ヒト癌拒絶抗原遺伝子同定と癌ワクチン開発

文献情報

文献番号
199800390A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト癌拒絶抗原遺伝子同定と癌ワクチン開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
伊東 恭悟(久留米大学)
研究分担者(所属機関)
  • 山名秀明(久留米大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主目的はヒトHLA拘束性癌特異的CTL株を作製し、それの認識する癌拒絶抗原遺伝子をクローニングし、上皮性癌患者に対して臨床応用可能な腫瘍特異免疫療法の標的分子を開発することである。本邦において多発する癌、即ち肺癌、消化管癌(食道、胃、大腸癌)、肝癌、頭頚部癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、腎癌及び白血病を主な対象とし、組織型としてはそれらの大部分を占める扁平上皮癌及び腺癌に絞って研究する。上皮性癌は我が国における成人悪性腫瘍の大半を占めるのみでなく世界にも最も頻発する癌である。またHLAとしては本邦でも発現頻度の高いHLA-A24(癌患者の約6割)、HLA-A2(約4割)、及びHLA-A26(約2割)抗原拘束性のCTL認識性癌退縮抗原の同定を目指す。次いでHLA-A11(2割)、-A31(2割弱)、-A33(2割弱)を対象とする。日本人の95%以上は少なくともHLA-A24、-A2、-A26、-A31、-A33のいずれか一方を保有するのみならず、上記HLAアレールは人種をこえて広く認められる。したがって本研究により癌拒絶抗原遺伝子が同定され宿主によって認識されるペプチド抗原分子機構解明に大きく貢献するものと考えられる。さらに本研究で開発された癌ワクチンが臨床応用された場合、世界レベルで、上皮性癌特異免疫療法として活用されるものと考えられる。
研究方法
1)癌局所浸潤Tリンパ球のIL-2存在下での大量培養、もしくは末梢Tリンパ球を自家癌にて刺激することによりヒトHLA拘束性癌特異的CTL株を作製し、それの認識する癌拒絶抗原遺伝子をクローニングした。遺伝子クローニングにはT. Boonらの開発したgene-expression cloning法の改良法を用いた。
2)癌腫としては日本人に多発する上皮癌(腺癌及び扁平上皮癌)を主な対象とし、HLAとしてはHLA-クラス・抗原を主対象として、その中で本邦で発現頻度の高いHLA-A24(癌患者の約6割)、HLA-A2(約2割)拘束性のCTL認識性癌退縮抗原とペプチドの同定を実施中である。
3)上記癌拒絶抗原の各種癌における蛋白レベルでの発現はポリクローナル抗体とウエス
タンブロット法により実施した。mRNAレベルでの発現はノーザンブロット法によって解
析した。癌種としては肺癌、頭頚部癌、脳腫瘍、食道癌、胃癌、乳癌、肝癌、大腸癌、骨腫瘍、腎癌、子宮癌及び卵巣癌にて解析した。
4)上記にて同定した癌拒絶抗原内に存在するCTL株により認識されるペプチド抗原を同定し、それらを合成して癌患者リンパ球よりHLA拘束性キラーT細胞誘導能の有無を解析し、癌ワクチンとしての臨床応用の可能性について基礎的研究を実施した。
5)キラーT細胞誘導能の明かなペプチドについては臨床応用可能なグレードのペプチド(GMPグレード)を米国MPS社に依頼し2~4 作製中である。安全性やこれらの精製度などを確認後、第1相臨床試験に供する予定である。第1相臨床試験では有害事象の有無とキラーT細胞誘導能の有無を主目的として本久留米大学にて実施する。
6)また上記癌拒絶抗原分子の生理的機能を解析する。例えば、SART-1遺伝子をcos細胞に過剰発現させると細胞はM期に集積した後アポトーシスに陥るが、M期においてアポトーシスを誘導する分子機構について解析する。より具体的にはa)125kd核内蛋白SART-1800が結合する相手方DNAシークエンスの解明b)同SART-1蛋白が結合する蛋白をfar western法及びtwo hybrid法にて同定、及びc)43kd細胞質内蛋白SART-1259の機能、特にSART-1800蛋白の核内での機能を抑制するか否かについて、mutant SART-1259の遺伝子を作成し、SART-1800geneとのco-transfection等にて検討する。第2にSART-1800、SART-1259蛋白に対するモノクローナル抗体を作成し、両者の各種組織細胞における発現や局在を明らかにする。SART-2、SART-3、ART-1、ART-4等の新規の遺伝子の生理的機能等についても同様の分子生物学的手法にて解明する。
