動物由来感染症に対するリスク管理手法に関する研究

文献情報

文献番号
201420015A
報告書区分
総括
研究課題名
動物由来感染症に対するリスク管理手法に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 泰弘(千葉科学大学 危機管理学部)
研究分担者(所属機関)
  • 門平 睦代(帯広畜産大学 畜産フィールド科学センター)
  • 井上 智(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 濱野 正敬(一般社団法人予防衛生協会 試験検査部)
  • 八木 欣平(北海道立衛生研究所 感染症部)
  • 前田 健(山口大学 共同獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
24,737,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
約100種の人獣共通感染症を階層化因子一対比較法で重要度に基づき序列化した。上位20種のうち、早急に対応の必要な5種の感染症(Bウイルス病、リッサウイルス感染症(狂犬病を含む)、エキノコックス症、高病原性鳥インフルエンザ, カプノサイトファーガ症)と緊急課題キンカジュー回虫症について、リスク回避のための有効なリスク管理方法を開発する研究を進めた。これまでのように感染症リスクの警鐘、教育・啓蒙だけでなく、科学的エビデンスを得ると共に、動物由来感染症の有効なリスク管理及びリスク回避方法を開発し、現場に役立たせることを目的とした。
研究方法
研究統括班は、基本的に2か月に1回検討会を開催し、各研究グループの進捗状況の把握、個々の研究の方向性と戦略を検討した。研究統括班会議に研究分担者等を順次招聘し、個別の研究の進捗状況と総括班の戦略を調整し、研究推進や材料採取等のためのコーディネーターとしての機能も果たした。また、年2回の総合班会議を開き、全体で研究班の目的を確認し、各研究に関する情報交換を行った。個別課題については、キンカジュー回虫症は調査結果に基づき指針案とした。Bウイルス病はモデル動物園の研究結果からフリー動物園化が可能であるという結論をだし終了した。狂犬病はガイドラインに基づく実践技術・教育を地方自治体・大学と共同してマニュアル化し、普及を進めた。カプノサイトファーガ症は、臨床家と共同研究を進め、新規の病原性株を分離し、特性の解析を進めた。エキノコックス症は、駆虫薬ベイトの有効性評価と道庁・民間団体等と協力し、フリー区域の確立と拡張を進めた。鳥類以外の鳥インフルエンザの媒介動物の可能性として猪、犬、蝙蝠、放牧豚等の血清疫学調査を行った。
結果と考察
キンカジューの輸入実績調査、汚染状況把握、陽性個体を購入し、回虫卵を齧歯類と霊長類に実験感染した。マウスでは高頻度に子虫の体内移行が認められ、脳に侵入した例も見られた。ミルベマイシンオキシムが駆虫効果の高いことを見出し、成果をまとめて指針案を作成し研究を完了した。モデル動物園のサル山ニホンザルのBウイルス汚染調査を済ませた。繁殖群に陽性個体のいるコロニーではαメールを残し、陽性個体は排除した。垂直感染はみられなかった。間引きした個体で再活性化を調べたところ、4頭中1頭で3年間に1回再活性化が見られた。体内のウイルス潜伏では、PCRにより腰椎神経節に高い頻度で強いシグナルが見られた。疫学調査と合わせて生殖器系感染の可能性が示唆された。カプノサイトファーガ症は、感染・発症例の疫学調査及び調査結果の分析を行い、中高年の男性がハイリスク群であること、猫の掻傷が原因として多いことを明らかにした。遺伝子比較によるC. canimorsusの菌種同定の検討を行い、gyrB遺伝子が有用であることを見いだした。イヌ・ネコ咬掻傷あるいは接触歴のある敗血症例3例から分離された菌株が、Capnocytophaga属の新菌種と考えられることを明らかにした。国内動物での狂犬病発生時の対策として犬での国内発生時の指針を作成(2013)。対応マニュアルの実施研修のために、宮崎県、大学と連携し、陽性犬の捕獲、解剖、検査のシミュレーションを行い、他の自治体の責任者を招いて技術の統一的な基準化を進めた。台湾ではイタチアナグマで多数の陽性例が発見されたため、台湾当局と連携し、野生動物の狂犬病統御法を調査し、新しい指針作成の検討を始めた。エキノコックスは北海道庁等と協力し、キタキツネの汚染フリー区域を作成するため、キツネの駆虫を進め、有効性が評価できた。本州において野犬で陽性となった事例(愛知県)について疫学調査のための検討を進めた。鳥インフルエンザに関しては、フィリピン等で捕獲した蝙蝠の疫学調査、北海道の放牧豚、本州各地のイノシシ、アライグマ、ベトナムのイヌ等を標的に汚染調査を進め感染があることを確認した。
結論
行政への貢献として、国内犬での狂犬病発生時対策として作成した指針とマニュアルの実施研修を行った。宮崎県・大学と連携し、陽性犬の捕獲・解剖・検査のシミュレーションを行い、他の自治体へも統一的な基準の普及を図った。緊急課題として取り組んだキンカジュー回虫症では、必要な研究成果が全て得られたので指針案を作成した。パンフレットを作成し関係者に配布した。民間への貢献としては、Bウイルス・フリー動物園サル山、エキノコックス・フリー北海道地域等、特定病原体フリーのコロニー・地域作成の可能性を提示した。輸入動物や伴侶動物等に関する研究班成果は、大学教育や学会での発表とともに厚労省検疫所研修会、県の動物取扱責任者研修会などで紹介した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201420015B
