近隣地域からの侵入が危惧されるわが国にない感染症の発生予防に関する研究

文献情報

文献番号
201420030A
報告書区分
総括
研究課題名
近隣地域からの侵入が危惧されるわが国にない感染症の発生予防に関する研究
課題番号
H25-新興-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
苅和 宏明(北海道大学 大学院獣医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 好井 健太朗(北海道大学 大学院獣医学研究科)
  • 有川 二郎(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 西條 政幸(国立感染症研究 ウイルス第一部)
  • 井上 智(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 伊藤 直人(岐阜大学 応用生物科学部)
  • 丸山 総一(日本大学生物資源科学部 獣医学科)
  • 林谷 秀樹(東京農工大学 大学院農学研究院)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 永田 典代(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 早坂 大輔(長崎大学熱帯医学研究所 微生物分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
8,076,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 野生鳥獣類によって媒介される人獣共通感染症は人に感染すると重篤化するものが多く、世界各国で公衆衛生上の大きな問題となっている。これらの人獣共通感染症は病原体の分布域や宿主動物などが不明な場合が多く、発生予防が難しい。
 そこで本研究では、人に重篤な感染を引き起こす、ダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)、狂犬病、ブルセラ症、バルトネラ感染症、類鼻疽などについて、信頼性の高い診断法を開発して野生動物を対象とした疫学調査を実施することにより、上記感染症の分布域や病原巣動物といった基礎的な疫学情報を得る。さらに、感染動物モデルを用いて、発症機序や重症化の機序を解析する。
研究方法
 モンゴル北部のSelenge県において、旗ずり法により680匹のシュルツェマダニ(Ixodes persulcatus)を捕集した。捕集したマダニを20~30匹ずつ計26プールに分け、エタノールで洗浄後破砕し、破砕液の上清をBHK細胞に接種し、ウイルスの分離を試みた。国内繁殖中の無尾類からブルセラ属菌の分離を試みた。ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHFV)、およびBartonella属菌について、遺伝子解析を実施した。ハンタウイルス感染症についてげっ歯類を対象とした抗体検出用のイムノクロマトグラフィーの開発を行った。新規のブニヤウイルスの一種であるHSKウイルスについてRT-PCRによる遺伝子検出系を開発した、GFPあるいはルシフェラーゼを発現するL遺伝子欠損狂犬病ウイルスを作出した。
結果と考察
プール680匹のシュルツェマダニから、9株のTBEVが分離された。分離株の遺伝子解析の結果、全ての株がシベリア型に分類されることが明らかになった。国内のマダニから新規に分離されたブニヤウイルス科ナイロウイルス属に分類されるHSK ウイルス(仮名)について、Real-time RT-PCRによるウイルス遺伝子検出系を確立した。ハンタウイルス感染症について感染げっ歯類を迅速に診断することを目的とし、Protein Aを用いたイムノクロマトグラフィー(ICG)の有用性を検討した。中国由来CCHFV株の全塩基配列に基づく系統樹解析を行ったところ、S-遺伝子に基づく解析では中国株はほぼ1つのクラスターを形成するのに対し、M-遺伝子とL-遺伝子による解析では中国株の地域特異性は認められなかった。 レポーター遺伝子(GFPあるいはルシフェラーゼ)を発現するL遺伝子欠損狂犬病ウイルスの作出に成功した。これらのL遺伝子欠損ウイルスは、L蛋白質発現プラスミドを導入した細胞において、レポーター遺伝子を発現することが確認された。したがって、L蛋白質欠損ウイルスは、狂犬病ウイルスのL蛋白質の機能解析上、極めて有用なツールとなることが示された。無尾類におけるブルセラ属菌の保有状況を明らかにするために、各種の無尾類よりブルセラ属菌の分離を試みたところ、ベルツノガエル3個体から新規のブルセラ属菌3株が分離された。青森県、山形県および和歌山県で捕獲した野生のニホンザル45頭のうち、6頭(13.3%)から塹壕熱の病原体であるBartonella quintanaが分離された。分離株の遺伝子解析によって、ヒトおよびサルの種類ごとに独自の遺伝子性状を有するB. quintanaが分布すること,わが国のニホンザルには固有のB. quintanaが広く存在することが明らかとなった。近年、海外感染症として我が国に持ち込まれる事例が報告されている類鼻疽(Melioidosis)について、ベトナム・メコンデルタの土壌から原因菌である類鼻疽菌(Burkholderia mallei)の分離を試みた。その結果、40検体中3検体(7.5%)から類鼻疽菌が分離され、本地域に類鼻疽菌が分布することが明らかになった。
結論
ダニ媒介性脳炎、クリミア・コンゴ出血熱、ブルセラ症、バルトネラ感染症、および類鼻疽について、国内外の疫学的情報が得られた。また、ハンタウイルス感染症、ダニ由来ウイルスについて、診断法もしくは検出法を開発することに成功した。今後は新規に開発された診断法を用いて、近隣諸国におけるこれらの感染症の流行状況調査を行い、日本への侵入・流行の危険性を精査していく事が重要であると考えられる。
 本年度の研究で作出されたL遺伝子欠損狂犬病ウイルスは、狂犬病ウイルスのL蛋白質の機能解析に有用なツールとなることが明らかとなった。また、本ウイルスは、L蛋白質を標的とした新たな治療薬のスクリーニングにも応用されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201420030Z