睡眠覚醒の生化学および遺伝子工学とその臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
199800384A
報告書区分
総括
研究課題名
睡眠覚醒の生化学および遺伝子工学とその臨床応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
早石 修(財団法人大阪バイオサイエンス研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 裏出良博(財団法人大阪バイオサイエンス研究所)
  • 佐藤伸介(財団法人大阪バイオサイエンス研究所)
  • 渡部紀久子(財団法人大阪バイオサイエンス研究所)
  • 江口直美(京都大学大学院医学研究科高次脳形態学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生化学的および分子生物学的手法を用いて、睡眠および覚醒の内在性調節物質であるPGD2およびPGD2の作用機構に関する基礎知識を深め、合理的な睡眠異常や睡眠覚醒障害の治療法の開発を目指す。
研究方法
1)PGD2投与後のラット脳切片を作製し、c-Fos蛋白質の免疫組織化学を行い、活性化された神経細胞の分布を調べる。
2)各種アデノシン受容体作動薬をラットの脳内に投与し睡眠誘発効果を測定する。
3)ラットおよびマウスの皮下埋め込み型2ch(脳波、筋電)無線発信器を作製する。
4)動物の脳波と筋電に基づきノンレム睡眠、レム睡眠、覚醒を自動的に判定するソフトを開発する。
5)PGD合成酵素遺伝子を欠損したES細胞をマウス胚盤胞に注入してキメラマウスを作製し、その後、交配によりノックアウトマウスを作製する。
6)ヒトPGD合成酵素cDNAを含むベクターをマウス受精卵に注入し、トランスジェニックマウスを作製する。
7)遺伝子組換え型PGD合成酵素の大量発現系を確立し、精製酵素を用いた結晶化条件のスクリーニングを行う。
8)ヒト脳の可溶性画分に存在するPGE合成酵素の精製を行う。
結果と考察
1)PGD2投与に特異的なc-Fos蛋白質の発現が、クモ膜細胞と視束前野の腹側外側部(VLPO)の神経細胞に観察された。一方、ヒスタミン作動性神経の起始部が存在する覚醒中枢の結節乳頭核(TMN)のc-Fos蛋白質の発現低下が観察された。さらに、VLPOおよびTMNのc-Fos陽性神経細胞数は、それぞれ屠殺前一時間の動物の睡眠量および覚醒量と正の相関を示した。
2)各種アデノシン受容体作動薬の中で、A2a受容体作動薬がPGD2と同程度の強力な睡眠誘発作用を示し、A1受容体作動薬にはその作用がないことを証明した。
3)ラットおよびマウスの皮下埋め込み型2ch(脳波、筋電)無線発信器の試作器を作成した。これを用いることにより、非拘束条件下における小型動物(ラットおよびマウス)の睡眠バイオアッセイシステムが完成した。
4)ラットおよびマウスの脳波と筋電に基づき、5秒間隔でノンレム睡眠、レム睡眠、覚醒を自動判定するソフトを開発した。
5)PGD合成酵素の遺伝子を欠損させた独立2系統の純系ノックアウトマウス(129系およびC57BL/6系)を作製した。現在、その繁殖と系統維持を行っている。
6)ヒトPGD合成酵素を発現する独立5系統のトランスジェニックマウスを作製した。現在、それらの繁殖と系統維持を行っている。
7)大腸菌を用いて発現させたマウスPGD合成酵素の遺伝子組換え型酵素の結晶化に成功し、2.6Åの分解能のX線結晶回折像を得た。
8)ヒト脳の可溶性画分に存在するグルタチオン要求性の異なる二種類のPGE合成酵素を精製し、それらのcDNAクローニングを行った。
考察
研究結果(1、2)により、PGD2による睡眠誘発情報は以下のような伝達機構であると予想される。まず、動物の睡眠要求に依存して脳脊髄液のPGD2濃度が上昇し、前脳基底部脳表面のクモ膜のPGD2受容体を刺激する。その情報はアデノシンA2a受容体を介してVLPOの神経に伝わり、その神経を活性化させ同時に覚醒中枢であるTMNの活動を抑制して、睡眠を誘発する。
研究結果(3ー6)により、遺伝子変異マウスの睡眠覚醒リズムを非拘束条件下に測定するバイオアッセイシステムが完成し、PGD合成酵素の遺伝子欠損や大量発現がもたらす睡眠異常を解析する方法が確立された。
研究結果(7、8)により、睡眠および覚醒の内在性の調節物質であるPGD2およびPGE2の生産を調整することにより睡眠覚醒を調整できるPGD合成酵素およびPGE合成酵素の阻害剤の開発方法が確立された。
結論
内在性の睡眠調節物質であるPGD2は、脳脊髄液を介した液性の調節因子としてクモ膜に分布する受容体を刺激し、アデノシンA2a受容体を介して視束前野腹側外側部の神経を活性化させ睡眠を誘発すると考えられる。又、PGD合成酵素の遺伝子欠損や大量発現がもたらす睡眠異常を解析するシステムを完成した。さらに、PGD2およびPGE2の生産を調整することにより睡眠覚醒を調整するPGD合成酵素およびPGE合成酵素の阻害剤の開発方法を確立した。

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