報告書区分
総合
研究課題名
動物由来感染症に対するリスク管理手法に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 泰弘(千葉科学大学 危機管理学部)
研究分担者(所属機関)
  • 門平 睦代(帯広畜産大学 畜産フィールド科学センター)
  • 井上 智(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 濱野 正敬(一般社団法人予防衛生協会 試験検査部)
  • 八木 欣平(北海道立衛生研究所 感染症部)
  • 前田 健(山口大学 共同獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
100種に及ぶ動物由来感染症について、その重要度を定量評価し、序列化を行った。
Top 20のうち、早急に対応の必要な5つの感染症(Bウイルス病、リッサウイルス病、エキノコックス症、HPAI, カプノサイトファーガ症)と厚労省依頼緊急課題キンカジュー回虫症のリスク評価とリスク回避法開発。これまでのようにリスクを知らせ、国民に警告するだけでなく、具体的で実行可能なリスク回避措置の方法を検討・開発する。
研究方法
キンカジュウー回虫は輸入・国内飼育個体の回虫保有状況調査、動物園個体の駆虫の有効性評価(全て陰性)を行った。ペット用輸入個体に陽性例を確認し駆虫指導した。実験動物を用いたリスク評価は齧歯類、ウサギ、リスザルに感染子虫卵を接種し、マウスに脳幼虫移行症、他の動物では内臓幼虫移行症を確認した。26年は研究成果をまとめ安全指針を作成する。
狂犬病は台湾で行われている危機管理対応について現地の狂犬病専門家と連携し、その対応と課題について検討する。国内で野生動物に発生した場合の安全指針(新規追加分)を作成すべく検討を開始する。高病原性鳥インフルエンザはアライグマ、イノシシのHPAIVの調査を進めると共に、北海道の放牧豚についても、感染の可能性について疫学調査を進める
カプノサイトファーガ感染症は症患者発生状況、感染様式、病原性の解析を進め、飼育者・臨床現場にリスク因子と予防法の情報提供を行う。より高感度で迅速な遺伝子検出法の開発、実験系の構築、患者由来やイヌ・ネコ保菌のカプノサイトファーガ属菌における遺伝的多様性の解析を進める
Bウイルスフリー動物園は日動水協と協議し、調査動物園数をふやし、Bウイルスフリー動物園計画を進める。
エキノコックスはフリー区域の作出を検討。道東南地区等のフリー化計画を進める。終宿主のキタキツネの駆虫と中間宿主のエゾヤチネズミでの原頭節の死滅法の併用を試みる
結果と考察
①指針や通知等として公表(狂犬病、キンカジュー回虫症)
②民間などと協力して行う病原体フリーのゾーニング
   (Bウイルスフリー動物園サル山、北海道の地域別エキノコックス撲滅)
③医師との共同作業による教育、啓蒙(カプノサイトファーガ)
④新規のリスクシナリオと検証(HPAIとイノシシ、アライグマ、放牧豚、コウモリ)
結論
本研究班は感染症統御に有効な手法を開発しようと考え、階層性対比較分析法(AHP法)により動物由来感染症を序列化した。その上で、上位20の重要な感染症のうち、早急に対応が必要と考えられる感染症を選抜した。リッサウイルス感染症、ニホンザルBウイルス病、エキノコックス症、野生動物の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)、カプノサイトファーガ症の5つである。さらに、緊急課題としてキンカジュウ―回虫症を選んだ。緊急課題では、ガイドライン案を作成し、アライグマ回虫症に組込むこととし、研究を完了した。Bウイルスフリーの動物園プロジェクトでは、動物園のサル山ニホンザルのBウイルス汚染調査を済ませた。繁殖群に陽性個体のいるコロニーではαメールを残し、陽性個体は排除した。群の推移、間引きした個体について、再活性化を調べたところ、4頭中1頭で3年間に1回再活性化が見られた。体内のウイルス潜伏では、PCRにより腰椎神経節に高い頻度で強いシグナルが見られた。疫学調査と合わせて生殖器系感染の可能性が示唆された。カプノサイトファーガ症等に関しては、感染・発症例の疫学調査及び調査結果の分析を行い、中高年の男性がハイリスク群であること、猫の掻傷が原因として多いことを明らかにした。また、遺伝子配列比較によるC. canimorsusの菌種同定の検討を行い、gyrB遺伝子が有用であることを見いだした。イヌ・ネコ咬掻傷あるいは接触歴のある敗血症例3例から分離された菌株が、Capnocytophaga属の新菌種と考えられることを明らかにした。狂犬病の対策として犬での国内発生時の指針を作成(2013)。対応の実施研修のために、宮崎県、大学と連携し、陽性犬の捕獲、解剖、検査のシミュレーションを行い、他の自治体の責任者を招いて技術の統一的な基準化を進めた。台湾ではイタチアナグマで多数の陽性例が発見されたため、台湾当局と連携し、野生動物の狂犬病統御法を調査し、新しい指針作成の検討を始めた。エキノコックスは北海道庁等と協力し、キタキツネの汚染フリー区域を作成するため、キツネの駆虫を進め、有効性が評価できた。本州において野犬で陽性となった事例(愛知県)について疫学調査のための検討を進めた。HPAIに関しては、フィリピン等で捕獲した蝙蝠の疫学調査、北海道の放牧豚、本州各地のイノシシ、アライグマ、ベトナムのイヌ等を標的に汚染状況調査を進め、感染歴があることを確認した。

