自然災害時を含めた感染症サーベイランスの強化・向上に関する研究

文献情報

文献番号
201420023A
報告書区分
総括
研究課題名
自然災害時を含めた感染症サーベイランスの強化・向上に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松井 珠乃(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 永井 正規(埼玉医科大学 公衆衛生学)
  • 齋藤 玲子(新潟大学大学院医歯学系・国際保健学分野)
  • 石黒 信久(北海道大学小児科)
  • 谷口 清州(国立病院機構三重病院 臨床検査部国際保健医療室)
  • 神谷 信行(東京都健康安全研究センター )
  • 中野 貴司(川崎医科大学小児科)
  • 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 西藤 成雄(西藤小児科医院)
  • 高橋 英之(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 蒲地 一成(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 岸本 剛(埼玉県衛生研究所)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 大日 康史(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 中島 一敏(東北大学大学院内科病態学講座 感染制御・検査診断学分野)
  • 堀野 敦子(国立感染症研究所 細菌第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
17,996,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国立感染症研究所感染症疫学センター、地方感染症情報センター、感染研病原体部、地方衛生研究所、大学などの研究者、臨床医などにより、1水平サーベイランス(感染症発生動向調査)の継続的な評価と改善、2垂直サーベイランス(水平サーベイランスを補完する仕組み)の構築、3健康危機発生時のサーベイランスシステムの構築について、サーベイランスの課題を克服するための手法を検討している。

研究方法
1 水平サーベイランスの継続的な評価と改善
「NESIDにおけるデータの質管理のための地方感染症情報センター向けガイドライン(案)」について追加対象疾患等の改訂を行い、「感染症発生動向調査事業における届け出の質向上のためのガイドライン」(以下、届け出ガイドライン)を作成した。また、定点サーベイランスの警報・注意報の基準値の点検・評価、定点把握感染症の罹患数の推計について補助変量の利用等についての検討を行った。地方感染症情報センター向けの感染症発生動向調査解析支援ツールの作製と試用を行った。全国のそれぞれのブロックから選択した計8つの地方衛生研究所に対して病原体(ウイルスのみ)サーベイランスのアンケートを実施した。
2 垂直サーベイランスの構築
臨床医のネットワークによるインフルエンザ等のオンライサーベイランスの運用等を行った。百日咳様疾患を引き起こす病原体4種のPCR法による検出系の開発、髄膜炎菌について咽頭うがい液を用いたLAMP法による健康保菌者からの検出法の開発、急性上気道炎患者検体のウイルス検出系の開発等を行った。
3 健康危機時のサーベイランスシステムの構築
災害後の感染症サーベイランスに関する課題整理として様々なステークホルダーからの情報収集を行った。イベントベースサーベイランス及び公衆衛生イベントのリスク評価システムを導入する上での課題を検討した。 
結果と考察
1 水平サーベイランスの継続的な評価と改善
定点把握感染症の罹患数推計について、補助変量の適応により、定点選定の無作為性の仮定の崩れに伴う過大評価を軽減することが示された。病原体サーベイランスについては、今回の調査対象施設の間で検体の収集方法、検査方法について差がある現状があきらかとなり、全国データとしての解析や他機関データとの比較に問題が生じると考えられた。地方感染症情報センター向けの解析支援ツールにより業務の省力化が図られるとともに流行が広範囲に拡大した場合により簡便に広域での解析が可能となることも期待される。
2 垂直サーベイランスの構築
インターネットによる情報収集システムでは、インフルエンザについては、感染症発生動向調査で得られない質的情報(重症例など)もリアルタイムで収集し、即時に公開している点が、感染症発生動向調査を補完する垂直サーベイランスとしての要件を満たしていると考えられる。
3 健康危機時のサーベイランスシステムの構築
感染症発生動向調査は、大規模な災害の発災早期には、医療機関・公衆衛生当局の被災等により一時的にその運用能力が落ちることが東日本大震災において確認された。一方、イベントベースサーベイランスは、その柔軟性の高さから発災早期においても機能することができる仕組みである。ただし、その情報の精度を一定水準に担保するためには公衆衛生当局や医療従事者等の専門知識を持ったものが、評価をかけていく仕組みが必要である。また、災害医療情報の標準化に向けて関係団体の協同した活動を行い、かつ災害標準記録には主に症候群として感染症情報を収集するサーベイランスシステムが搭載されつつあり、これは公衆衛生当局にとっても有用な情報となりうる。

結論
地方感染症情報センター等の関係者の協力も得て、届出ガイドラインの改訂版を発出することができたことは大きな成果である。また、かねてより、定点設定の無作為性の破綻に伴う過剰推計の課題を本研究班は指摘してきたところであるが、罹患数推計における補助変量の適応範囲を検証するための成果が今年度追加されシステムへの適用の議論が進むことが期待される。
本研究班において開発と検証が進められている複数の垂直サーベイランスは疾患疫学のよりよい記述に有用であり、水平サーベイランスの解釈の助けとなる。本研究班を通じて、百日咳と髄膜炎菌について、簡便な病原体検査法を開発し、実用段階とすることができた。
 イベントベースサーベイランスについては、本研究班の活動を通して、公衆衛生当局の現場レベルでのニーズが確認できた。イベントベースサーベイランスの円滑な運営には、公衆衛生当局と臨床サイドの連携、適切なアセスメント、的確な病因判断のノウハウが不可欠である。大規模災害等の健康危機発生時にはイベントベースサーベイランスが重要な情報源になるため、平時から運用をしておくことが重要である

