高病原性鳥インフルエンザの診断・治療に関する国際連携研究

文献情報

文献番号
201420034A
報告書区分
総括
研究課題名
高病原性鳥インフルエンザの診断・治療に関する国際連携研究
課題番号
H25-新興-一般-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中島 典子(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 河内 正治(国立国際医療研究センター)
  • 本間 栄(東邦大学 医学部)
  • 高崎 仁(国立国際医療研究センター)
  • 影山 努(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 松井 珠乃(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 鈴木 忠樹(国立感染症研究所 感染病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
28,961,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
H5N1亜型鳥インフルエンザウイルス(H5N1、H7N9亜型鳥インフルエンザウイルス(H7N9)ヒト感染症ならびに、その死因である急性呼吸促迫症候群(ARDS)の病態解明と治療の研究は、緊急を要する重大な社会的要請であるが、国内ではH5N1、H7N9ヒト感染症の報告はなく、肺内要因の重症ARDSの症例も少ないため、H5N1、H7N9ヒト感染症の発生国との国際連携臨床研究を推進・発展させる必要がある。本研究は海外医療機関と連携してH5N1、H7N9を含むウイルス感染によって引き起こされる重症ARDSの発症機序を解明すること、その有効な診断と治療のプロトコールを確立することが目的である。
研究方法
1.臨床研究が可能なH5N1、H7N9ヒト感染症発生国の医療機関を開拓する。2.H5N1、H7N9ヒト感染症ならびに重症ARDSの病態解明:ベトナム・ハノイの国立小児病院PICUに入院した重症ARDS患者の臨床経過情報を集積する。各患者のPICU入院時の気管洗浄液(TLA)中の病原体ゲノム検索を網羅的に行い、血清/TLA中の炎症性メディエーターを測定し、重症化に関連するバイオマーカーを検索する。さらに疫学的解析ならびに病理学的解析を行う症例を集積する。3.新しい治療法の開発: DIC治療薬であるリコンビナントヒトトロンボモジュリン(rhTM)がDICを合併した重症ARDS患者の治療有効か検討する。国内で検証する。4.診断法の開発: Direct RT-LAMP法を用いたインフルエンザウイルスの型・亜型同定がベッドサイドで可能な迅速キットを医療現場に導入し、臨床検体で有効性を検証する。5.病理専門医師を中心とした臨床医師団を結成し、鳥インフルエンザウイルスヒト感染症の病理解剖が行われる際には、現地病理医らと解剖を行い、サンプリングする。6.感染症について海外情報を収集し、研究班として疫学的な研究基盤を構築する。
結果と考察
H5N1やH7N9を含むウイルス感染症の臨床病態を把握し、国内発生時に備えるには、鳥インフルエンザウイルスヒト感染発生国と連携することが必要であり、今年度はカンボジアのカルメット病院とパスツール研究、ベトナムのバクマイ病院を訪問し連携研究を提案した。2006年度から連携研究を行っているハノイ国立小児病院において、昨年度から開始した重症ARDS51例の臨床情報が集積した。重症ARDS症例の気管洗浄液中の病原体を網羅的に検索したところ、責任病原体のほとんどがウイルスであることが明らかになった。Direct RT-LAMP法を用いた検査系を導入し、臨床検体を用いて、有効性を実証した。インフルエンザに併発する重症ARDSのほうがインフルエンザウイルス感染が関与しない重症ARDSと比較して、より重篤であることが示唆された。治療に関しては後ろ向き調査で大量γグロブリン療法の重症ARDSに対する有効性が認められた。DICを合併した肺内要因の重症ARDSに対してrhTM投与の効果を検証する臨床研究についてハノイ国立小病院と繰り返し討議し合意を得た。重症化のバイオマーカーの検索では、PICU入室時の血中IFN-γとIL-6値が予後と相関する可能性が示された。これまで5例のH5N1ヒト感染症の剖検肺を解析したが、インフルエンザウイルス以外のウイルスが原因である致死性肺炎の肺病理組織を解析することで、インフルエンザに特徴的な病理所見が解明されることが期待される。病理学的解析によりインフルエンザの重症化機構に関する新しい知見が得られれば新たな治療法の発案につながる可能性がある。
結論
H5N1やH7N9を含むウイルス感染による重症ARDS患者の病態解析とその原因を究明することは将来のパンデミック対策としても重要であり、そのためには、臨床・基礎医学両面からの緊密な提携をもった研究が不可欠である。今年度訪問した臨床医療機関がもっとも興味を示したのは、核酸抽出なしでインフルエンザウイルスの型・亜型を決定するDirect RT-LAMP法であり、早期診断・早期治療が予後を左右する診療現場に普及させることは意義があると思われた。来年度はバクマイ病院にこの系を導入し実施する予定である。重症ARDSの病原体のほとんどがウイルスであり、インフルエンザウイルスによるARDSがより重篤であることは着目すべき結果であり、最終年度までに集積したデータによりさらに詳細に解析し報告する予定である。またPICU入室時の血中IFN-γとIL-6値が予後と相関すること、後ろ向き調査で大量γグロブリン療法の有効性がみられたことから、早期に大量γグロブリン療法などの治療を加えると重症化がコントロールできる可能性があることが示唆された。治療のプロトコールを確立するにはさらにデータを集積していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201420034Z