公開日・更新日

公開日
2016-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201420015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
100種に及ぶ動物由来感染症についてその重要度を定量評価し、序列化を行った。
Top 20のうち、早急に対応の必要な5つの感染症とキンカジュー回虫症のリスク評価とリスク回避法開発
①指針や通知等として公表(狂犬病、キンカジュー回虫症)
②民間などと協力して行う病原体フリーのゾーニング(Bウイルスフリー動物園サル山、北海道の地域別エキノコックス撲滅)
③医師との共同作業による教育、啓蒙(カプノサイトファーガ)
④新規のリスクシナリオと検証(HPAIとイノシシ、アライグマ、放牧豚、コウモリ)  
臨床的観点からの成果
(1)エキノコックスのワクチン(イヌ、及びヒト用)及び中間宿主(エゾヤチネズミ、ヒトなど)の原頭節形成阻止剤開発
(2)小型抗体等を利用し、免疫染色による光学顕微鏡下での病理組織診断法を確立し、蛍光顕微鏡などのない施設でも診断可能な体制を構築する(General Surveillanceのため)。
(3)カプノサイトファーガ属菌の迅速、高感度な診断法の開発
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
22件
原著論文(英文等)
55件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
69件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
門平睦代
欧米各国・地域の野生動物疾病センターの活動
日本野生動物医学会誌  (2013)
原著論文2
M.kadohira,G.Hill,R.Yoshizaki,etal
prioritization of zoonoses in Japan with analytic hierarchy process method, Epidemiol. Infect.
published online by Cambridge university press  (2014)
原著論文3
Tokiwa T, Nakamura S, Taira K, Une Y. etal
Baylisascaris potosis n. sp., a new ascarid nematode isolated from captive kinkajou,
Potos flavus, from the Cooperative Republic of Guyana. Parasitology International  (2014)
原著論文4
Tokiwa T, Taira K, Une Y.
Experimental infection of Mongolian gerbils with Baylisascaris potosis.
The Journal of Parasitology  (2015)
原著論文5
Nguyen, A.T.K., Nguyen,etal
Bat Lyssaviruses, Northern Vietnam.
EID,  (2014)
原著論文6
2. Kentaro Tohma, Mariko Saito, Taro Kamigaki,etal
Phylogeographic analysis of rabies viruses in the Philippines.
Infection, Genetics and Evolution  (2014)
原著論文7
亀山光博, 富永潔, 矢端順子,他
種特異的PCR法と分離培養法を用いた山口県内の犬・猫におけるCapnocytophaga属菌の検出状況
日本獣医師会雑誌  (2014)
原著論文8
1)Kimiaki Yamano, Hirokazu Kouguchi, KohjiUraguchi,etal
First detection of Echinococcus multilocularis infection in two species of nonhuman primates raised in a zoo: a fatal case in Cercopithecus diana and a case of spontaneous recovery in Macaca nigra
Parasitol  (2014)
原著論文9
八木欣平、浦口宏二、作井睦子.
ブタの エキノコックス症̶その検出の疫学的重要性
Jpn.J.Vet.Parasitol.  (2014)
原著論文10
Horimoto T, Gen F, Murakami S, etal
Serological evidence of infection of dogs with human influenza viruses in Japan.
Veterinary Record 2014 Jan  (2014)

公開日・更新日

公開日
2016-07-05
更新日
2017-05-25

収支報告書

文献番号
201420015Z