エンベロープウイルス粒子形成の分子基盤の解明と創薬に向けた研究開発

文献情報

文献番号
201420055A
報告書区分
総括
研究課題名
エンベロープウイルス粒子形成の分子基盤の解明と創薬に向けた研究開発
課題番号
H24-新興-若手-017
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
森田 英嗣(弘前大学 農学生命科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,276,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者 森田英嗣 大阪大学・微生物病研究所 (平成26年4月1日-平成26年8月31日) →弘前大学・農学生命科学部 (平成26年9月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
フラビウイルスは感染後期過程に宿主細胞内膜系を大規模に再構築し、小胞体由来の複製オルガネラと呼ばれる構造体を形成する。本研究では、フラビウイルス複製に必要な宿主因子を同定するために、感染特異的に複製オルガネラにリクルートされる宿主因子を種々のプロテオミクス解析とsiRNAノックダウンスクリーニングによって同定した。また、同定された因子のひとつであるVCP (Valosin-containing protein/p97)の機能的役割について解析を行った。
研究方法
2型デングウイルスNew Guinea C株(DENV)又は、日本脳炎ウイルスAT31株(JEV)を用いて、それぞれのNSタンパク質に結合する宿主因子をIP-MSにて網羅的に同定した。得られた候補因子群をin silicoの相互作用ネットワーク解析を通じて候補因子絞り込んだ後、それぞれの因子に対してsiRNAによる遺伝子ノックダウンを行いウイルス増殖に与える影響について検討した。また、候補因子に対する特異的阻害剤の影響、候補因子の細胞内局在、各種ウイルス因子との結合について検討した。
結果と考察
プロテオミクス解析によって得られた候補因子に対してネットワーク解析を行い137の要解析因子を抽出した。これら因子に対してsiRNAを合成しJEVまたはDENVの増殖に対する影響を調べたところ、13種類の因子を発現抑制した場合に顕著なウイルス増殖抑制効果が確認された。その中には、AAA ATPaseファミリーに属し、ユビキチン依存的な蛋白凝集体の解離に作用することが知られるVCPが含まれていた。siRNAに抵抗性を示すVCPを発現させると、ウイルス増殖抑制効果の回復が確認された。また、VCP阻害剤DBeQ処理により顕著なウイルス増殖抑制が認められた。さらに、種々のVCPコファクターの細胞内局在及びウイルス蛋白との相互作用を調べたところ、Npl4及びp47がウイルスNS蛋白依存的に複製オルガネラにリクルートされることが明らかとなった。また、これらのコファクターをノックダウンするとウイルス増殖が抑制された。さらに、複製オルガネラそのものがユビキチン化されていることから、VCPがコファクターと共に直接リクルートされることによって複製オルガネラの形成・維持に関与している可能性が示唆された。
結論
VCPの機能阻害により著しいフラビウイルス増殖抑制が認められることから、VCPは新規抗ウイルス薬のターゲットに有効であると期待される。しかしながら、VCPは様々な細胞内プロセスと密接に関与していることから、VCPそのものの機能阻害には多大な副作用が生じると予想される。今後、ウイルス因子とVCP複合体の結合境界面の立体構造と生化学的特徴の解明が、VCPとの相互作用をターゲットとした効果的で副作用の少ない新規薬剤の開発に繋がるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

