新興再興感染症に対する経鼻ワクチンの開発・実用化に関する研究

文献情報

文献番号
201420040A
報告書区分
総括
研究課題名
新興再興感染症に対する経鼻ワクチンの開発・実用化に関する研究
課題番号
H25-新興-一般-018
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 奥野 良信(一般財団法人阪大微生物病研究会 観音寺研究所)
  • 一戸 猛志(東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター)
  • 押海 裕之(北海道大学)
  • 相内 章(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 小田切 孝人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
156,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
経鼻不活化全粒子インフルエンザワクチンの実用化に向け、ヒトにおける経鼻ワクチン接種後の抗体応答の詳細な検討及び、製造法、新規アジュバントの開発を目的とした。また流行に適合したワクチン株決定の為のウイルスゲノム解析を目的とした。
研究方法
粘稠剤としてカルボキシビニルポリマー(CVP)を併用した経鼻ワクチン接種群で誘導される血清中のHI抗体および中和抗体応答は、現行の皮下ワクチン接種群と比較した。また、新型インフルエンザウイルスとしてヒトにおいて新たに感染が危惧されるA(H5N1)ウイルスに対し、経鼻インフルエンザワクチンにより抗体応答を誘導できるか否かは今まで明らかになっていない。そこで健康成人ボランティアを募った臨床研究において、高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)に対する経鼻不活化全粒子ワクチン接種を実施し、誘導される抗体応答の評価を行った。インフルエンザウイルスの細胞培養系における生産性の向上に関する検討を行った。RNAアジュバントのIgA産生誘導活性における優位性を確定し、マウス経鼻投与系でCD103+樹状細胞TICAM-1経路の重要性を証明した。
インフルエンザウイルスの全ゲノムシークエンスを対象とした遺伝子データベースを構築し、ウイルスの遺伝子と抗原性、薬剤耐性などの表現型、病原性とを連結させた情報の充実化を進めている。国内からは季節性インフルエンザの遺伝子情報を収集し、海外からは将来的なウイルス株の収集と性状解析の実施を見据え、インドネシアの現地調査を実施した。
結果と考察
経鼻ワクチン接種群で誘導される血清中のHI抗体および中和抗体応答は、現行の皮下ワクチン接種群と比較したところ非劣性であった。また、鼻腔粘膜上の中和抗体応答は、経鼻ワクチン接種群にて認められ、逆に現行皮下ワクチン接種群では認められなかった。
高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスに対してナイーブな被験者に対して、A(H5N1)ウイルス不活化全粒子ワクチンの経鼻接種2回では、十分な抗体応答を誘導することが出来なかったが、追加ワクチン接種を実施することで血清ならびに鼻腔洗浄液に中和抗体応答を強く誘導した。
今回作製した全粒子インフルエンザワクチン原液、及び経鼻投与用季節性インフルエンザワクチン製剤の品質は事前に設定した規格値に適合し、抗体価調査、非臨床試験に使用できるものであった。RNAアジュバントのIgA産生誘導活性における優位性を確定し、マウス経鼻投与系でCD103+樹状細胞TICAM-1経路の重要性を証明した。インフルエンザウイルスウイルスPB1-F2タンパク質は、Tom40チャネルを介してミトコンドリアの膜間スペースに局在し、ミトコンドリアの膜電位を低下(ミトコンドリアの断片化を起こ)させることにより、インターフェロン応答やNLRP3 inflammasome依存的なIL-1βの産生を抑制していた。
結論
CVP併用経鼻不活化全粒子ワクチン2回接種は、血清抗体の誘導に関しては現行皮下ワクチン1回接種と比較して非劣性であり、鼻腔粘膜上の抗体誘導に関しては特異的であることが明らかになった。A(H5N1)ウイルスに対してナイーブな被験者に対して、A(H5N1)ウイルス不活化全粒子ワクチンの経鼻接種2回では、十分な抗体応答を誘導することが出来なかったが、追加ワクチン接種を実施することで血清ならびに鼻腔洗浄液に中和抗体応答を強く誘導できることが明らかになった。CVPの添加は、有意に抗体応答を促進することが明らかになった。ワクチンや治療薬の開発、診断法の構築などに応用するためにも、このような周辺諸国に対してはインフルエンザウイルスサーベイランスの拡充およびインフルエンザウイルスの遺伝子データの蓄積が重要である。
CVP併用経鼻不活化全粒子ワクチンは季節性インフルエンザおよび高病原性鳥インフルエンザウイルス感染症の予防に有効な手段と成り得る。

公開日・更新日

公開日
2015-05-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201420040Z