方法の検討・改善をおこない再検討を行う必要がある。
結論
AZT・IFN-αは血中プロウイルス量が低い時期から投与すると、投与中止後も血中プロウイルス量および感染細胞数を低く維持可能であった。血中プロウイルス量が高くなってから投与を開始した場合は効果が見られなかった。ただし、緩やかに血中プロウイルス量が上昇するモデルを用いて、さらに検討が必要であると考えられる。TAS-116に関しては薬剤以外の理由により有効性の評価が不可能であった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-01-22
更新日
-

文献情報

文献番号
201420056B
報告書区分
総合
研究課題名
HTLV-1感染モデルを用いた抗HTLV-1薬の探索および作用機序の解析
課題番号
H24-新興-若手-018
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
上野 孝治(関西医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)は予後不良の成人T細胞白血病やHTLV-1関連脊髄症(HAM)などを引き起こす。ATLやHAMなどHTLV-1関連疾患は未だ根本的な治療法は確立されておらず、治療法だけでなく発症予防法の開発が喫緊の課題となっている。これら疾患の発症率は高いプロウイルス量と相関する事が明らかとなっていることから、プロウイルス量の抑制、すなわち新規感染の抑制、感染細胞の増殖抑制、宿主免疫による感染細胞の排除の促進が有効であると予想される。そこで本研究ではヒト化マウスを用いたHTLV-1感染モデル個体内でのプロウイルス量を指標に抗HTLV-1薬を探索し、新規発症予防法・治療法の開発を行う。
研究方法
HTLV-1感染マウスモデル作製:ヒト臍帯血から磁気ビーズ法によりCD133陽性造血幹細胞を単離し、NOG-SCIDマウスの骨髄内に移植した。移植後2~3ヶ月後に採血を行い、ヒト免疫細胞が生着し正常に分化したことを確認した。その後HTLV-1感染細胞を腹腔内投与することでHTLV-1感染を行った。
プロウイルス量の測定:モデルマウスから血液を採取し、ゲノムDNAを精製した後、HTLV-1 pX領域を増幅するプライマーセットを用いてRT-PCRを行い測定した。
抗HTLV-1薬の投与:AZT 125mg/ml/匹/日およびIFN-α30000U/ ml/匹/日を感染2週後あるいは感染5週後より2週間、週5日腹腔内投与を行った。17-DMAG 300 µg/匹/日を感染2週後から4週間、週5日腹腔内投与を行った。化合物A 75 mg/kg/日で感染2週後から4週間、週5日腹腔内投与を行った。TAS-116 10mg/kg/日あるいは15mg/kg/日を感染2週後から2週間、週5日経口投与を行った。その後、経時的に採血しRT-PCRによりプロウイルス量を、FACSにより各種血液細数を測定した。
結果と考察
AZT・IFN-α併用は感染早期から投与を開始すると有意に血中プロウイルス量および感染細胞数を低く維持可能であり、期間生存率も顕著に亢進させた。これは薬剤投与による骨髄抑制が原因ではなく、新規感染の抑制、感染細胞の排除等により感染細胞が増加しなかったことが原因であると考えられた。また、感染5週後から投与開始した場合は抗ATL効果を示さなかった。この原因としては、本HTLV-1感染ヒト化マウスモデルでは感染3,4週目あたりから血中プロウイルス量が急激に上昇し短期間で白血病死に至ることから、既に血中プロウイルス量が高い状態である感染5週目からのAZT/IFN-α投与は無効であったと考えられる。今後、発症後の治療効果を評価するには緩やかな血中プロウイルス量の上昇を示す感染モデルを開発する必要があり、血中プロウイルス量を低くを長期間維持可能な経口感染モデルやTaxペプチドで免疫した感染モデルが有用である可能性がある。
Hsp90阻害剤17-DMAGもAZT・IFN-α同様に有効性が認められた。これと同じ作用機序を有するTAS-116については、薬剤以外の理由によりマウスが死亡したため有効性を評価できなかった。溶媒の変更、投与方法の検討・改善をおこない再検証を行う必要がある。
結論
AZT・IFN-α併用およびHsp90阻害剤17-DMAGは血中プロウイルス量・感染細胞数を長期間にわたり低いレベルで維持することができた。17-DMAGと同じHsp90阻害剤で新規構造を有するTAS-116に関しては、溶媒あるいは投与方法が原因で有効性の評価が困難であった。
AZT・IFN-αは血中プロウイルス量が低い時期から投与すると、投与中止後も血中プロウイルス量および感染細胞数を低く維持可能であった。その作用機序は骨髄抑制ではなく、感染細胞の増加を抑制すると考えられる。また、血中プロウイルス量が高くなってから投与を開始した場合は効果が見られなかった。Hsp90阻害剤である17-DMAGはAZT・IFN-αと同様に非常に有効であった。TAS-116に関しては薬剤以外の理由により有効性の評価が不可能であった。既存の抗ウイルス薬に関しては、対照群で未発症の個体が存在したことにより、有効性の統計的有意差は示せなかった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201420056C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我々が開発したHTLV-1感染ヒト化マウスの系を用いて、海外において一部のATLに対する治療効果が報告され、本邦においても治験が開始されたAZT/IFN-α併用投与の有効性を確認することが出来た。また、Hsp90阻害剤のひとつ17-DMAGの経口投与においても有効性が示されたことから、抗ATL薬の薬効評価系としての同ヒト化マウスモデルの有用性が明らかとなった。
臨床的観点からの成果
HTLV-1感染ヒト化マウス末梢血の経時的な解析により、AZT/IFN-α併用投与によるATL様病態発症抑制が、骨髄抑制ではなく感染細胞特異的な増殖抑制に起因することが示された。また、AZTあるいはIFN-α単独投与において一部慢性感染状態となった感染マウス個体へのAZT/IFN-α併用追加投与により感染細胞の減少が得られたことから、薬剤による感染細胞殺傷効果が示唆された。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tezuka K, Xun R, Tei M et al.
An animal model of adult T-cell leukemia: humanized mice with HTLV-1-specific immunity.
Blood , 123 (3) , 346-355  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201420056Z