文献情報

文献番号
201420055B
報告書区分
総合
研究課題名
エンベロープウイルス粒子形成の分子基盤の解明と創薬に向けた研究開発
課題番号
H24-新興-若手-017
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
森田 英嗣(弘前大学 農学生命科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
研究代表者 森田英嗣 大阪大学・微生物病研究所 (平成24年4月1日-平成26年8月31日) →弘前大学・農学生命科学部 (平成26年9月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
フラビウイルスは、一本のプラス鎖RNAをゲノムとしてもつRNAウイルスであり、主に蚊やダニ等の吸血性の節足動物によって媒介され伝播する。また、フラビウイルスにはデングウイルス (DENV) 、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルスなど、高い病原性を示すウイルスが含まれ、毎年このウイルス感染症によって多くの死者が出ている。特に、デングウイルスは有効なワクチンや治療法がなく、熱帯地域を中心に毎年一億人を超える感染者がいるといわれ、大きな社会問題となっている。また、本邦においても、地球温暖化に伴い輸入感染症としてリスクが徐々に高まっており、治療法の開発などを含めた早急な対策が求められている。本研究課題は、抗フラビウイルス薬開発につながる分子基盤の確立を目指し、フラビウイルスの細胞内での増殖に必須な宿主因子を同定し、その作用機序を明らかにすることを目的とする。
研究方法
フラビウイルスは、感染後、宿主細胞内膜系を大規模に再構築し、ウイルスゲノム複製に特化した複製オルガネラと呼ばれる構造物を小胞体 (ER) 近傍に形成する。本研究課題では、まずフラビウイルス感染細胞より抽出した複製オルガネラに対して網羅的プロテオミクス解析を行い宿主因子の検索を試みた。次に、網羅的プロテオミクス解析によって同定された因子群に対して、320種類のsiRNAを合成し、それぞれの遺伝子のノックダウンがDENVの増殖にどのように影響を与えるのか調べた。その結果、51種類の因子をノックダウンした場合に、コントロールと比較して著しいウイルス増殖抑制効果があることがわかった。本研究課題では、その中でも特に著しい効果が確認できたESCRT因子群、ATG因子群、VCP関連因子群に着目して、宿主因子群のウイルス増殖での役割を明らかにするとともに、抗ウイルス薬標的の可能性について検討した。
結果と考察
各ESCRT遺伝子群のノックダウンのウイルス増殖に対する影響を調べたところ、TSG101単独でのノックダウン、CHMP4A/CHMP4B/CHMP4C又はCHMP2A/CHMP2B/ CHMP3を同時にノックダウンした細胞においてのみ、著しいウイルス増殖能の低下を確認した。また、各種電子顕微鏡観察により、ESCRT因子群が複製オルガネラ辺縁部に局在することを確認し、さらに、ESCRTをノックダウンした細胞の小胞体上に数多くの不完全なウイルス粒子様像を検出した。フラビウイルスの増殖において、一部のESCRT因子群が極めて重要な役割を担っていることが明らかになった。また、その機能の一端は小胞体近辺の複製オルガネラでみられるウイルス粒子形成にあることが明らかになった。
VCP阻害剤DBeQ処理により顕著なウイルス増殖抑制が認められた。さらに、種々のVCPコファクターの細胞内局在及びウイルス蛋白との相互作用を調べたところ、Npl4及びp47がウイルスNS蛋白依存的に複製オルガネラにリクルートされることが明らかとなった。また、これらのコファクターをノックダウンするとウイルス増殖が抑制された。さらに、複製オルガネラそのものがユビキチン化されていることから、VCPがコファクターと共に直接リクルートされることによって複製オルガネラの形成・維持に関与している可能性が示唆された。
フラビウイルスを材料に用い、ウイルス増殖におけるオートファジー機構の役割について検討を行った。ウイルス感染細胞にみられるウイルス複製オルガネラにユビキチン及びp62が蓄積していることが明らかとなった。またp62、ATG16L1、FIP200の各種遺伝子欠損細胞ではウイルスの増殖が野生型に比べ著しく減衰していることが確認された。これらの結果は、オートファジー機構はウイルスの増殖を亢進する役割があることを示唆している。
結論
本研究課題では、網羅的プロテオミクス解析及びsiRNAを用いたスクリーニングによって、多くの宿主因子を同定することができた。また、それぞれの因子のウイルス増殖における役割を調べた結果、それぞれの因子が何れかのウイルス側因子との物理的相互作用を介して機能している可能性が示された。これらの分子機構はデングウイルスだけではなく、日本脳炎ウイルスの増殖にも重要なことから、進化的に保存されたものである可能性が高い。これらの宿主因子-ウイルス因子相互作用を詳細に解析することによって、抗ウイルス薬開発につながる情報を提供できる可能性がある。さらに、宿主因子-ウイルス因子相互作用の構造を明らかにすることによりin silicoでの創薬につながる情報が得られると期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201420055C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究課題では、網羅的プロテオミクス解析及びsiRNAを用いたスクリーニングによって、多くの宿主因子を同定することができた。また、それぞれの因子のウイルス増殖における役割を調べた結果、ESCRT因子群、VCP関連因子群、オートファジー因子群が何れかのウイルス側因子との物理的相互作用を介して機能している可能性が示された。これらの分子機構はデングウイルスだけではなく、日本脳炎ウイルスの増殖にも重要なことから、進化的に保存されたものである可能性が高い。
臨床的観点からの成果
フラビウイルスの増殖に必須な宿主側因子群:ESCRT因子群、VCP関連因子群、オートファジー因子群とウイルス因子相互作用を詳細に解析することによって、抗ウイルス薬開発につながる情報を提供できる可能性がある。さらに、宿主因子-ウイルス因子相互作用の構造を明らかにすることにより創薬につながると期待される。
ガイドライン等の開発
本研究では、網羅的プロテオミクス解析によって同定された宿主因子群に対してin silico解析を行い、宿主因子間の相互作用ネットワーク構築の構築と要解析宿主因子の抽出を行った。これらの解析によって抽出された因子群は全て、細胞生物学的・生化学的実験によってウイルス増殖への関与が証明された。このような蛋白質相互作用ネットワークを利用した解析方法は、他の大規模データベースを活用した解析にも有用であると期待される。
その他行政的観点からの成果
フラビウイルスにはデングウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルスなど、高い病原性を示すウイルスが含まれる。特に、デングウイルスは本邦においてもリスクが高まっており、有効なワクチンや治療法がなく、熱帯地域を中心に毎年一億人を超える感染者がいるといわれ大きな社会問題となっている。本研究課題によって得られた情報は、抗デングウイルス薬開発につながる分子基盤の確立に貢献するものである。
その他のインパクト
本研究によって明らかになった宿主因子群は、これまでに報告されていない新規宿主因子である。特にVCPやTSG101などは、RNA干渉による遺伝子発現の抑制により増殖が1/100,000に抑えられるほど、ウイルスの増殖にはなくてはならない因子群であることが判明した。実際に、VCPの機能を抑える低分子化合物の投与によってもウイルス増殖が劇的に抑制されており、これら分子との相互作用を基盤とした創薬の開発が期待される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201420055Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,558,000円
(2)補助金確定額
5,558,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,011,519円
人件費・謝金 1,819,098円
旅費 188,280円
その他 257,103円
間接経費 1,282,000円
合計 5,558,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2015-08-04