ムンプスに関する重大なワクチンギャップを抜本的に解決するための研究

文献情報

文献番号
201420039A
報告書区分
総括
研究課題名
ムンプスに関する重大なワクチンギャップを抜本的に解決するための研究
課題番号
H25-新興-一般-017
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木所 稔(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
研究分担者(所属機関)
  • 庵原俊昭(国立病院機構三重病院)
  • 中山哲夫(北里大学生命科学研究所)
  • 竹田 誠(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
  • 長谷川秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 網 康至(国立感染症研究所 動物管理室)
  • 加藤大志(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、日本ではムンプスワクチン(MuVac)の定期接種化が強く求められている。しかし、現行の国産ワクチンは有効性が高い反面、無菌性髄膜炎の発生率が高いことが導入の足かせとなっている。一方、世界で最も用いられているJeryl-Lynn (JL)株は、髄膜炎の発生率は低い反面、有効性に疑義が生じている。新規ワクチンが望まれるが、過弱毒化しやすいムンプスウイルス(MuV)の属性故に従来の作出方法ではMuVacの有効性と安全性の両立は困難である。加えて、モデル動物の不在もワクチン開発の障壁となっている。これらの諸課題を短期間で抜本的に解決しワクチンギャップを解消するため、当該研究を行う。
研究方法
以下の4つのテーマで研究を進める。
1)短期間でのワクチン導入を図るため、現行MuVacの利点を生かした相互補完的免疫法を検討する。
2)現行MuVacの問題点を抜本的に解決し、且つ利便性を高めるため、最新の技術と情報に基づいた次世代ワクチンの開発をめざす。
3)1)2)の研究の基盤となる評価系として、マーモセットを用いた動物モデルを確立する。
4)定期接種導入に必要な基礎情報を得るため、臨床的な側面から現行MuVacの再評価を行う。
1)については、初回接種をJL株で行い安全に基礎免疫を付与し、国産ワクチンで追加接種することで、副反応を起こすことなく、より高い免疫を誘導することをめざす。
2)については、次世代MuVacを開発するため、2つのアプローチを試みる。1つは、安全性と有効性に定評のある麻疹ワクチンAIK-CにMuVのF, またはHN遺伝子を導入した組換え2価ワクチンである。2つ目はMuVのゲノム内に、脳で高発現するマイクロ(mi)RNAの相補配列を導入することで、ウイルスの増殖能を損なうことなく、中枢神経では増殖しない、つまり免疫原性を損なわずに、副反応を起こさないMuVを作出する。
これら候補MuVacの評価のために、MuVに感受性の高いマーモセットを用いて、ワクチン接種後の免疫応答、ワクチンウイルスの増殖能の評価、臨床反応、感染防御能について評価する。
4)は定期接種を導入した自治体の実態調査や、接種年齢と副反応の関連等の研究から、現行ワクチンの有効性評価や、適切な接種時期の提唱など、定期接種に向けた基礎情報の収集を行う。
結果と考察
今年度はMuVacで誘導される感染防御能をマーモセットで評価するために、ワクチン接種群と非免疫群に強毒株大館株を経鼻で攻撃接種した。その結果、非免疫群では明確な体温の上昇を認めると共に、全頭で高レベルのウイルス血症が観察され、併せて、髄膜炎、膵炎、および精巣炎など、ヒトでの病態が忠実に再現された。一方、免疫個体群は発症無く耐過した。MuVの経鼻感染による発熱を伴う発症が確認されたのは霊長類では初めての報告例であり、攻撃接種による感染防御免疫の評価ができるのもマーモセットのみである。従って、このモデルが優れた評価系であることが証明された。また、膵炎発症個体では血中アミラーゼ値の上昇が認められ、副反応のバイオマーカーとして血中アミラーゼ値が有望であることが示唆された。
マーモセットにおけるMuV特異的細胞性免疫を測定するために、主要な免疫担当細胞表面抗原とサイトカインに対する検出抗体の検索を行ったところ、目的の免疫細胞集団の検出に成功した。
これらの結果を受けて、H26年度内にマーモセットによる相互補完免疫法の評価を開始した。
 次世代ワクチンの検討では、組換えAIK-C2価ワクチンをコットンラットに接種したところ抗MuV中和抗体と抗麻疹抗体が誘導され、二価ワクチンとしての可能性を示唆する結果が得られた。また、大館株にmiRNA相補配列を導入した組換えMuVを作出したところ、培養細胞での増殖能は損なわれることなく、中枢神経病原性が失われていることが確認された(特許出願中)。
臨床的研究では、公費助成でMuVac接種率が70%に上昇すると、ムンプス報告数が87%減少したことから国産MuVacの有効性が確認された。また、就学前に2回目接種をすると効果的な二次免疫応答が認められた。一方、国産MuVacの副反応は接種年齢が上がるほど強くなる傾向があり、1歳時での接種が適当であることが示唆された。こうした情報は、MuVac定期接種化を検討する際の重要な基礎情報となる。
結論
マーモセットはMuVacの評価系として優れたモデルであることが確認された。そこで、細胞性免疫測定法や安全性評価のためのバイオマーカーを確立し、相互補完的免疫法の評価を開始した。
次世代MuVacとして、組換えAIK-c二価ワクチンとmiRNA制御MuVを作出した。
臨床的研究から、国産MuVacは有効であり、初回接種は1歳、追加接種は就学前が適当と判断された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201420039Z