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201420023B
報告書区分
総合
研究課題名
自然災害時を含めた感染症サーベイランスの強化・向上に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松井 珠乃(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 永井 正規(埼玉医科大学 公衆衛生学)
  • 齋藤 玲子(新潟大学大学院医歯学系・国際保健学分野)
  • 石黒 信久(北海道大学 小児科)
  • 谷口 清州(国立病院機構三重病院 臨床検査部国際保健医療室)
  • 神谷 信行(東京都健康安全研究センター)
  • 中野 貴司(川崎医科大学 小児科)
  • 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 西藤 成雄(西藤小児科医院)
  • 高橋 英之(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 蒲地 一成(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 岸本 剛(埼玉県衛生研究所)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 大日 康史(国立感染症研究所 感染症疫学センター )
  • 中島 一敏(東北大学大学院内科病態学講座 感染制御・検査診断学分野)
  • 堀野 敦子(国立感染症研究所 細菌第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国立感染症研究所感染症疫学センター、地方感染症情報センター、感染研病原体部、地方衛生研究所、大学などの研究者、臨床医などにより、健康危機発生時に備えるためのサーベイランスの課題を克服するための手法を検討した。なお、性感染症サーベイランスや新型インフルエンザのリスク評価等、研究期間の中途で他の研究班と統合した。
研究方法
1 水平サーベイランスの継続的な評価と改善
「感染症発生動向調査事業における届け出の質向上のためのガイドライン」(以下、届け出ガイドライン)を作成した。定点サーベイランスの警報・注意報の基準値の継続的な点検・評価、定点把握感染症の罹患数の推計について補助変量の利用等についての検討を行った。地方感染症情報センター向けの感染症発生動向調査解析支援ツールの作製と試用を行った。全国のそれぞれのブロックから選択した計8つの地方衛生研究所に対して病原体(ウイルスのみ)サーベイランスのアンケートを実施した。
2 垂直サーベイランスの構築
臨床医のネットワークによるインフルエンザ等のオンライサーベイランスの運用等を行った。百日咳様疾患を引き起こす病原体4種のPCR法による検出系の開発、髄膜炎菌について咽頭うがい液を用いたLAMP法による健康保菌者からの検出法の開発、急性上気道炎患者検体のウイルス検出系の開発等を行った。
3 健康危機時のサーベイランスシステムの構築
災害後の感染症サーベイランスに関する課題整理として東日本大震災時の感染症発生動向調査のデータ解析や様々なステークホルダーからの情報収集を行った。イベントベースサーベイランス及び公衆衛生イベントのリスク評価システムを導入する上での課題を検討した。 
結果と考察
1 水平サーベイランスの継続的な評価と改善
定点把握感染症の罹患数推計について、補助変量の適応により、定点選定の無作為性の仮定の崩れに伴う過大評価を軽減することが示された。病原体サーベイランスについては、今回の調査対象施設の間で検体の収集方法、検査方法について差がある現状があきらかとなり、全国データとしての解析や他機関データとの比較に問題が生じると考えられた。地方感染症情報センター向けの解析支援ツールにより業務の省力化が図られるとともに流行が広範囲に拡大した場合により簡便に広域での解析が可能となることも期待される。
2 垂直サーベイランスの構築
インターネットによる情報収集システムでは、インフルエンザについては、感染症発生動向調査で得られない質的情報(重症例など)もリアルタイムで収集し、即時に公開している点が、感染症発生動向調査を補完する垂直サーベイランスとしての要件を満たしていると考えられる。
3 健康危機時のサーベイランスシステムの構築
感染症発生動向調査は、大規模な災害の発災早期には、医療機関・公衆衛生当局の被災等により一時的にその運用能力が落ちることが確認された。一方、イベントベースサーベイランスは、その柔軟性の高さから発災早期においても機能することができる仕組みである。ただし、その情報の精度を一定水準に担保するためには公衆衛生当局や医療従事者等の専門知識を持ったものが、評価をかけていく仕組みが必要である。また、災害医療情報の標準化に向けて関係団体の協同した活動を行い、かつ災害標準記録には主に症候群として感染症情報を収集するサーベイランスシステムが搭載されつつあり、これは公衆衛生当局にとっても有用な情報となりうる。

結論
地方感染症情報センター等の関係者の協力も得て、届出ガイドラインを発出することができたことは大きな成果である。また、かねてより、定点設定の無作為性の破綻に伴う過剰推計の課題を本研究班は指摘してきたところであるが、罹患数推計における補助変量の適応範囲を検証するための成果が今年度追加されシステムへの適用の議論が進むことが期待される。平成26年度に行われた病原体情報収集強化等を骨子とした感染症法改正に合わせて、今後、病原体サーベイランスの仕組みを整えていく活動を行っていく必要がある。
本研究班において開発と検証が進められている複数の垂直サーベイランスは疾患疫学のよりよい記述に有用であり、水平サーベイランスの解釈の助けとなる。本研究班を通じて、百日咳と髄膜炎菌について、簡便な病原体検査法を開発し、実用段階とすることができた。
 イベントベースサーベイランスについては、本研究班の活動を通して、公衆衛生当局の現場レベルでのニーズが確認できた。イベントベースサーベイランスの円滑な運営には、公衆衛生当局と臨床サイドの連携、適切なアセスメント、的確な病因判断のノウハウが不可欠である。大規模災害等の健康危機発生時にはイベントベースサーベイランスが重要な情報源になるため、平時から運用をしておくことが重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201420023C

収支報告書

文献番号
201420023Z