麻疹ならびに風疹排除およびその維持を科学的にサポートするための実験室検査に関する研究

文献情報

文献番号
201420033A
報告書区分
総括
研究課題名
麻疹ならびに風疹排除およびその維持を科学的にサポートするための実験室検査に関する研究
課題番号
H25-新興-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
竹田 誠(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
研究分担者(所属機関)
  • 駒瀬 勝啓(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
  • 森 嘉生(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
  • 木村 博一(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 小沢 邦寿(群馬県衛生環境研究所)
  • 調 恒明(山口県環境衛生保健センター)
  • 加瀬 哲男(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 庵原 俊昭(国立病院機構 三重病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
25,713,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成19年12月「麻しんに関する特定感染症予防指針」(以下、麻しん特定指針)が告示され、麻しん排除を目指した活動が進められ、平成24年度末には、わが国は麻疹排除に近い(あるいは達成した)状態になった。平成25年4月からは麻しん特定指針が改正され、平成27年度までの麻しん排除の達成とWHOによる認定という具体的な目標が掲げられた。ただし、その目標達成のためには、サーベイランスの質の高さを証明しうる優れた実験室診断技術とその体制が必要であり、麻しん特定指針でもIgMによる血清診断、ウイルス遺伝子検出による病原体診断、ウイルス遺伝子配列解析によるウイルス伝播経路の解明を麻疹診断例の可能な限り全例に対して実施するとされた。一方、平成25−26年には、風疹の大きな流行がみられ、40例を超える先天性風疹症候群(CRS)に罹患した児が出生した。平成26年4月1日、新たに「風しんに関する特定感染症予防指針」(以下、風しん特定指針)が告示された。風しん特定指針では、風疹においても可能な限り全例に実施する実験室診断検査を実施し、サーベイランスの強化、早期のCRS発生の確実な予防、平成32年(2020年)度までの風疹排除などが具体的な目標として掲げられた。海外においては、2012年にWHO総会がGlobal Vaccine Action Planを採択し2020年までに全世界から麻疹を排除することを決議し、世界各国の更なる国際協力、国際協調を促した。本研究班の目的は、地方衛生研究所(以下、地研)や国立感染症研究所(以下、感染研)に送られた臨床検体の実験室検査に関して、実用性を重視しつつも、麻疹風疹実験室診断の技術を最高水準にまで高め、国内ならびに国際的な麻疹風疹対策活動に貢献することである。
研究方法
本年度は、麻疹と風疹のリアルタイムPCR法の導入に関する具体的な検討、麻疹ウイルスと風疹ウイルスの分子疫学的解析による流行実態の解明、自治体における麻疹と風疹の排除に関する公衆衛生学的データの解析、地研で実施されるウイルス遺伝子検査の精度管理などについての研究を実施した。
結果と考察
麻疹ウイルスの詳細な遺伝子解析から、わが国の麻疹のかつての流行(土着)株の伝播は、2010年以降遮断されており、また、日本において新たに1年間以上伝播が継続したウイルス(新たな土着株)はないことが示された。すなわち、日本が麻疹排除に成功したことを支持する結果である。一方、依然として、麻疹疑い事例には他の発熱発疹性疾患が紛れ込んでいることも示唆されており、これらの鑑別診断を視野にいれた検査を今後、実施することの重要性が示された。また、22施設の地研の協力を得た麻疹ウイルス遺伝子検出検査の外部精度管理に関する研究では、地研間でのウイルス検出感度の差異が明らかとなり、今後、各施設で使用する試薬、機器等の影響について検討する必要性が示された。しかしながら、開発した麻疹および風疹のリアルタイムPCR系については、臨床検体を用いて検討した結果、現行のRT-nested PCR法に替えて導入可能であることが示された。
結論
海外においては、2012年にWHO総会がGlobal Vaccine Action Planを採択し2020年までに全世界から麻疹を排除することを決議し、世界各国の更なる国際協力、国際協調を促した。Global Vaccine Action Planでは、2020年までにWHOが区分する世界の6つの地域のうちの5つの地域で、麻疹ならびに風疹(CRS含む)を排除するとしている。2020年は、わが国が東京オリンピックを開催する年である。米国など、麻疹風疹対策に先導的な成果を上げてきた国と比較しても、わが国の地研の活動を中心とした病原体検査機能は確実に優っている。それは、現場で働く自治体や地研の方々の努力に負うところが大きく、その一方で、予算、人員の削減により、機能の維持がますます困難になりつつある。感染研においても予算と人員の削減のため、年々、機能を維持することが難しくなりつつあるが、感染研と地研との連携(助け合い)をさらに進めてわが国の麻疹風疹対策、特に実験室サーベイランス機能を一層高め、わが国の感染症対策に資するのみならず、世界の麻疹風疹対策のリーダーシップと取っていくことが重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201420033Z