日本脳炎ならびに予防接種後を含む急性脳炎・脳症の実態・病因解明に関する研究

文献情報

文献番号
201420049A
報告書区分
総括
研究課題名
日本脳炎ならびに予防接種後を含む急性脳炎・脳症の実態・病因解明に関する研究
課題番号
H25-新興-指定-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 倉根 一郎(国立感染症研究所 )
  • 森島 恒雄(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 亀井 聡(日本大学 医学部)
  • 高崎 智彦(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 片野 晴隆(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2012年に日本脳炎ワクチン(JEワクチン)接種後に2名の死亡例の報告があったが、日本脳炎ウイルス(JEV)は現在でも脅威であり、予防接種後副反応報告には他疾患が紛れ込んでいる可能性があること等の理由から、直ちにJEワクチンの接種を中止する必要はない、との結論が出された。しかし、日本脳炎患者の予後調査が十分になされていないこと、原因不明の急性脳炎・脳症の中に日本脳炎が紛れ込んでいる可能性があること、原因不明の急性脳炎・脳症、予防接種後脳炎・脳症・急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の原因検索の重要性などが指摘され、本研究班が発足した。本研究班の目的は、①原因不明として届けられた急性脳炎・脳症の患者の中に、日本脳炎患者が紛れ込んでいないかについて検討する。②一人でも多くの急性脳炎・脳症、予防接種後に発症した脳炎・脳症・ADEMの原因究明を行う。③原因究明に必要な臨床検体の種類(5点セット)、採取時期、採取方法、検体の保管方法・搬送方法について最適な方法を医療機関に提案する。の3点である。
研究方法
急性期の臨床検体(血液・血清、髄液、咽頭ぬぐい液、便、尿の5点セット)を適切に採取・保管・搬送し、JEV特異的IgM抗体の測定を行うと共に、multiplex PCR法を用いて100種類以上のウイルス遺伝子の検出を行う。これにより病原体が検出できなかった場合は、次世代シークエンサー(next-generation sequencing: NGS)検査を用いた検討を行う。感染症発生動向調査(NESID)に基づいて報告された急性脳炎・脳症ならびに予防接種後副反応として届けられた脳炎・脳症について疫学的に解析する。
結果と考察
原因不明急性脳炎患者からJEVゲノムがNGS検査で検出され、JEV特異的IgM抗体の上昇も認められたことから、春先に感染したと考えられる日本脳炎症例を見出した。これ以外にも、原因不明として届けられていた急性脳炎・脳症患者から、好発年齢以外でのヒトヘルペスウイルス6(HHV6)の検出(急性期の血清からDNA検出、抗体陽転も確認される)や、パレコウイルス3型、EBウイルス、ノロウイルスゲノムがそれぞれ別の患者から検出された。前述したJEV以外に、パラインフルエンザウイルス4b、ヒトボカウイルス、E.coli、Staphylococcus haemolyticus等のゲノムがNGS検査により検出された。急性脳炎・脳症と鑑別を要する疾患として、細菌性髄膜炎が挙げられるが、本邦の細菌性髄膜炎の発生率は年間100万人当り12.4と推計され、予後は抗菌薬の進歩にも関わらず満足するべき成績ではないことから、細菌性髄膜炎成人例におけるMEPM6 g/日の適応拡大が承認され、2014年末に細菌性髄膜炎の診療ガイドライン2014が作成された。NESIDに基づいて報告された急性脳炎・脳症は、原因不明が最多であったが、季節的にはインフルエンザの流行に合わせて報告数のピークが認められ、診断時の年齢中央値は5歳(0~98歳)であった。人口100万人当たりの患者報告数は都道府県毎に差が大きく、全数届出疾患であることが周知されていない可能性が考えられた。予防接種後副反応(有害事象を含む)として届けられた脳炎・脳症は接種から平均9.4日、ADEMは接種から平均18.6日で発症していた。今後は分母(被接種者数)情報とともに検討することが重要であり、そのためには年齢別の被接種者数の情報が必要である。マイナンバーの予防接種への応用が期待される。
結論
NGS検査と特異的IgM抗体の上昇により原因不明急性脳炎の中にJEが紛れ込んでいることを確認した。原因不明の急性脳炎症例では、日本脳炎を鑑別診断に挙げて、ウイルス学的な検査を実施する必要がある。JEV以外にも、様々な病原体遺伝子が原因不明として届けられた急性脳炎・脳症の患者検体から検出され、臨床症状・所見ともあわせて原因究明に至った症例があった。一方で、急性期の検体が保管されていなかったり、ゲノムが抽出できなかった症例もあり、検体の種類、採取時期、採取方法、検体の保管方法、検体の搬送方法に関するガイドラインを作成する必要があると考えられた。また、原因不明急性脳炎・脳症の原因究明には、医療機関、大学等の教育研究機関、保健所、地方衛生研究所、民間の検査センター、民間の輸送機関、国立感染症研究所、地方公共団体、厚生労働省の協力・連携体制が不可欠である。また、病因診断には、その病原体特有の病態を把握しておくことと、臨床現場の所見を参考にするとともに、急性期の5点セット(血液・血清、髄液、咽頭ぬぐい液、便、尿)を-70℃以下に凍結保管しておくことが重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201420049Z