結果と考察
我々は日本人に多発するヒトHLA-クラス・拘束性上皮癌(腺癌及び扁平上皮癌)に対する特異的キラーT細胞を多数樹立し、それらの認識する上皮癌拒絶抗原遺伝子をクローニングした。さらに同遺伝子によりコードされる癌抗原ペプチドを同定し、同ペプチドによるin vitroにおけるキラーT細胞誘導能を解析した。これまでのところ扁平上皮癌cDNAライブラリーより4種類の遺伝子(SART-1~SART-4)一方、腺癌cDNAライブラリーより3種類の遺伝子(2つは新規、1つは既知の遺伝子)をクローニングし、それらのコードする蛋白を解析し、CTL誘導能を持つペプチドを10種類以上同定した。具体的な主な結果は以下の如くである。1.SART-1癌拒絶抗原遺伝子:1)SART-1遺伝子導入が癌細胞に選択的アポトーシスをp53非依存性に誘導することを見出した。癌ワクチン開発研究においてはHLA-A24拘束性ペプチド(SART-1690-698)が強いCTL誘導能を有することを見出した。2)アジュバントを決定する目的でSART-1690-698ペプチドによるCTL誘導の至適条件を各種サイトカインを用いて明らかにした。3)HLA-A26拘束性ペプチドSART-1736-744がHLA-A2601、-A2602、-A2603癌患者いずれからもCTLを誘導することを見出した。2.SART-2癌拒絶抗原遺伝子:100kdのSART-2抗原が扁平上皮癌粗面小胞体内に選択的に発現していることを明らかにするとともに、同抗原内にHLA-A24+癌患者リンパ球よりCTL誘導能を有する2つのnonapeptideを同定した。3.SART-3癌拒絶抗原遺伝子:140kdのSART-3抗原が増殖細胞に選択的に発現し、かつ癌細胞に限って核内にも発現することを明らかにした。同抗原内にHLA-A24+癌患者リンパ球よりCTL誘導能を有する2つのnonapeptideを同定した。4.HLA-A24拘束性肺腺癌患者由来CTL株により認識される拒絶抗原遺伝子:1)3つの遺伝子をクローニングして、そのうち1つは既知(サイクロフィリンB)、2つは新規であったため、Adenocarcinoma Antigen Recognized by T cells -1/-4(ART-1、ART-4)と仮名した。2)サイクロフィリンB分子内にHLA-A24+白血病患者リンパ球よりCTLを誘導するnonapeptideを2か所同定した。一方、これらの癌拒絶抗原の各種癌における蛋白レベルでの発現は以下の如くであった。SART-1抗原は扁平上皮癌の60~80%、乳癌を除く腺癌の40~50%に発現していた。またSART-2は扁平上皮癌の60%以上に、SART-3は腺癌、扁平上皮癌を含む大部分の悪性腫瘍に発現していた。一方、これらの抗原は正常組織には睾丸を除き発現されていなかった。SART-1、SART-2及びSART-3抗原の中に患者リンパ球よりCTL誘導可能なペプチド分子を各々2個、2個及び3個同定した。また、腺癌より同定したサイクロフィリンB分子、ART-1、ART-4分子もSART抗原と同様に上皮性癌に高発現していた。サイクロフィリンB分子中CTL誘導可能な分子を2か所同定した。HLA-A26は日本人の22%、HLA-A2402は日本人の60%が保有している。これらより、本邦における多くの上皮性癌患者に対してこれらのペプチドワクチンは応用可能と考えられる。したがって、現在本久留米大学における上記ペプチドを用いての第1相臨床試験を計画中である。
結論
上皮性癌拒絶抗原遺伝子を7種類(5つは新規、2つは既知の遺伝子)クローニングした。それらが蛋白レベルで各種癌に選択的かつ高頻度に発現していることを明らかにした。またそれらの拒絶抗原内にコードされるHLA-A24結合性ペプチドのうちキラーT細胞により認識される抗原を同定し、かつその中で10種類以上の合成ペプチドがHLA-A24陽性癌患者リンパ球よりCTL誘導能を有することを見出した。

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