若年及び高齢者の結核制御を目指した生体防御反応解明と新規予防法・治療法の開発

文献情報

文献番号
201420028A
報告書区分
総括
研究課題名
若年及び高齢者の結核制御を目指した生体防御反応解明と新規予防法・治療法の開発
課題番号
H25-新興-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 正彦(国立感染症研究所 感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 田村 敏生(国立感染症研究所 感染制御部)
  • 河村 伊久雄(京都大学大学院 医学研究科)
  • 松本 壮吉(新潟大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 梅村 正幸(琉球大学 熱帯生物圏研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
31,307,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結核に対する新しいワクチン及び治療薬の開発を目指し、以下の目的を設定した。1)IL-17AはT細胞走化性にかかわるケモカイン産生を誘導することから、IL-17A発現誘導により抗結核免疫T細胞を肺にリクルートする新規ワクチン戦略の開発。2)結核に対する感染防御の制御に関与する抑制性シグナル経路の解明。3)結核菌抗原と、それに対する宿主応答、特に防御応答を理解し、新しい結核ワクチン開発に寄与する。4)現行のBCGのワクチンのとしての欠点を凌駕し、強いT細胞活性化能・強いメモリーT細胞産生能を有し、肺内結核菌を強く抑制する新しいBCGを作出する。5)細胞障害性T細胞の分化・活性化に必須のIL-17F産生CD4 T細胞の追加免疫における効果を明らかにする。6)詳細な機能構造相関解析の結果に基づいて新規薬剤の候補化合物をデザインし、結核菌等に対する抗菌活性を評価する。
研究方法
BCG経皮ワクチンにより全身性にTh1型免疫応答を誘導したのち、結核菌抗原であるヘパリン結合ヘマグルチニンアドレシン(HBHA)をコレラ毒素(CT)と共に経鼻接種し、結核菌抗原特異的Th17免疫応答を調べた。BCG接種マウスの脾T細胞を各種抗体存在下にin vitroで抗原刺激し、Th1細胞の機能およびエフェクターT細胞への分化に対する影響を調べた。結核菌噴霧感染後の肺組織切片を結核菌抗原と宿主分子に対する各種抗体で染色した。遺伝子欠失マウスの結核感受性を指標に防御応答を解析した。ウレアーゼ欠損リコンビナントBGにPEST-HSP70-MMP-II-PEST連結遺伝子をプラスミド型で導入しBCG-PESTを作製した。正常健常者末梢リンパ球を用いT細胞活性化能を評価し、マウスを用いてメモリーT細胞産生能及び結核ワクチン効果を判定した。BCGワクチン接種後にIL-17F産生レジデントメモリーCD4 T細胞(IL-17F-TRM細胞)分化を誘導するペプチド(P25)のみを追加免疫し、結核菌感染後の感染価を測定した。ドッキングシミュレーションなどにより結核菌由来新規ヌクレオチド加リン酸分解酵素に対する新規阻害剤の探索を行うとともに、結核菌に対して抗菌活性を示す新規化合物の同定を試みた。
結果と考察
BCGの経皮接種によりTh1型免疫応答を誘導した後にHBHA+CTを経鼻接種すると、結核菌肺感染に対する初期防御が増強された。BCG接種後に誘導されるTh1細胞の機能制御にはPD-1が重要で、Tim3、CD46およびI型IFNを介するシグナルはメモリーT細胞からエフェクターT細胞への分化制御に関与した。機能制御全体像を明らかにすることがBCGのワクチン効果を増強するために必要である。結核肉芽腫において、hypoxia inducible factor 1(HIF1)の産生が顕著であることを見いだした。さらにHIF1は、結核ワクチンにおいて主要な防御的サイトカインであるIFN-gammaによる殺菌機構の発現に必要な分子であった。BCG-PESTはワクチンとしての必要条件である強いCD4陽性及びCD8陽性T細胞活性化能並びにメモリーT細胞産生能を有し、結核菌標準株・臨床分離北京株の肺内増殖を95~99%抑制した。本ワクチン効果は接種後6ヶ月以上持続した。肺においてBCG単独接種に比べP25の追加免疫によって結核菌の増殖が抑制された。感染局所にIL-17F-TRM細胞が存在すれば、結核感染時の防御反応が増強されることが示唆された。本酵素に対する新規阻害剤を見出した。その結果に基づき、結核菌に対して抗菌活性を示す新規化合物(最小発育阻止濃度は32μg/mL)を同定した。今後は新規薬剤の開発につながることが期待される。
結論
感染肺へのTh17細胞誘導が肺結核発症予防に有効である可能性が示唆された。感染抵抗性T細胞の機能制御にはPD-1経路が重要で、そのT細胞への分化誘導はTim3、CD46およびI型IFNを介するシグナルの制御を受けることが示された。結核防御においてHIF1の発現誘導が重要であった。新規結核ワクチンとして実用化を期待し得るリコンビナントBCGが作出された。BCGワクチンに対する追加免疫としてIL-17F-TRM細胞の分化を誘導することが有効であることが示された。加リン酸分解酵素の活性を阻害するとともに、結核菌に対して抗菌活性を示す新規化合物を同定した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201420028Z